53 水色のボウタイ
乗船すると直ぐに船内ツアーがあって白いセーラー服に身を包んだクルーが船内を案内をしてくれた。
船内ツアーの最後はブリッジで船長の紹介を受けた。
虎太郎君とは顔見知りみたいで”お父様によろしく”なんんて大人なことを言われていたけど虎太郎君大丈夫かな?
ブリッジでは操縦桿まで触らせて貰って男の子達は大喜びだった。
男の子は乗り物大好きだものね。
「入ってはいけないところには黄色いロープが張ってあります。わかりましたね」
有香子先生はそう言うとホールに案内してくれた。
ここでお昼を兼ねた歓迎セレモニーがある。
その後は船にあるプールやデッキに出て良いとのことだった。
午前中に桟橋を出てからは全く揺れなくて船に乗っている感じがしなかった。
セレモニーで今回船に乗っている王室の方がご挨拶なさった。
そこで紹介された方を見て思い出しちゃったんだ。
ルビー王女……明るいブラウンの髪に緑色の瞳。王家の末娘で自由奔放な方だ。
今回の事件はただルビー王女の我が儘だった。それに周りが振り回されたんだ。
”この船が何処まで遠くに行けるのかと思って”なんて冗談じゃない。
しかも側にいるルビー王女の叔父様が実は密輸の取引から目をそらすために利用したんだった。
10年後ぐらいに陰謀説論者達が語っていた。と言う落ち付きだった。
つまりクルーズ船に敵は来ない。
後はルビー王女次第だけど、小説では幼稚園生は水族館に行っている。クルーズ船には乗っていないんだ。
幼稚園生まで巻き込んで、ルビー王女が我が儘言えるとは思えないしね。
う~んその中にいる私はどうしたら良いのだ?
取りあえず身の危険はなさそう。
ルビー王女は若干20歳、ご両親とは別行動で”船に乗りたいわ”と言う我が儘。
最も叔父様が誘導したはずだ。良いように傀儡にされている。
ルビー王女が私達幼稚園生にも一人一人にご挨拶されたいと言うので、皆で一列になって王女様の前まで進んでいった。
ルビー王女は緑色の瞳を優しく細められた。
先生に言われて王女様の前でお辞儀をして名前を言っていく。
私の番が来る。軽くお辞儀をした。
「初めまして愛梨花です。この船はあまり遠くには行かないと思います」
そう言って微笑んだ。ちょっと釘を刺しておこうと思ったの。
通訳の人が耳元でささやく。
驚いた様に目を見開くと、改めて私を見た。
係の人に誘導されて後ろのすみれちゃんが前に進む。
その時にふと視線を感じて顔を上げると、王女様の斜め後ろにたっていた背の高い男の人と目が合った。
品の良いグレーのスーツは紳士のグレーがかった髪に良く合う。
ネクタイではなくてスカーフのような水色のボウタイに金の鎖にダイヤモンドが1つついている。胸にはブローチのように勲章を飾っていた。
これが叔父様か、じっとりとした視線に背中がぞわっとした。
うわっ、何この蛇に睨まれたような感じは?
思わず前にいた虎太郎君の手を掴んだ。
いつも手をつなぐけど私から掴んだのは初めてで虎太郎君が驚いた様に振り返った。
「えへへ」
笑ってごまかすと虎太郎君は何故か嬉しそうに握り返してきた。
今日は高島にもらった水色のリボンの髪飾りをしている。
さっきのおじさんとお揃いみたいで嫌な気分だ。高島のせいじゃないけど……
セレモニーが終わると私達は早速船内探索を始める事にした。
2人一組でまわってトランシーバーの性能を確かめるんだ。
「じゃあ私とすみれちゃんでまわるね」
行こうとしたら虎太郎君が手を取ってきた。
「ダメだ。翔がすみれちゃんと行きたいって」
「えっ?そうなの?」
初耳だ。思わず翔君の顔を伺った。
「まっ、そう言うことで」
翔君が苦笑いする。それを見てすみれちゃんが頷いた。
「愛梨花ちゃん、後でね」
「あっ、うん」
最後にすみれちゃんとまわろうと思っていたけど、まっ良いか。
さっそく二手に分かれて探検だ。私と虎太郎君は船内へ、すみれちゃん達はデッキへと移動した。
「こちら虎太郎、聞こえますか?」
トランシーバーを試している虎太郎君。
実は私のは高島とペアになっている。切り替えが出来るみたいなんだけど、高島が勝手にセットして教えてくれないから自分じゃ出来ないの。流石に陸にいる高島とは通じないよねと思いつつ。
「愛梨花です。応答せよ」
「お嬢様どうしました?」
へっ?聞こえるんだけど……
「高島?今どこ?」
「ご安心下さい。クルーズ船を護衛中です」
「はい?そんな事出来るの?」
「大旦那様からの特別任務で海上警備隊出動中です」
「任務ご苦労様。異常なし」
それだけ言うとトランシーバーを切った。なんだか監視されているみたいでイヤだ。耳から外すとカバンにしまった。
「愛梨花ちゃん、それやらないの?」
「高島と話してもつまらないから」
テロとかもなさそうだしのんびり遊ぶ事にしよっと。
どことなく緊張してたんだよね、何か起こるかと思って、ここの所事件ばかりだったし。
ここには誰も頼れる人いないし。
隣の虎太郎君を見ると物珍しそうにキョロキョロしている。
まだ子供だ。小さいから私が守ってあげないと行けないんだ。
そうだクルーズ船の最後尾の下に小舟を収容できるデッキがあってそこから高島の巡視船見えるかも。
ふとそんな考えが浮かんだ。
「虎太郎君、下の方に降りてみない?」
私はその時、それがどんなに危険なことかなんて考えなかった。




