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まだまだただのスライムです

執筆中小説の方からコピペしたので、改行の幅が広くなっています。





空の上できゃっきゃとはしゃぎまわる女の子は、


無邪気な瞳をしながら――ぼくを指さしていた。




……あれ? なんか、こっちに来る……!?




に、逃げろ……! 


頭がそう理解しても、鈍足なナメクジのようなスライムの足では、魔女のほうきのスピードに勝るわけもない。




「スライムだー……!」




太い幹のうえに着地した少女は、「ふわ〜……」と声をもらしながら冷や汗をたらした僕を見下ろしていた。


たしかにぼくは普段から森に身を潜めているから、魔女たちとも直接エンカウントする機会は少ない。でも、ぼくみたいな低級のモンスターに、どうして彼女はそんな光る目を向けているのだろうか。




「絵本で見たのとおんなじだ! ねえ、お母さんっ」




「あら、本当ね。スライムは、久しぶりに見たわ」




ぼくは「お母さん」と呼ばれているこの女性を、見たことがあった。


あれはたぶん、十年ほど前のことだろうか。まだ彼女が今よりも幼いころに、一度だけあった覚えがある。クリームのような柔らかい乳白色の髪の毛が印象的で、その頭には魔法学院の生徒である証のぼうしを、ひっかけられるようにして被っていた。






『……ごめんね。私いまから、あなたを倒さなくちゃいけないの』






彼女はそうして、ぼくに杖をかまえて言った。


なにやら、魔法学院の『ソツギョウシケン』とやらで、さまざまなモンスターを倒して上に報告しなくてはいけないだとか、なんだとか。そのとき彼女が独白してくれたすべてを理解することはできなかったけど、確信したことはあった。ぼくは彼女に、殺されてしまうのだ。




正直、ちびりそうだった。とても怖かったし、実際に体内に蓄積された水分が体中から冷や汗になってどばどばと出てきた。……でも、自然と目の前の女性を恨むことはできなかった。そのときに思ったのだ。ああ、ぼくは人間が好きなのだ、と。




ぶるぶると震えながら、魔法が来るそのときを待つ。


しかし、このゼラチン質の体が爆ぜるようなことは、


いつまで経ってもおきなかったのだ。




「――ちょっと、エリ! いつまでスライムなんかに手こずってるの!?」




どうやら彼女は、躊躇しているらしい。




その後ろから同じ制服と帽子を被った少女が声をかけた。


エリと呼ばれた彼女はふりむくと、大きな声で言ったのだ。




「こんな小物、倒しても倒さなくてもスコア変わらないわよ」




彼女はくるっと、一度だけふりむいた。そして小さな声で言ったのだ。




『ごめんね、バイバイ』







あのときの女性だ……!




彼女はあれから、ちゃんと魔法使いになれたのだ。そして母となり、子を産んだ。目の前でむじゃきにぼくを見てほほえむ小さな女の子は、エリにそっくりな輪郭とクリーム色の髪の毛をしている。




ぼくを助けてくれた恩人は、幸せになってくれたのだ。




「――」




体のどこかから、ぽつりと水がこぼれた。


何も怖くはないのに、それは止まらない。


――ああ、これが人でいう『ナミダ』なのか。




「……泣いてるの?」




ハッとして視線をあげると、心配そうな少女が視界に映る。


やはりエリにそっくりだった。




「もう。アリシエがはしゃぐから、怖がっているのよ」




「そんな! こ、こわくないよー……?」




こちらをいたわるように手を伸ばす――アリシエ。




「ふわー……」




まずはつんつん、と。確認するように指でつつく。


次にこちらが拒絶しないと見るやいなや、


すぐに両手を使ってぼくを持ち上げて(!?)、


笑いながらブニブニとこねくり回していた。




「あはは、おもしろい!」




こらこら……とエーリはなだめながらも、自分の娘の喜ぶすがたに頬を緩めているようだった。




そんな姿をみていると、表情筋がないぼくもほほえましい気分になってくる。


上機嫌になって揉まれるがままにブニブニされていた、そのとき。


――彼女の足がもつれて、幹から落ちた。




「アリシエ!」




とっさにエリが手を伸ばす。アリシエも手を伸ばしたが、あとちょっとのところで届かない。投げ出されたぼくは幹に着地することができたが、弾力性のない人間の彼女がこのまま地表に落ちたら大惨事だ。




「お母さん!」




泣きながら地表へと落下するアリシエ。




――そんな……!




動けよ、ぼくの足。


スライムだからどうこうなんて関係ない。




彼女を、救え! 


エーリに恩を返すんだ!!




「―――ッ!」




ビュンッ! と、ぼくはその一瞬だけ、空中を駆けた。


自分の唯一の武器である弾力を利用し、堅い幹から跳躍。


それからアリシエの落下スピードを上回り、彼女が地表に落ちるすんぜんに、ぼくが彼女のクッションになった。




ぷぎゅっ。




自分の体から、鳴ってはいけない音がした。




「――スライム!」




自分の状況をいちはやく理解し、ぼくを気遣ったのはアリシエだった。




……強い子だ。


とても怖かったろうに、自分よりぼくみたいな低級モンスターの心配をしてくれるのか。


大きな瞳になみだをたくさんためて、ぼくの平べったくなった体をもう一度抱いてくれた。


強く、優しい子だ。彼女を助けることができてよかった。それだけのことでも、ぼくがこの世界に産まれ落ちた意味があると本気で思えた。




エリ。これであのときの恩は、返せた……かな……?




――それからの記憶は、まっしろな闇に閉ざされた。



さいきんよく誤字るのでどこかしら間違えていると思います……

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