本屋さんとハーレム作品の主人公
本屋読子は魔女である。
だが魔女とはすなわち女、つまり魔女である以前に女である。
経歴としては三十過ぎの中年にさしかかる年齢ではあるが、魔女であるため肉体的にはその限りでは無い。
女の性欲は三十から増すと言うが、読子は二十代の若い体と三十代の精神性を併せ持っている。そのせいか、それとも生来のモノなのか、読子は時折発情してしまう。
「本当は夜まで我慢しないといけないけれど、今日はお客さんもバイトもいないし───」
あまりに急なフラストレーションに読子は盛ってしまう。
恋人でも居ればこういう不満はないのだろうが、引きこもりである読子には出会いがない。
故に仕方がないよねと読子は自分に言い聞かせる。
店の様子を確認した読子は座敷にて自分を慰める準備をしていた。そんな中、読子を邪魔するように一人の客が店に来る。
「早く選び終わらないかなあ」
レジに戻った読子はほおづえをついてトントンと彼が立ち去るのを待つ。
一方で彼の方は本など目もくれずに店内をきょろきょろと動き回っていた。
その様子に小首を傾げていた読子であったが、彼は読子の姿を見るとレジを目指す。
「アナタが店長さんですか?」
「そうですよ」
どうやら悩みの相談のようで、仕方がないと読子は彼を座敷に上げた。
レジは呼び鈴で充分だろう。
「早速ですが、助けてください」
助けてくれと懇願する彼はあせっていた。
彼の素性はノガミ大学の一年生、名は金城正太。
身長は百五十センチほどと小柄で見た目は二次性徴前の中学生である。
「ストーカーに追われているんです」
正太の悩みはストーカーだった。
相手は周桃花という同級生。
普段は後ろを付きまとっているだけなのだが、例えば彼が別の女子と会話をすると相手に文句をつけに行くし、雑誌のグラビアでさえも敵視して目を離したすきに破り捨てるという。
最初は打ち解けられると思っていた正太も彼女の過激さに次第に迷惑を感じ始めていた。
「───だったら、ハッキリと拒絶してあげればいいじゃない。迷惑だから近づかないでくれって」
「口で言ってもダメなんです。彼女、都合の悪い言葉は聞こえていないみたいで」
「それは困りものね」
読子はさすがにこれは自分よりも警察の方が適任ではないかと思ってしまう。
「こうなったら警察に通報したらどうかしら。雑誌を破かれたのならそれだけで罪に問えそうですし───」
いくらお悩み相談と言っても相談者以外に問題があってはどうしようもない。せめてその相手がこちらに来れば違うのにと読子も手を上げてしまった。
一方で正太は人魚姫の魔女に過度な期待をしていたため落胆し、思わず涙ぐむ。
「見捨てないでください」
その姿に読子はときめいた。もとよりムラムラしていたのもあって、可愛い年下を抱きしめたいという衝動に駆られてしまう。
勢いのままに読子は膝立ちで歩み寄ると、正太を抱きしめた。
「店長さん……」
「見捨てるつもりではないわよ。ただ、これは一筋縄ではいかないというだけ」
ぎゅっと抱きしめる読子は胸を押し当てていた。
正太も性欲の強い未成年である。女性にこんなことをされれば反応してしまうのも無理はない。
正太の一部は熱く膨張していて読子はこのまま食べてしまいたいと思うほどである。
顔に似合わず大きいようで服の下から突き出した一部だけでも存在感が強い。
「あの……店長さん? 恥ずかしいですよ」
「誰も見ていないし、良いじゃない。とりあえず落ち着いたかしら」
正太は読子の問いに頷いた。
普段ならお姉さんとして悩める後輩達を導きたいのだが、発情モードの自分を抑えきれない読子はポーカーフェイスのまま固まってしまった。
やりすぎはいけないけれど、もう少しくらいは彼を感じていたいと読子は願うが、そうは問屋が卸さなかった。
「正太くん───」
座敷に漂う怒気。
それは読子が惚けているうちに上がり込んできた桃花が放つモノであった。
彼女は貧乳短髪でボーイッシュなのだが、しっかりと女の子らしい装いである。イタズラしたら良い声で泣きそうな予感に読子はよだれを垂らした。
「周さん!?」
「そこの女! 正太くんに何をしているの? まさか襲うつもりじゃないでしょうね」
「えっと……それは……」
読子はちょっと図星だったためつい言葉に詰まる。
「そうだったのね。アンタみたいな阿婆擦れ、正太くんには近づけさせないわ」
「止めてくれ周さん! 僕から店長さんにお願いに来たんだよ」
「コレばかりは止められないわ。相応の報いを受けてもらわないと」
「だから止めてくれって!」
怒髪天になり暴走する桃花に正太が抱きつくと、彼女はにやけ顔になり動きを止めた。
「はひぃ」
「あの……彼女はいつもこの調子なんですか?」
その様子に読子はつい正太に尋ねた。
「ええ。こうしてあげると落ち着いてくれますので」
「でもストーカーされて困っていると言うくらいなのだから、付き合っているわけではないのでしょう?」
「当然ですよ。こんな調子の子と交際なんてしたら身が持ちませんし。もう少し大人しくなってくれたら考えてあげても良いですけれど」
桃花を抱きながらよしよしとあやす正太の姿に読子は興ざめしてしまった。
桃花が襲いかからんとしたところまではまるでラブコメの主人公のようだと思っていたが、その後を見て急に正太がいやらしい人物にしか見えなくなったのだ。
困っていると言いつつもまんざらでもなさそうな態度。それになんだかんだ桃花を手玉にとって余裕を浮かべる微笑み。
コイツはハーレム作品の難聴主人公みたいな野郎だと読子は察したのだ。
「まさかとは思いますが……アナタの女友達って何人くらいいますか?」
「そうですね、周さん以外にも後藤さんに志村さんに、あと山田さんと中島さんで五人くらいは。みんな僕と誰かが話していると怒ったり睨んだりするんですが、周さんはとりわけそれが酷くてついにストーカーまでする次第でして」
「ストーカーだなんて酷いじゃない。正太くんが悪い女に引っかからないか心配だったからこうして守護していたのに」
「だからそれがストーカーなんだって。守護ってくれるのはうれしいけれど、もう少し方法を考えてくれって」
漫画の主人公にはそこそこ居ても、実際に居たら困る男の実在に読子は呆れた。
もう勝手にしろ、この程度ならあまり対価も必要ないかと読子は彼らを見放すつもりでトリックを使う。
「直接会ってみて良い方法が思い浮かびましたよ」
「本当ですか?」
「アナタ───」
読子の問いかけに正太は頷きその場はお開きとなる。
翌日、大学に腕を組んで登校する男女が居た。
正太と桃花の二人である。
読子に相談したのを境に桃花のストーカー癖や嫉妬深さはすっかりなりを潜めたのだが、正太は少し釈然としていない。
「桃花と付き合うことになったんだってね。おめでとう」
懇意にしていた女子達からこのようなメールが何通も届いたからだ。
そう、あのときを境に二人は交際を始めていた。
正太にとっては読子の力で桃花を強制するための代償としてのモノのため、まるで酔った勢いにしか思えない。
実際に読子の「今すぐ彼女のストーカーを止めさせますか?」という問いに頷いてからの記憶は正太にはなく、気づいたときには自宅のベッドの上に桃花と二人で抱き合っていたのだから。
昨晩の様子を聞かされた正太は「彼女は出来たし童貞卒業したのは良いけど、その記憶も無ければ狙っていた他の子達からも見放されて損の方が大きくないか?」と心の中で呟いた。
桃花の方は思いが通じて満面であり、ストーカーにまで発展するほどの独占欲はその後も正太を離さなかった。
数年後、大学を卒業した桃花から二人の結婚を知らせる葉書が読子の元に届いた。
「懐かしいわね。それにこの子、結局結婚したと言うことはあのとき本当に好きな子はいなかった訳ね。強引だったけれど結果オーライかしら」
あまり先代の様なことはしたくない読子だが、今回は桃花を立てて正太を歪めてしまった。
あまりにムラムラしていたとはいえ、一方的に発情して一方的に興ざめしたのは読子でありながら、ちょっとした仕返しを少年に加えてしまう。
結果オーライではあるがやり過ぎだったかと、手紙を読みながら未来の読子は反省する。




