表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/10

スライムに起きた奇跡

言い忘れていましたが、イェリスの歳は13です。

さっさと彼女がほしいと思っていますが純情です。



「――さあ、ぜひ飲んでくれ。わし孫のはお茶を入れるだけが取り柄だからの」


「……じいちゃん、いいかげん魔法の腕も認めてくれよな?」


あれから奥の部屋に案内されたぼくたちは、正面に大魔法使いのローズ――そしてその正面にぼく、アリシエ、ラインという座席順で座っていた。エプロンを着ながらお茶をそそいでくれたイェリスは、さっきまでと違いすこし殊勝な雰囲気をしている。


「……なんだよ」


珍しいものを見る目をしていたラインに、彼は問うた。


「ああ、いえ。イェリスさんが茶道に優れているなんて、

なんだか以外だなあと思いまして」


「ぐぬっ……バカにしてんなあ? このくそガキ」


「これ! お前も年の瀬はそんなに変わらんじゃろうが、イェリス」


引きつった笑みを見せるイェリスに、ローズが一喝する。

その言葉に彼は鼻を鳴らしていった。


「はんっ。俺はこいつらとは違げえよ、じいちゃん。――俺はもう、中等部の大人だ! 町中での魔法も使用許可が出るようになったし、中位魔法も使えるようになった。こいつらとは格が違う!」


「ならイェリス。お前には、さっきの融合魔法が使えるのか?」


「そっ……それは……」


言葉につまるイェリスに、ローズは少しだけ悲しい目をして。


「いいかイェリス。お前に足りないもの――それは他者をバカにしてしまう愚かさだ。己を大人というのであれば、その幼さにいいかげん気づきなさい」


「……はい」


イェリスは、すなおにその言葉を受け入れていた。

偉大な祖父の言葉に、響くものを感じたのだろう。


「――悪かった、ライン。許してくれ」


「いえ、イェリスさんが謝るようなことでは」


やはりラインには、大人の風格のようなものがある。

歳が上であるはずのイェリスがたじたじな様子だった。


「……おほん。話がそれてしまったな」


ローズが話の流れを切ると、みなが彼に注目する。


「――スライムのきみよ」


「は、はい」


呼ばれたのは、以外にもぼくの名前だった。


「きみはアリシエちゃんの話によると、もともとスライムだったとか」


「は、い。ぼく、は。ただのスライム、です」

「ふぅむ。人の言葉は、どうやって学んだ?」


「ずっ、と見てました――道行く冒険者たち、を」


「独学か。勉強が好きなのかの?」


「いいえ」


「なら、なぜ人語を学ぼうと思った?」


ぼくは、心からこみあげた笑顔で言った。


「――にん、げんが。好き、だから」


「――ほっほっ。そうか、そうか」


大魔法使いは、うれしそうに笑った。


「もっと聞かせておくれ」


それから、ぼくは話した。生まれてからずっと人にあこがれていたことを。そして、彼女との出会いを。エリとの過去を。人間と触れ合った、わずかな記憶を彩るようにして――ぼくはしゃべった。


「なるほどのお。なかなかどうして、すばらしい夢と絆じゃ」


「……あの、ローズ様」


「ふむ。何かな、アリシエちゃん」


「ローズ様には、どうしてゼラが人間になったか、わかりますか?」


その質問には、ラインも興味を示したらしい。

みんなが大魔法使いのつぎの言葉に耳を傾けるなか、

彼はゴゴゴゴッ……っと丸い顔にしわを刻んでいった。


「――まぁったく検討がつかぬのお!」


「いや、分かんねえのかよ!」


盛大に突っ込んだのは、

もちろんイェリスである。


「ワハハハ! でものお、これだけは言えるぞ」


ひとしきり笑ったローズは、しみじみと噛みしめるような声を出す。


「――それはの、まちがいなく『魔法』じゃよ。

アリシエの魔法が、奇跡を起こしてくれたのだ」


大魔法使いは優しくほほえんで自分のひげに手をやった。

その目は過去を追憶するように狭められ、

ときおり「ほほっ」と小さく笑っていた。


「ああ、思い出すのお。契約した龍とともに大陸を渡り歩いた――あの奇跡のような時間を」


「……じいちゃん」


「ときにイェリス。魔法は、何のために存在すると思う?」


彼は頭をむしると、「またその話かよ。耳にタコができるほど聞いたぜ」と、吐き捨てるようにいってから。


「魔法とは、『習慣化された奇跡の具現化』――だろ?」


「そのとおり。魔法とは――人間の生きた年月の努力を凝縮させた、奇跡の具現化と言い換えていい。そして、そんな奇跡を起こすことを生業として、習慣化することに成功したものを――人は、魔法使いと呼ぶのだ」


ローズはぼくたちに言い聞かせるようにして、言葉を続ける。


「――人は魔法で大地を揺るがし、水をあやつり、炎を起こし、風を吹かせ、氷を生み出し、ときに恵みを。ときに天災をもたらしてきた。そんな栄光とあやまちの果に、今のわしらの魔法は成り立っている。魔法が奇跡であることを、先人の知恵であることを理解できない人間は……いつまでもその極地を知ることはできないであろう。――だから、才能ある若人たちよ」



老いた大魔法使いは、


「どうか、よき魔女になってくれ。そして、ゼラのように――モンスターに憧れを抱かれるような、そんな誇らしい人になってくれ」


切にそう願っていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ