表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おせっかい令嬢は悪役回避してハッピーエンドを目指します!~転生先は現代に似た財閥異世界!?~  作者: 星降る夜
第3章 王国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

164/168

164 二つのお茶会 ― 裏と表 ―


 「おじい様、それは本当ですか?」


 電話の向こうから沈痛な声が聞こえてきた。おじい様にしては珍しい事だ。


 『ああ……』


 短くそう言うと、電話が切れた。僕はしばらく携帯電話を耳から離せなかった。


 愛梨花ちゃんが今のご両親の本当の子じゃない!?でも実の月光院様のお孫さんである事は確かだと?いったいどういう事なんだ?


 考えられることは――いや、そんな単純な話じゃない。

 月光院様の血筋であることは確かで、でも今のご両親の子ではない?

 頭の中で言葉が噛み合わない。


 「龍一郎さん、何かあったんですか?」


 リビングでたたずんでいると、向こうから敬が声を掛けてきた。


 愛梨花ちゃんの事は共有すると決めていた。だが――迷っている場合じゃない。そんな思いが頭をよぎった。いいや、ここは異国の地だ。協力しなければ大人たちの悪意から、彼女を守れない。高島先生も何かご存じかもしれない。


 「ああ、ちょっと話がある。高島先生も呼んできてもらえるかな」


 敬は黙ってうなずいた。たぶん僕の様子から何かを察したんだろう。こいつは鋭いやつだからな。


 高島先生も呼んで、3人で僕が聞いた情報を共有した。高島先生は驚いたようには見えなかったから、すでに月光院様から色々と聞いていたんだと思う。


 敬は言葉を失い、しばらく瞬きすらしなかった。

 まるで頭の中で情報を必死に整理しているように、喉が一度だけ小さく動いた。

 「……そんなことが」

 かすれた声がようやく漏れた。


 「旦那様は、いや、月光院様は今はそういうわけで、動くことが出来ない」


 高島先生は腕を組んだまま、何かを考えるように僕達に言った。


 そうだよな、わずか6歳の子が、両親が実の親じゃないなんて知ったら……。しかもただでさえ、異国の地に連れてこられて――帰る場所すらない。


 僕たち3人は声も出ず、ただ黙って、時だけが過ぎていった。


 「守らなきゃな」


 敬が呟く。

 

 そうだ、僕たち以外に愛梨花ちゃんを守る人はいないんだ。


 優しい笑顔が目に浮かぶ。僕たち兄弟は愛梨花ちゃんに助けられたんだ。


 今度は僕が――あの子を守る。

 何があっても。


 固く心に誓った。



     ♢      ♢      ♢



 シャーロットは、昨日の夜の出来事を思い出しながら、客席の端でかすかに震えていた。

 学校の机で消えたはずのあのネックレスが、なぜか家の引き出しに戻ってきていたのだ。


 ――もう限界だった。


 彼女は今日のお茶会にそれを小箱に入れて持ち込み、誰にも見られないよう、そっとテーブルの端に置いた。


 アナスタシアのお茶会は、まるで舞台のように整えられていた。


 磨き上げられた銀器、淡い薔薇色のクロス、季節の花を飾ったテーブル。

 完璧な笑顔を浮かべたアナスタシアが中央に座ると、周囲の令嬢たちは息を呑むように姿勢を正した。


 「今日は来てくださってありがとう。どうぞ、くつろいでね」


 その声は甘い。けれど、どこか張りつめている。


 アナスタシアの視線が、ふとテーブルの端に置かれた小箱に落ちた。


 誰も触れていないはずのその箱は、まるで“そこに戻るべきもの”が帰ってきたかのように、静かに存在を主張していた。


 アナスタシアはそっと蓋を開ける。


 ――やはり、あった。


 昨日まで行方の分からなかった、あのネックレスが。


 「……ふふ。やっぱり、私のところに戻ってくるのね」


 その微笑みは、花の香りよりも冷たかった。


 周囲の令嬢たちは気づかない。

 アナスタシアの胸の奥で、その奥にあるものに気づく者はいなかった。


 「アナスタシア、龍一郎は来ていないの?」


 友人に聞かれて、アナスタシアは何気ない風を装った。


 「ふふふ……リュウは忙しいみたいで」

 「あら、そうなの。聞くところによれば、ローラント殿下が1年生の子が催すお茶会に行っているとか」

 「サァーシャって子でしょう?」

 「ええ、大公殿下が保護しているって」


 クラスメイトたちがサァーシャの噂を楽しげに続ける。

 アナスタシアは笑顔を崩さないまま、指先に力を込めていた。


 気づけば、手に持っていた花束の茎がきしりと音を立てている。


 ――どうして、あの子ばかり。


 リュウの視線まで奪うなんて。


 箱の中のネックレス。


 ルビーは、誰にも見られぬまま、静かに輝きを増していた。



  ♢      ♢     ♢



 「サァーシャ、ずっとオーブンの中覗いてるのか?」


 ローラントがつまらなそうに聞いてきた。昔から、お菓子が膨らむのを見るのが好きなの。敬君は黙って一緒に覗いているのに、ローラントときたら、テーブルの上のチョコレートをつまんでいる。だから甘いものがやめられないのよね。


 「敬君、見て、きれいに膨らんでいるわよね」


 敬君は私の頭に手を置くと「本当だ」と言って頷いた。


 焼き菓子の甘い香りが厨房に漂い出した。ティールームでは、龍一郎君がエヴァ先輩とレム君の相手をしてくれている。ローラントも向こうに行けばいいのに、食べ物のある方に引っ張られるみたいなのよね。

 ローラントも向こうに行けばいいのに、やっぱり食べ物の方なのよね。

 

 オーブンからケーキを取り出すのは、危ないからと、敬君がやってくれた。今日のお菓子は、お抹茶と小豆のパウンドケーキ。抹茶はこの国でも人気らしいけれど……みんなのお口に合うかしら?


 「おお、いい匂いだな。端でいいぞ、ちょっと切ってくれないかな」


 伸びてきたローラントの手をパシッとはたいた。


 「まだ熱いからダメ。冷めたらね」


 「サァーシャ、運んでやるよ」


 ローラントは、待ってましたと言わんばかりにワゴンへ手を伸ばした。

 その素早さに、私は思わず肩をすくめる。


 ケーキをのせ終わると、彼は当然のようにワゴンを押し出した。


 「ちょ、ローラント? そんなに急がなくても……!」


 けれど彼は振り返りもせず、軽い足取りで廊下を進んでいく。

 ほんと、こういう時だけ王家の行動力を全力で発揮するんだから。


 「こぼさないでね~~~!」


 私の声が廊下に響いた。


 ……まったく、食いしん坊なんだから。

 でも、少しだけ安心した。






   

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ