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3/10

言わずもがなただのスライムです

まちがえて二話目を早い時間に投稿してしまいました……w





「ぇ――ら……ラ――…ゼラ……!」




どこからか声がした。まっしろになった視界のなかで、さっきの少女の声が――アリシエの声がする。




「――」




視界が開ける。そこには、また泣きそうな顔をしてこちらを見るアリシエがいた。そしてほっとしたように胸をなでおろすエリの姿も。ここはどうやら、彼女たちの家のようだ。落ち着いた木造の家で、目の前では暖炉がパチパチと爆ぜている。ぼくは、木製の作業台のような場所で横になっていた。




「よかった……! ゼラ、起きた……」




「粘着質な薬草を混ぜ込んだのがよかったのね。本当に、よかった……」




正確には、ぼくには目がないので、なんらかしらのアクションを起こしたことでぼくの意識が目覚めたことを確信したのだろう。アリシエは飛び跳ねて喜び、ぼくを見てもう一度呼んだ。




「ゼラ」――と。




「あなたの名前よ、ゼラ。お母さんに聞いたら、ぜらちんしつ? で、スライムは作られてるって聞いたから。あたまの二文字をとって、ゼラ。気にいった?」




目をさましたら、名付けのサプライズが待っていた。




ゼラ。


ゼラ、ゼラ。


頭のなかで、なんども響きを確認した。




何年生きているかは、もう忘れた。


でも、名前をもらったのは初めてのことだった。




「ゼラ」




つぎにぼくの名前を呼んだのは、エリだった。




「娘を助けてくれて、ありがとう」




「――」




それはぼくのセリフだよ、エリ。




そう口に出したかったけど、言葉を発する声帯は、ぼくにはなかった。







それからぼくは、彼女の家で暮らすことになった。


アリシエは毎日、ぼくのことを気がすむまで揉んだ。どうやらぼくの体は冷たくてスベスベしていて、気持ちいいらしい。ぼくも彼女の柔らかい手のひらが気持ちよくて、つい触らせてしまう。


父、母、娘の3人家族はとても暖かくて、今日のことをエリが父親のトーマスに報告すると、彼はぼくの平べったい体をなんども「ありがとう、ありがとう」と叫びながら撫でていた。


大きく、ゴツゴツとした温かい手だ。どうやら木こりらしい。


この木造の家も、彼が切り倒した材木で作られているそうだ。


自慢の家と家族だ、と彼は言った。そのとおりだと、ぼくは思った。







「今日はね、ゼラ。かわった色のやくそうを持ってきたの」




彼女はそう言って、今日もぼくの目の前にたくさんの薬草を並べた。


あとから分かったことだが、彼女の年齢はぴったり9つのようだった。今までおままごとのようにぼくに何かを差し出してきたりするものだから、てっきりもっと下かと思っていた。しかし、ぼくが『おままごと』だと思っていたそれは、もっと実用的なものだったらしい。




『――アリシエは、あなたを夏休みの自由研究の題材にするらしいの』




ある日、エリは苦笑しながらぼくに言った。




『ごめんね。うっとうしいかもしれないけど、我慢してあげて』




彼女はぼくのことはおぼえていないようだった。それもそうだ。表情のないまるっきり能面のスライムを、それも十年前のささいな記憶をおぼえているはずがない。少し寂しかったけれど、しかたのないことだった。でも、それを帳消しにするくらいアリシエと過ごす毎日は楽しくて、流れるようにときは過ぎていった。




そして、今日。




ぼくの目の前には、さまざまな薬草が並べられていた。




「この中から、すきなのをえらんでね」




……といっても、どれも毒々しいことこの上ない。




水色と黄緑の斑点模様だったり、あきらかに真っ黒な葉っぱだったり。ぼくは見たことはないけれど、やばい取引の現場とかにありそうなブツもある。


今日は、いちだんとヤバそうだぜ……。


ごくり。




エリは言っていた。




『――アリシエは、あなたが薬草をとりこんで、何色になるかの研究をしたいんだって。もし嫌なら、断ってくれてもいいんだけど……』




ぼくは、彼女のそのことばに首(は、ないけど……)を振った。


純粋なアリシエの好奇心は傷つけたくないし、なにより彼女は聡い。成長したら、きっと頭のいい秀才になる。ぼくはその手助けがしたいんだ。それにぼくには、人間と違って味覚はない。いや、正確にはあるが、人間に比べて特段に薄いのだ。今まで食べさせられた薬草には、ぼくの体内はどんな反応も示さなかった。




……だからと思って、油断していた。




「――ッ……!」




まずい……。


美味い、まずいという味覚を感じたのは今日が初めてだった。今日の薬草に比べたら、今までの葉っぱなんて上質な紅茶のようにさえ思える。




それも、苦い。なんだこの葉っぱは……。




「ぜ、ゼラ?」




なんだか、気分が悪くなってきた。


少しだけ横になろう……。







ぼくが目をさますと、窓辺に映っているのは太陽ではなく、月だった。




近くでアリシエの寝息が聞こえる。どうやら眠っているらしい。寝息に合わせて体が小さく上下していた。肩までかけられた毛布が、そのせいでずれていた。




「しかた、なぃ、なあ。アリシ、は」




毛布の位置をなおしながら、その幸せそうな寝顔にぼくはつい声をもらし――



………声?




おや、ただのスライムのようすが……

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