表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/125

54 立ち入り禁止。入ったらダメ!


 クルーズ船にはエレベーターもあったけど私達は探検もかねて、立ち入り禁止の黄色いロープをくぐりドアを開けて階段を下に降りていった。


 先生の説明によると、私達が使って良いのはプールのあるデッキとレストランに多目的ホールに船室だけだった。くれぐれも探検はしないように言われていた。


 階段を使う人はいないみたいで誰にも会わなかった。賑やかな上の階とは違って下に行くほど静かになるような気がした。


 何だか悪い事をしているみたいでドキドキする。


 クルーズ船の地図は頭の中にある。前を行く虎太郎君に声をかけた。


 「この階だと思うわ」


 ドアを開けて通路に出ると、上の階はカーペットだったけどここはツルツルした床だった。


 「愛梨花ちゃん、デッキはどこにあるの?」


 声を潜めて、虎太郎君が聞いて来る。確か後方だったから右かな。


 「こっちだと思う」


 エレベーターの前を過ぎようとしたときエレベーターのランプがついた。誰かが降りてくる。


 虎太郎君の手を引っ張って急いで物陰に隠れた。


 立ち入り禁止に入ってる幼稚園児なんて怒られる未来しか見えないよ。


 話ながら降りてきたのは体格の良い外国人2人。


 『出発は今夜だ。荷物の確認をしとけってさ』

 『オッケー早くなったな、合流大丈夫なのか?』


 英語だ。王室関係者?


 2人とも短く刈り込んだダークブラウンの髪をしていた。


 出発?もうしているじゃない。


 今夜はまだ海の上だ。


 もしかして、ここからさらに何処かへ?


 クルーズ船には救命ボートや小型船が収容されていたりする。


 密輸?まさか……


 「君達、ここは関係者以外立ち入り禁止だ」


 向こうから大きな声が聞こえたのでビクッと飛び上がりそうになった。


 声をした方へ振り返ると警備員さんが外国人2人に呼びかけていた。


 ビックリした。私達じゃなかった。


 見れば外国人の2人組は大きなジェスチャーで両手を広げた。


 「日本語わかりません」


 仕方なく警備員さんは2人に近づくと、一生懸命に何かを説明している。


 外国人2人は馬鹿にしたように無視していた。


 警備員さんがトランシーバーで応援を呼ぼうと下を向いた瞬間いきなり1人が殴りかかった。


 うめき声を上げて警備員さんがうずくまった。


 それでも殴ったり蹴ったりが止まらない。暴行だ。


 しばらくして動かなくなった警備員さんを、そのまま引きずるように近くにあった部屋へ閉じ込めた。


 私は息をするのも忘れて動けなかった。


 なんて所に遭遇してしまったんだ。横を見ると虎太郎君も驚いて固まっている。


 震える手で虎太郎君の手を掴んだ。目が合う。虎太郎君も真っ青だ。


 私達は目撃者?見つかったら殺される?


 前世読んでいた推理小説では目撃者は大抵消されていた。


 あ~なんて事なの!最近不運続き!


 お祖父様の言うようにお祓いが必要なのかも知れない……


 私は年上で虎太郎君を守らないと、32歳なんだからしっかりしないと。


 自分で自分を奮い立たせる。今は逃げなきゃ。


 外国人達が見えなくなると小声で虎太郎君にささやいた。


 「戻らなきゃ」


 虎太郎君も黙って頷いた。降りてきた階段を上がろうとエレベーターの前を通るとまたエレベーターのランプがつく。まずい。


 「急いで」


 虎太郎君に引っ張られるようにドアを開けて階段に逃げ込んだ。


 エレベーターのドアが開くのと同時?見られた?


 2人で息を切らしながら階段を上がった。


 耳を澄ましてみても、下から人が上がってくる気配はなかった。


 息も絶え絶え黄色いロープをくぐり抜けて最初の通路に出ると、目の前の人にぶつかりそうになった。


 「あっ、ごめんなさい」


 顔を上げるとセレモニーであったグレーのスーツに勲章を付けた外国人だった。


 私の中で警報が鳴るこの人ヤバい人だ。


 『大丈夫ですか?』


 英語だ。わからないふり、自分に言い聞かせる。


 「大丈夫です。ぶつかってすみません」


 お辞儀をすると、虎太郎君の手を引っ張って急いで行こうとした。


 『君は可愛いね』


 何?一瞬固まった。


 聞き間違いかもしれない。今”君可愛いね”って聞こえた。街でナンパするときの決まり文句だ。


 おじさんにナンパされた?


 まさか、そんなはずはないよね。年違いすぎるし。


 自意識過剰かもしれない。嫌すぎて幻聴がしたのかも。最近ストレスが多いからかも知れない。


 いっきに色々な考えが頭の中を巡った。


 とにかく、知らんぷり、知らんぷり。心の中で唱える。


 あれっ?


 前へ行こうとしたけど、動けない?


 手首を捕まれている?


 思わずおじさんの顔を見てしまった。


 グレーの瞳が細められて、興味深そうに私の様子をうかがっている。


 「愛梨花ちゃん?」


 虎太郎君が立ち止まった私を不思議そうに見た。


 「離して」


 精一杯睨んだ。色々あって今は、眼力に自信がない。


 『これは失礼、後でまた会おう』


 おじさんは口の端を少しあげてから、私の頭に手を置いた。


 そのまま、すうっと髪をなぞるように手が下へ移動する。


 ぞわっと背筋が冷たくなって、ヘビに睨まれたように身体が動かなくなった。


 「愛梨花ちゃん集合だよ」


 向こうから翔君とすみれちゃんが駆けてきた。


 その声を聞いたら身体が軽くなった。


 助かった、今のは何だったんだろう。


 虎太郎君の手を握って駆けだした。


 敵は一緒に船に乗っていたんだ。しかも味方の振りをして。


 小説に書いてあった事を思い出した。首謀者は王女様の叔父様。


 王女様に上手く我が儘を言わせてクルーズ船に乗るように誘導した。


 そこから夜の闇に任せて何かを運びだそうとしていた?もしくは受け取り?


 たしか小説では10年後にその時のことがわかったんだ。今じゃない。


 しかも小説とは違って幼稚園生が一緒になった。計画は変更せざる得ないはずだ。


 いくら何でも王族関係者が怪しいなんて口が裂けても言えない。


 証拠があってさえ握りつぶされる。関わり合わないのが一番なんだ。


 どこまで小説を信じて良いのかわからない。ただ何事もない事を祈るだけだ。


 警備員さん大丈夫かな?


 夜には海にポイってされちゃうかも……


 こんなややこしい設定想像していない。どうしよう……


 高島に相談しなきゃ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ