55 キャプテン
「あれっ?どうしたの?2人とも顔色が悪いよ!」
翔君が心配そうに私の顔を覗き込んできた。翔君にこんな風にされるのは珍しい。いつも我関せずみたいな感じだから。
「愛梨花ちゃんさっきの人大丈夫かな……」
虎太郎君が小声でささやいた。
「虎太郎君、高島に聞いて見る。でもここはまずいと思う。集合なの?」
翔君はいたずらが見つかった時みたいに頭をかいた。
「困っているみたいだったし、あのおじさん目つきがいやらしかったから」
「ありがとう、助かった。まだ時間あるなら部屋に行こう」
すみれちゃんも手をつないできた。よほどひどい顔をしているのかも知れない。
色々気が付いてしまったんだ。密輸って物だけじゃない。人もあるんだ。特に子供。
前世で読んだ本の中に闇オークションで子供が出品されるというのを読んだことがある。
顧客リストの中に世界中の王族や大物政治家、聖職者の名前まであったとか。
事が事だけに公にすると命が狙われてしまうらしい。
この世界がどうかはわからないけれど直感には従いたい。
小説には書かれていなかった。
書けなかったのかも知れない。年齢制限とかあるし、またはそのほかの理由で。
船室に行こうとしたところを先生に捕まってしまった。
先生は私達を見つけると嬉しそうに駆け寄ってきた。
「急だけどこれから王女様が見学なさりたいって言うから皆ホールへ集合よ」
そして、急いでというようにすみれちゃんの手を取った。
「愛梨花ちゃんと虎太郎君は船酔いみたいだからお部屋に行ってもいい?」
すみれちゃんが心配そうに私を見る。
「全員でご挨拶をしないといけないって園長先生が言うのだけれど、気持ち悪いの?」
私は頷いた。先生は困ったわというように眉を寄せた。
急に王女様の見学なんて怪しい。私達のことを目に付けたに違いない。
前世で見たアニメによるとこういう場合は大抵悪役が手を回している場合が多い。
先生達なんてだまされるよね。特に王女様なんて言われたら逆らえないし。
とにかく行きたくはない。
「大丈夫です。虎太郎君と2人で少し休むのですみれちゃんと翔君は行って」
下を向きながらいかにも吐きそうです。みたいな感じで両手で口を押さえた。
「仕方ないわね、園長先生には言っておくから、早く船室に行きなさい」
先生は慌てるようにすみれちゃんと翔君を引っ張って””あなた達だけでも急いで、2人いなくてもわからないから、ここで吐かれても困るわ”とぶつぶつ言いながら行ってしまった。
その間数十秒、素早い、置いてきぼり感半端ない。
無責任な先生だけどラッキーと言えばラッキーか。
「大丈夫?」
虎太郎君に声をかけた。目が合うとしっかりと頷く。
力強いまなざしで見返してきた。
「このままじゃ危ない。ちがう?」
私も頷く。
「ブリッジへ行こう」
虎太郎君が言う。凄い良いところに気がついた。
ここは信用できる大人に相談しないとダメだ。
船長と虎太郎君のお父様は知り合いで虎太郎君も顔見知りだった。
クルーズ船を操縦するところはブリッジと言うんだって、最初に先生から説明を受けた。一番最初に見せて貰ったところだ。
ホールの方を通るのは先生に見つかるからダメだ。
大丈夫ちゃんと覚えてる。外のデッキからもまわれるはず。
デッキから人がいないのを確認して階段を上がってブリッジの前まで来た。
警備のクルーが立っている。
虎太郎君が打ち合わせ通りにお父様からの伝言を届けに来たという。
警備のクルーが確認をしてくれた。西園寺と言えば通してくれると乗船する前に虎太郎君のお父様が言ってたのだ。
そう言えば船長は虎太郎君と挨拶していた事を思い出した。
中に入ると広いブリッジには三人しかいない。意外に人が少ない。立って外を眺めていた船長が振り返った。
「どうしたのかな?」
「警備員さんが殴られた。死んだかも知れない」
ホッとして気が緩んだ虎太郎君が泣き出した。
いきなりとんでもない事を言い出した幼稚園生に驚いた船長が慌てて駆け寄ってきた。
船長が屈んで虎太郎君と目を合わせる。
私は虎太郎君の肩をギュウッと抱き寄せた。大丈夫守ってあげるからね。
「私から説明します」
船長はさらに驚いた様にこちらを見るが私と目を合わせると頷いた。
高島にも聞こえるようにカバンからトランシーバーを出して電源を入れた。
聞こえるかはわからないけどモニターの役割もするみたいだった。つまりこちらの音声だけを拾えるらしい。
私は虎太郎君と目撃したことだけを説明した。後は外国人の話していた会話を。
「どこの部屋に警備員を入れたかわかるか?」
私は頷くと船内の地図で街頭の部屋を指さした。
「キャプテン、護衛船から連絡が入ってます」
護衛船?もしかして高島?
このタイミングで連絡が入ると言うことは私達の話が聞こえている?
「わかった。応答してくれ。副船長、至急、警備員の人数を確認。下の船室も確認するように。3人で行動するように」
「キャプテン、護衛船から数人こちらに渡りたいそうです」
えっ?もし本当に高島が来てくれたら心強い。
あの外国人2人だってボコボコにしてくれるかも知れない。
イヤそれは無理か、2対1だから……
虎太郎君を見るとしっかり聞いていたみたいで泣き止んでいる。
「人数と所属、名前を確認してくれ」
「了解」
「君達は顔を見られたのかな?」
私は首を振った。
「疑われてはいると思う」
船長は安心させるように私の頭を大きな手で撫でた。
「大丈夫だ。しばらくここにいなさい」
立ち上がるとまた私を振り返った。
「君は小さいな、何歳になる?」
「6歳になりました」
船長は驚いた様に大きなため息をつくと頭に手をやった。
「6歳とは思えない。しっかりしすぎだ」
あきれたように言ったその時に、入り口のドアが開き警備のクルーが顔を出した。
「キャプテン、閣下が入室許可を求めています」
うわっ!あの勲章おじさんだよねきっと……
まずい!




