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第十一話 ブリーフィング

「そういえば、ニケはどこから俺たちを見てるんだ?」

『はい提督。ワタシはここに居ります』

「おわあ! 胸から何か飛び出てきた!」

『ワタシの本体はこの艦ですしこの浮遊体は端末にすぎません。艦内に魔力のラインが通っておりますのでどこにいても艦内の状況は掌握しております』

「人魂かと思ったよ……なあニケ、俺やみんなのプライバシーとか、尊重してくれてるんだよな?」

『士官個室やトイレ、シャワーは本人からの緊急の要請などがない限りモニタしておりません。しかし提督は常に守護する必要があります。インプットされた情報の中にはトイレの中で亡くなる方もいるというではないですか』


 まことに遺憾である。可及的速やかにこの子に、個人には犯されざる聖域が存在することを教育しなければならぬ。断りなく俺のなかに同行することもやめてもらおう。心臓に悪いから。

 ……ちょっと待って倒れてからもう何日もトイレにシャワーに、うわあああああああああ!



 トイレといえば、この艦の内装は魔道具により現代と遜色のない生活が出来るようになっている。昔の船のトイレは船首や船尾にあって、船の床に開けた穴から海に向かってしていたりらしい。まだ体が本調子でないうちは艦首までいくだけでも辛い。この艦をゲーム設定のまま召喚した何者かには、呼び出したことはともかく、艦の設備に関しては感謝せざるをえない。


 俺が目覚めてから万全ではない体調を考えて二日ほどゆっくりと航海している。アゾット島を出航してからすでに合計で五日が経過していた。寝込んでいる間に打ち合わせはできたので完全に無駄な時間というわけでもないが、そろそろガラエキアに向かわなければ、食料の在庫が不安になる頃だった。そんなわけで作戦室での会議をしている。


「まだ俺は回復しきってはいないが、そろそろガラエキアに向かおうと思う」

「異存はありません」

「そろそろ食事が小麦粉を焼いたビスケットや塩抜きしても塩辛い魚や肉ばかりというのも辛い……ガラエキアには美味しいものがあるといいな」

「ぶはははは! こいつは軍の船の新入りが最初に受ける洗礼でやすからね! 期待通りの反応してくれて嬉しいですぜ! 軍の食料庫から保存食を出してもらったんでこうなだけで、普通の船はもうちっといいもん食べてますぜ」

「おお、そうなのか。例えばどういう食事を?」

「船は揺れるんで基本的に焼いたものやそのまま食べられるものですなぁ。煮るだとか茹でる、揚げるなんてことは危なくてできやせんからそういうのは贅沢品ですわ」

「すると小麦が主食ならパンが中心かな?」

「そうですな。熟練の料理人が乗ってりゃまた別なんでやすが、基本は焼きパンとワインが中心で、焼いた肉か魚、それと野菜に果物を一通りってとこでやすね。

 昔はそりゃあ悲惨で、いまよりも航海に必要な人手が多い分、食料は切り詰められてたそうですぜ。保存の方法がなくて長い航海になるとウジの湧いたビスケットなんぞも食べてたそうで。腐りかけの塩漬け肉やら腐りかけの野菜、カビのはえたチーズまで食べて、そんな食生活だったモンでそらあ疫病に悩まされてたそうですぜ」

「うへえ」

「しかしいつ頃からか魔道具がいい感じになりやしてね、操船は昔に比べりゃ少ない人手で済むようになったのと、食料庫をまるごと冷蔵庫にする大型の魔道具が広まってからは腐った食材を食べることもなくなったそうでさあ」

「魔道具さまさまだね」

「まさに! 船の生活は魔道具なしには考えられやせん。ただ、この船みたいに水をあれだけ使いほうだいなんて話は聞いたことがありやせんがね」 


 ゴメスは艦の制御AIや帆の自動操縦、大砲の自動照準などには驚いたが、水洗トイレには驚かなかった。裕福な家庭に限られるが同じような魔道具は使われているらしい。冷蔵庫も実現しているし、製鉄では魔法を利用した魔導炉が利用されているとか。ゴメスの話やアゾット島の様子からすると、この世界の技術は少なくとも近代的生活ができるレベルには到達しているのではないだろうか。しかし船は木製の帆船しかないというし、アゾット島でみかけた軍船の大砲はこの船と同じようなものにみえた。つまり蒸気機関などはまだ開発されてはいないし、砲塔が必要なほどの大型の大砲や炸裂弾は使われていないだろうということだ。産業革命は起こっていないと見ていいだろう。魔法があり、魔道具が発達しているために科学的な面では比較的にゆっくりとした進歩をしている世界なのかもしれない。ただ一部では元の世界よりも便利ではないかと思えるような話も聞くことができた。 



「……とりあえずここまでの話をまとめようか。ガラエキアに着いてからのことは、まずお役人さんとの交渉に入ると仮定して、俺とニーナ、それにランスロットと、水先案内人という立場でゴメスさんにも付き添ってもらう。イオとキッカは懸賞金が入るまでは留守番ということで頼む」

「りょーかい」

「交渉の優先度は、行動の自由の確保、商業活動の許可の取得、水路や航路などの情報を含む地図の取得、そして魔法の知識だ。ゴメスの話では、おそらく前二つは問題がないが後ろの二つは渋るということだな」

「水路の情報ならともかくとして、陸地の地図や魔法は軍事にもかかわりやすからねえ、外国の人間には厳しいもんです」

「そこで俺たちには取引できる材料が必要になる。だが、今の俺たちには対価として差し出せるものは何もないというのが問題だ」

「小官が思うに、おそらくは艦を提供すれば対価を与えるとか、後ろ盾がないならばということで協力の見返りに国軍への参加を勧められるでしょうな」

「ああ。だがそれはできない。俺の目的から言えばこの艦を手放すことは論外だし、俺たちの欲しい情報がこの国ではなく、その他の国にあるのかもしれないからな。そこで、どんな交渉材料ならば提供できるか、という話を検討しておきたい。何か意見はあるかい?」


 作戦室には黒板と大型モニタが設置されている。いまはニーナが大型モニタに日本語の綺麗な字で要点をまとめてくれていた。タッチパネルとかなにそのモニタすごい。ゴメスは日本語は読めなかったのだが、なんとニケが同行していれば、かざせば訳文を表示してくれるモニタを出してくれるようになった。それは俺がこの世界の文章を読むときにも訳してくれる優れものらしい。なにこれすごい。便利だけどそのうちこの世界の文字は憶えたほうが良いよなあ……。


「あたしらのウリはなんてったって戦う力だ。だから傭兵になって国の仕事で稼いでついでに恩を売るとか。あたしらなら十分やれると思うぜー」

「……それは考えたんだけどねイオ。傭兵になると俺たちが戦う相手を選べるわけじゃない。どこを敵に回すかわからないというのは情報がないうちは危険だ。……それに、俺は無益な殺生をしたくはない」

「提督がそう言うならしゃーねーな」


 ゴメスの話からするとこの世界の海は現代の期中の海とは比べ物にならないほどに治安が悪そうだ。海賊が跋扈するような海では、人と戦いたくないというのは甘い考えなのだろう。こちらが避けても相手が襲ってくれば応戦せざるを得ないのだ。黙ってやられるのは論外だ。しかしそれでも、できることならなるべく避けていきたい。聞き取った文明レベルとこの艦のスペックから見るならば、俺たちならかなりやれるのではないかという実感はある。だが力に酔って自分から戦場を求めてしまえば、俺はいつか普通の生活に戻れなくなるようないやな予感がする。それに、従者の彼女たちに人を殺して利益を求めるようなことを進んで行えとは言いたくなかった。……だが、もし目の前で誰かが海賊に襲われていたら……?


「提督、よろしいですか?」

「うん、ランスロット、なんだい?」

「はっ。傭兵と言うのはなにも敵と戦うだけではありません。補給、輸送、建設、警備と、軍の手の回らないところを請け負う契約であれば、戦争に赴かずとも国に対して一定の貢献をすることができます」

「うん? しかし軍隊がいるならその辺りは自前でやれるはずだろう?」

「それがそうとも限りやせんぜ」

「どういうことだいゴメス」

「へぇ。何せ船ってもんは造るのも訓練させとくのにもとにかく金食い虫なもんでさあ。そのわりに戦争ではあればあるほどいいって言う難儀なもんでさ。どこの国だって戦争で必要になる数の船を普段から揃えておくなんてできやせん」

「ん。そうなのか?」


 確かアメリカの海軍は全世界にものすごい数の船舶を所有していた。ガラエキアは海外に領土を持つというし、それなりの規模の海軍を持っているのではないかと思ったのだが……。そういえばアメリカは軍事費が桁違いに多いとも、テレビで見かけたことがある。あの国と一緒に考えるのが間違いなのか。


「へぇ。なもんで、戦争になると民間の船舶に強制的に命令し、御用船として任務を遂行させることはこのへんの習いみたいなもんでやす」

「……それじゃあ戦争になると民間の船の被害が大きくなるんじゃないか?」

「そうでやすねえ、ある戦争じゃあお互いの国で数百隻の船を拿捕しあったり沈めたりしあったそうで。軍艦同士の戦いはほとんど起きずに、被害をうけたのはほとんどが民間船だった、なんてこともあったそうでやす」

「それは……そんなことが」


 いや、俺は知っていた。日本だって、戦時中は民間船を戦争にかりだしたと。そのために船舶は多数が沈められ、兵士でもない船員が多数殺されてしまったのだと。戦争は軍人だけで済む話ではない。だが知識として知っていたとしても、それはテレビの中で言っていたことで、平和な時代に生まれ育った俺に実感はなかったということだ。


「……我々には庇護を求めることのできる権力はありません。現在の状況がこれからどうなるのかはわかりませんが、戦争を避けていても、この状況が長く続くほどに周辺の国家は我々をなんとか戦力として組み込めないかと画策してくることでしょう。……我々は、すでに戦える力を示してしまいました」


 ランスロットの分析に、口の中に苦いものを感じる。クラーケンを倒して英雄扱いをされて良い気になっていた。アゾット島の人たちのために役に立てたのだから後悔はしない。だが、それだけで済む話でもなかったのだ。


「そこで小官が提案いたしますのは、望まぬ徴用をされてしまう前に、こちらから傭兵としての契約を提示してしまうことです。そしてその条件として、我々が可能なのは依頼による後方支援活動と、魔物の討伐に対する助力であると限定してはいかがでしょうか。戦時には中立を守るということは難しいでしょうが、積極的な武力の行使には関わらないこということをあらかじめ契約の内容に入れてしまいます」

「……それでは結局戦争には巻き込まれてしまうんじゃないか?」

「はい。我々の知らない激戦区へ向かう依頼をするなど、やりようはあることになりますね。正直なところ、小官はある程度戦争に巻き込まれることは避けられないと考えます。その場合はこの艦の能力を生かして臨機応変に立ち回る必要はあるかと思います。ただ、そこで深入りを避けるためにもう二つの条件を加えます。この契約は、期間契約ではなく、依頼一回ごとの更新制とすること。そしてガラエキアの友好国とも同様の条件で依頼を受けることを認めさせるという条件です」

「うーん? すまない、その条件で何が変わるんだ?」

「はっ。この条件の意味は、我々はあくまでガラエキアの所属というわけではないことを周辺諸国に知らしめることであります」

「……どの国に対しても、もしかしたら俺たちがそのうち味方になる余地がある、と思わせるということかな?」

「その通りであります。そもそも我々はどことも知れぬ国の部隊、ということになっております。また傭兵、いえこの条件であれば戦闘を主目的とはしませんので傭船ということになりますでしょうか。その契約は、我々の故国への帰還へ向けての活動の一環であり、特定の国と同盟を結んだり肩入れする意図はない、と多くの国に知らしめるのです。こうしておくことで手に入らないのであればいっそ沈めるか強硬手段で接収してしまえ、という意見をある程度抑えることもできるでしょう」


 こちらが国と関わる手段としては、悪くないように思える。あくまでビジネスライクに、一定の距離を保つ。いろんな国と関わることで情報の収集にもなるし、仕事のために地図などの情報を求めることもできそうだ、ただ、これをそのまま交渉相手が飲むとは限らないのではないか?


「理論上は悪くはないと思えるんだけど、相手がそれを飲むかな?」

「受け入れられなければ他の国に行ってしまいましょう。ガラエキアの助力を得られなくなるのは惜しいですが、我々の欲しい情報をガラエキアが持っているとも限りません。他にも国はありますので、現時点でガラエキアにこだわる必要を小官は感じません。海上戦力に不安のある国であれば、おそらくはこの条件を受け入れさせることは難しくないと思われます。そのような国での実績を持って、順次周辺の国に活動範囲を広げてゆけばよいのです」

「それもそうか……はー、しかしランスロットはすごいな。こんなにすらすらと考えが出てくるなんて。もしかしてずっと考えてたのか?」

「はっ。小官は僭越ながら提督に取りうる方策を提示するのが自分の果たすべき役割ではないかと考え、現時点での我々の状況を分析し、また立案しておりました。差し出がましいお願いではありますが、今後も献策の機会をいただけると嬉しくあります」

「それはこっちからもお願いするよ。俺が一人で考えたって目の行き届かないことばかりだからね。君の助言でこっちにも国への対抗策が立てられるとわかってだいぶ気が楽になった。今後とも何かあったら遠慮なく言ってくれたら助かるよ」

「はっ!光栄であります!」


 ランスロットはうらやましいくらいに敬礼がサマになるなあ。そういう従者を選んだのは俺だけどさ。


「よし、ひとまずの交渉材料として、傭兵としての契約の上でガラエキアに協力することを提案してみようと思う。皆もそれでいいか?」

「はい!」

 

「契約するにしても、ひも付きの首輪つけようとしてくるんじゃねえのー。あと巣箱はここにおけとか人質をおいていけとかさー」


 はーい、とテーブルに突っ伏した状態からイオがちょこんと手を挙げた。

 ひも付きの首輪? ……ああ、俺たちの行動を監視とか誘導するための人員ということか? 成果を確認する手段、とでも言われれば断りづらいか。人質はわかるが、巣箱、とはなんだ?


「すまないイオ、巣箱、とは何を表しているんだ?」

「うーんと、傭兵と商売やるときの拠点? 陸上で留守のあいだ郵便物だとか依頼書を受けとっておくための家? とかそんなの。そういう巣みたいなものがある国はよく立ち寄るようになるでしょ? あたしらがいろんな国から依頼受けるよーって話になると、なるべくあたしらを利用したい国があるならそういうものを用意するかなって。でもあたしらもさー、ここに立ち寄れば連絡受けられるってところがどっかにあったほうがよくない?」

「……それは商館のことですかい?」

「そうそれ! おっちゃん冴えてるね! 商館でなくてもいいんだけどー、イオさんとしては陸の上でゆっくりごろごろできるところも欲しいかなーなんて」


 はぁ、なるほどな。どうもイオは動物的なたとえが多いな……。しかし相手が出す条件として挙げられたものではあるが、俺たちにもメリットがある話か。たしかに艦でいろんなところを飛び回るのならばそういった連絡拠点は欲しいかもしれない。イオは会議になるといつもてれーんとしてるけどしっかり考えくれているんだな。


「うーん……順に検討していこう。ニケ、特定の人員の艦内での行動を制限することはできるか? 立ち入り禁止区画の設定とかだな」

『可能です。対象人員を追跡して監視することも可能です』

「そんなことまでできるのか……。それなら監視の人員は受け入れてもいいんじゃないか?」

「……私としては我々の人数を大きく越える人員や兵員の受け入れには不安があります。監視の人員を常駐させるならば一名まで。輸送任務などでは……現時点での我々には監視に回るにも人手が足りません。この艦にはスペースを問わずに詰めこめば千人以上を乗せられるでしょうが、相手を信頼できるか見極めるまでは兵員、作業員を問わず受け入れるのであればまずは百五十名ほどまでなどと制限したほうがよろしいかと」

「そうか、ニーナが心配しているのは乗っ取りか」

「はい。我々も腕にはそれなりの自信があります。ニケもおりますので要所の隔壁を閉めてしまえば部外者に艦を奪われる心配はありません。ただ、たとえ敵が千人でも早々後れを取るとは思いませんが、どこかに我々に匹敵する強者がいるかもしれません。軍の仕事を請けるのならばなおさらでしょう。それにこの艦の船体の外郭は常時展開の防御シェルもありますので強固ですが、内部の設備や道具などは破壊工作や盗難にはどうしても弱くなります。一層の船員室に押し込められる人数であれば、ニケの協力があれば対処は容易ですから」


 士官室の大型モニターには艦内の見取り図に船員室と、それを通路の隔壁で遮断し閉鎖する様子が映し出されている。

 

 えっちょっとまってニーナさんたち千人相手にできる自信があるの? なにそれすごい。ゲーム時代のカンストレベル100ってそこまでの力があるのか? たしかにクラーケンとの戦闘でも魔法や身のこなしはすごかった。ワイヤーアクションみたいに飛び回ってたもんなぁ……。

 しかし……だ。いくらそれだけの力があって戦えるからといっても、彼女たちに千人もの敵の相手をさせるはめになってる時点で俺にとっては負けだな。大事な子達にそんな危ないことさせられるか。やはりどこであれ国や王を敵に回すのは避ける方向でやって行こう。


「納得したよ。人員の輸送や監視役の受け入れについてはニーナの案をベースにしよう。 ……よし、では次は……商館や人質だったか? 人質は論外だな。 商館については……相手の出かた次第じゃないか?」

「そうですね~。どこかの商人と懇意にしておくことでも代替手段は確保できるかと思います~。ただ我々の独自の商館、あるいは商会を設立することはそれだけメリットも大きいのではないでしょうか~」

「ん、そのメリットってなんだいキッカ」

「いっぱい思いつきますね~。まずは食料、弾薬、船舶用品などの補給の利便性があります~。いちいち街中に買いに走るのは手間が大きいですから、商館に普段から規格の揃ったものを揃えておけば速やかに活動が行えます~。次に魔物の討伐や漁で得たものを商館で扱えれば、急いでいるからと買い叩かれるような心配をしなくてもよくなります~。そして最後に、交易で儲けるなら買ったものを加工して売るのがより儲けられますので~、資金集めに集中するならば加工と販売を任せることのできるわたしたちの商会を作ることは効果が大きいはずです~」

「お、おう。メリットばっかりだなあ。しかし加工ならこの艦の船匠室ではだめなのか?」

「船内で作れるものもありますが、作業できる人員に限りがありますから、どうしても数は作れません~。それに不定期の航海の間、何週間も留守にしてその間は取引できない商品というものは、商人にとって扱いづらいはずです~。それならば、作業の難易度や単価は低くても、ある程度まとめて生産できる設備を陸上に構えたほうが、取引の継続性や交渉力、収支の見通しの面でも優れているのではないかと~。あとは雇用を生むことで街のひとにも味方をつくりやすくなります~」

「お、おう、そうだな。商会はメリットが大きいな。……キッカはお金儲けが好きなのか?」

「大好きです!」

「あっハイ。……でもお金に関わることは信頼して任せられる人がいなければどうしようもないだろう」

「そうなんですよねぇ~。どこかに優秀で真面目で裏切らない商人が落ちてませんかねぇ~。あ、提督もうひとり従者創れませんか~?」

「無茶言ってくれるなよ……」



『提督、三時方向距離五千で戦闘中の船を発見しました。どうやら海賊が商船を襲っているようです』

「商人さん、落ちてましたかね~?」

「いや、それはないだろう。それに人の不幸は茶化さないの。……ゴメスさん、どこの船だかわかるか?」

「ありゃあ……襲われてるほうはヒスパリスの旗ですなあ。海賊救援信号旗もだしてやすね」

「その国はガラエキアとの関係は?」

「隣り合った友好国でさ」

「じゃあ助けることに問題はないよね?」

「ありやせんぜ。……助けるんで?」

「海賊は一隻だ。この艦ならやれるだろう。……すまないみんな。見つけてしまったからには俺はあの船を助けたいと思う。目的は海賊を追い払うことだが……」


 迷う。もしも商船が制圧されていたとしたら。乗り込んで解放する必要があるとしたら。従者の皆の力がなければ俺はあの船は助け出すことはできない。殺さずに捕らえろ? それでは従者の彼女たちにより大きな負担をかけて、より大きな危険にさらすことになる。 では殲滅しろと命令するか? 俺が彼らに人殺しをさせるのか? 

 俺の正義感が人を殺し、みんなを危険に晒す。口の中が乾いて仕方がない。


「……ニケ、映像を拡大できるか?」

『はい』


 望遠で荒いモニターの中では、商船に乗り移る海賊と応戦する船員、その両者による激しい戦いが繰り広げられていた。この世界に来て、すぐにみたあの海戦の光景。そこに小さく写る人たちが冗談のようにあっけなく人が死んでいく、凄惨な現場。あれが戦場。


 俺はこの光景を見て、また何もできずに立ち去るのか。この艦ならできる。それだけの力があって、助けを求める人を見殺しにするのか。悩むあいだに、また一人海賊に船員がやられていた。手を握りしめる。俺はここで逃げ出したら、もう一度誰かを助けるために立ち上がることができるだろうか。


「提督。私たちは提督の決断に従います。どうか、お心のままに」


「……これから俺たちはあの商船を海賊から助け出す! 海賊が抵抗するのならば……速やかに無力化……いや、殺害しろ。投降してきたなら拘束しろ。だがこちらの人員は少ない。拘束は商船に任せて各自の安全を第一に考えろ。……それと、敵海賊のボスはなるべく無力化して連れてきてくれ。

 ……君たちが人を殺すのは、俺の命令による。責任は俺にある。すまないが、皆の力を貸してくれ」


「水くせーんだよ提督は。まかせなっての!」

「了解しました」

「がんばるわぁ~」

「承りました。提督、ご命令を」


「面舵いっぱい! 速度五十! 船首砲二門発射用意! 距離千でこちらに腹を向けている海賊船に向けて発射する。こちらの接近を教えてやれ! 接近後、二隻の船尾に回ったところでニケの魔道砲で海賊船の帆やマスト狙う。派手にやって脅しをかけるんだ! 

 その後奥の商船の、海賊船の接舷していない側の舷側に回りこむ。イオ、ランスロットは接舷後、海賊の排除に専念。ニーナは戦闘が落ち着いてきたら、回復魔法で商船側の助かりそうな人を救助。周囲の状況には気をつけろ。キッカはこちらの甲板上に残って海賊がこちらの艦に向かってこないように警戒。可能なら魔法で攻撃しろ」


 ゲームではありえなかった指示。敵船の破壊。本物の甲板戦闘。……人殺しの命令。その命令を出しつつ口の中に込み上げる苦いものを必死に飲み下す。


「アッシも戦いやしょうか?」

「ゴメスは……ここにいてくれないだろうか。俺が最後まで見届けられるように、見張っていて欲しいんだ。情けない話だけど、誰かが見ていないと目を逸らしそうなんだ」

「……よござんす。提督の初陣をアッシが見届けやしょう」


「提督の決断」の五文字が書きたかっただけなのにここまで来るのに五万六千字……。

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