第十二話 海賊の制圧
「ニケ、右舷側船首砲準備。当てる必要はない。海賊船の手前に着弾させろ。……そうだ。そのあたりでいいだろう」
提督デスクのコンソールに表示される艦首砲二門の予想着弾位置が手前にずれる。停止している二隻の後方に回り込むような進路を取っているが、現在地から見るといまだ海賊船と商船は重なり合って見える。海賊に大砲を当てたら商船まで貫通して被害を出しました、ではまずい。
「発射。防御フィールド展開。海賊船の反撃に注意しろ」
『船首砲発射。防御フィールド展開』
二門ある船首砲は砲塔を自動で右に旋回させ、同時に砲弾を発射した。ニケ号は青白い燐光を全体に薄くまとう。これでもし反撃されても、自動で魔法のバリアが防いでくれる。ただ、現実になった世界で防御フィールドがどこまで砲弾を防いでくれるのかはまだ未知数だ。船首砲の砲弾が海賊船の手前に着弾。水柱が二つ、大きく上がる。商船に突撃していた海賊船は新手に動揺しているようだ。モニターに表示される彼我の距離が縮まってゆく。距離千五百……千……五百……撃ってきた!
「総員衝撃に備えろ」
「はい!」
海賊船の腹から打ち出されたのは丸い砲弾。目に見える敵意が恐ろしくて体がすくむ。セイフティバーを握りこむ手に力がはいる。あれが当たれば俺は死ぬかもしれないという恐怖で喉がひりつく。もしも銃で撃たれたときに弾丸が見えてしまったならばこんな感じなのだろうか。かすかな放物線を描いてこちらにばらばらと十数発が飛んでくる。だが、こちらの艦のスピードが予想以上で進路を読み切れなかったのだろう、大部分は艦の後方に外れていく。わずかに二発の弾丸が艦の後尾を覆う防御フィールドに斜めに弾かれた。ニケが出してきたカタログスペックでは可能だろう、とのことだったけど本当に大砲の弾丸をはじくのか……。もっと威力の高い攻撃があるかもしれないし過信はできない。だがこれならば甲板の危険度もかなり軽減されると言ってしまってよいのではないか。
「よし、このまま二隻の後ろから回り込む。船尾砲があるかもしれないな。……防御フィールドを維持したままで魔力砲は撃てるか?」
『魔力の消費量は増えますが可能です』
「じゃあそれでいこう。面舵いっぱい、速度二十。……次の攻撃の目標は海賊船のマスト。当たらなくても帆を傷つけられればいい。とにかく派手に海賊たちの目を引き付ける。魔力砲、続けて三発だ。……よし、発射!」
『面舵三十。速度二十。……魔力砲、発射』
海賊船の後方50Mを回り込みつつあるニケ号から、防御フィールドと同じ青白い燐光を放つ一メートル四方の薄い板のような塊が発射される。するとどうだろう、三秒の時間差で放たれた魔力砲は一発目で海賊船のメインマスト(船の中央にある最も長いマスト)上部を砕き、二発目が同じくメインマストの中ほどを折りつつ張られている帆を引きちぎる。三発目はフォアマスト(メインマストの前方にあるもう一本のマスト)を僅かにそれて帆を引きちぎった。予想以上の攻撃力だった。落下するマストには見張りだろうか、何人かの海賊がいたが、魔力砲の直撃を受けた海賊は血を噴き出しながら飛ばされていった。あれは死んだだろう。……俺が、殺した。
「なんじゃこりゃあ……えげつねえ」
「……そう、だな。ニケ、このまま商船の左舷に接舷する。コースを表示しろ。うん、それでいい。接舷開始。細かい微調整は任せる」
『接舷開始します』
ゴメスのあきれたような声を聞きながら、胃のムカつきを必死でこらえる。目を逸らすな。これからだ。戦いはまだこれからなんだ。俺は従者のあの子達に命令して、もっと多くの海賊を殺させるのだから。この選択の結果から、目を逸らしてはいけないんだ。
「ニーナ、ランス、イオ、キッカ。準備はいいか。乗り移るときには助けに来たと連呼しろ。まずは商船の船員に加勢だ。形成を逆転させてくれ。みんな、頼むぞ」
『はっ』
海賊たちは急にあらわれた艦に正体不明の攻撃でマストを折られて混乱しているようだ。商船の上での勢いが弱まっている。これなら乗り移るのに問題はないだろう。
「いいか、絶対に死ぬなよ。冷たいようだが、商船の人たちよりも自分を第一にしてくれ。これは命令だ」
『あいよっ』
『了解しました』
商船の左舷にゆっくりと接舷する。指揮所からはわからないが歓声が上がっているようだ。艦から伸ばしたタラップを駆け抜けて飛び出したイオは打撃で、ランスロットは魔法で海賊を打ち倒し、敵から放たれる矢は風のバリアで叩き落していく。イオは火の魔法が得意なのだが、船上ということもあって打撃を中心にしているようだ。途中からは倒した敵の剣やナイフを拾って利用している。少し遅れてニーナが商船の負傷者を守りながら二人をカバー。こちらの舷側に残ったキッカは遠距離から魔法で援護。従者の彼らはそれぞれ戦闘スキルを取得していた。イオは打撃と剣術、投擲、火魔法などだ。彼らのスキルは現実となっても有効なのだと確信させる動きをしている。従者たちはMPOにおいて最高のレベル100だった。戦闘系、魔法系のそれぞれのスキルで高ランクスキルが揃っていた彼らの戦いぶりはすさまじく、危なげがない。
ひとりの海賊が、降参したと見せかけて、一度は捨てたカットラスを拾い上げて後ろを向いてしまったイオに斬りかかった。イオはまるで後ろにも目がついているかのように余裕を持って振りむくが、イオが対応するよりも早くニーナがランクⅠのアクアショットで盗賊の胸を撃ちぬいていた。ランスロットが風の刃で向かってきた海賊の首を半ばまで斬りとばし、鮮血が舞う。キッカは土魔法で石や岩を撃ち出している。商船の甲板上よりも海賊船に残っていた銃器を持つものを狙っているようだ。あれは土魔法のラピスショットなのだろうか。距離があるために即死させるまではいかないようだが、ゲームではあの魔法はあんなに射程が長くはなかったはずなのだが。
「早く諦めろ。……降伏してくれ……!」
圧倒的な強さの従者たちが、表情を変えずに人を殺していくさまが恐ろしい。これが暴力の具現。だが彼らは俺が望んだからあの戦場にいる。強烈な罪の意識と自己嫌悪の炎が心を灼き、セイフティバーを握ったままの手が震える。だが、命令した俺には怯えることなんて許されない。握りこんだ右の拳をデスクに打ち付けて気合を入れる。……音声を切っていてよかった。映像だけでこのざまなのだ。悲鳴まで聞こえていたら、俺の弱い心は耐えられなかったかもしれない。
激しい戦闘は長く続いた。マストを折られて逃げ出すことすら出来なくなった海賊船だが、従者たちの参戦によって不利になってもなかなか降伏しない。結局、海賊船まで乗り込んだイオが敵のボスを打ち倒すことでようやく他の海賊が降伏し戦闘は止まった。モニタの時計を見ると昼を過ぎている。長い、とても長い時間がかかったと思っていたが、戦闘開始からわずか一時間しか経っていなかった。
『提督、海賊の組織的な抵抗は止みました』
「……ああ。よく……やってくれた。みんな、お疲れ様」




