スライムの友だちの友だち
☆
「――ようこそ、魔法学院の少年少女たちよ」
城のような家の大広間でぼくたちを出迎えたのは、まるで降り積もった雪のようにまっしろな髭を、たくさんあごにたくわえた小柄のおじいさんだった。
アリシエたちが紫色のローブを着ているのに比べて、彼が着ているのは、純白の貴族衣装のような衣服だ。あれは男性用の魔導服である。
それも、胸や肩にはくたびれた勲章がいくつも見える。
「わしは城主のローズ。それで、コッチの若造が――」
「大魔法使いの孫、イェリスだ! よろしくなチビッ子ども!」
どこからともなく現れ、おじいさんのとなりに立ったのは大魔法使いの孫と名乗る男――イェリス。
彼は荘厳なふんいきを放つおじいさんとは一線を画し、チャラついてはいるが、それでいて近寄りやすいフレンドリーな立ちふるまいをしている。
緊張していた子どもたちも、ほほを緩めてよろこんでいた。
しかし、やはり大魔法使いとしてはその態度を改めてほしいようだ。
その証拠に、ローズは肩を落としていた。
「……まあよい。イェリス、しばらく下がっておれ」
「なっ。じいちゃん、これからがいいところなんだぜ!? よーし見てろよチビっ子諸君! 今から俺の風魔法で、あのじいさんのまゆみたいな髭を揺らしに揺らして――」
「――イェリス」
「……へい」
ローズの気迫におされ、涙目で退場していくすがたも笑いを誘った。
「おもしろい方ね」
「あはは……」
ラインとアリシエも楽しそうだ。さっきまで緊張していた子どもたちも、彼のおかげで今ではわくわくした表情で次のアクションを待っている。
「――さて、今日は学院のみんなの『自由研究』を見せてもらう予定になっているが……我こそは、と自信のある子はおるかな?」
イェリスの笑いの効果もあってか、子どもたちは次々に手をあげた。
「ほっほっ。元気がいいな」
大魔法使いも、手応えがあることに嬉しそうだ。
「では、順番に見ていくことにしよう。――先生」
「はい」
ローズが先生に、生徒たちがそれぞれ発表するように促した。
発表会が始まる。
☆
自由研究の内容は、十人十色だった。さまざまな魔法についての考察や研究、マンドラゴラの種を育てた観察日記、初級の創造魔法を駆使して作ったねんどや雑貨など――さまざまな発表が時間とともに溶けていった。
「ふぅむ。みんな、面白い発想と着眼点だ」
お爺ちゃんのローズもほくほくである。
半分ほどが終了したあと、
順番が回ってきたのは。
「――つぎは私ね」
ラインであった。
「つぎは茶髪の君か。ふむ、どんな研究をしてきたのかな?」
「はい。私の研究内容は、単属性の魔法と――その融合です」
「――ほう?」
その瞬間の大魔法使いの目つきは、今までのほっこりとした表情とは別物だった。
なにかを期待するような、そんな眼差し。
「実演しましょう――炎よ、起これ 水よ、沸け」
ラインは、本来魔法の触媒になる杖も使わず、
水平にかまえた両手から炎と水を作り出した。
「……やるな」
となりにいたイェリスも、無意識につぶやくように言った。
反応がいいことを確かめたラインは、つぎの詠唱を始める。
「その理は2つとなく、ただ1つの根源と化せ。属性融合!」
彼女は2つの属性の魔法を、まるで磁石でもくっつけるかのように近づけた。すると、詠唱が終わると同時、彼女の両手にあった炎と水は融合し――その手に握られていたのは、激流のなかで炎のたつまきが渦を巻いているような模様の球体だった。
「――素晴らしい」
淡い光を放ち、かげろうのようにゆらゆらとうごめくそれを眺めて、ローズは言った。
「高等部の生徒でも錬成が難しい属性融合を、まだ荒削りではあるがよくぞそこまで」
「ありがとうございます」
彼女はほっとしたように息を吐くと、指を鳴らしてその球体を消した。
生徒たちはその圧倒的な技量にざわめきを隠せていなかったが、それれもそのはずだ。彼女は、ラインは――高等部の生徒でも扱いにくい魔法を――大魔法使いの太鼓判付きで実演して見せたのだから。
汗をぬぐって列へと戻るラインに、アリシエは声をかけた。
「さすがだね。でも……わたしだって負けないんだから!」
「きたいしてるわ。――次はあなたの番よ、アリシエ」
そのとおり。
つぎは、ぼくたちの番である。
忘れていたましたが、そういえば目玉おやじよりも印象深い夏休みの自由研究がありました。
とあるクワガタの観察日記です。
「ガ太郎(クワガタ太郎、略してガ太郎)」と名付けられたそのクワガタは、ある日親父のお手製の鉄網を一週間かけて食いちぎり、外へと羽ばたいていったのです。羽を広げたその瞬間を見たわけではありませんが、彼を飼い始めてからちょうど一週間目のその日、ガ太郎は巣箱のどこにもいませんでした。
彼はずっと網をガリガリとしていました。仰向けになって死にそうになっていたときもありましたが、スイカで水分を補給し、ゼリーで体力をつけ、やつは大空へと飛び立っていったのです。
その日記を先生に提出したら、「感動した」と一言赤ペンで書かれていました。
いい思い出です。




