23.性癖がバレた!
ナリーの疑いの視線が痛い。それはそうだろう。コーデルの結婚が決まったおかげで、ようやく正式に彼女とアドルフも結婚を前提に付き合い始めた。だが、生来二人とも主人馬鹿だったようだ。
コーデルとウルスロアンの幸せを見届けるまではと謎に誓い合っているらしい。
(うう……責任重大。ここでがっちりウルスロアン様の心を掴まないと……)
「いいですか、お嬢様。お嬢様はそのままが一番素敵ですからね? 決して、決して、胸を上げ底しようとか、このナリーが完璧に仕上げたナチュラルメイクを厚くしようだなんて考えないでくださいね?」
どきっとして思わず目を逸らすと、ナリーの顔が鬼の形相で迫って来た。
そう、コーデルはエキゾチック美女に憧れが強すぎて、自分に似合わないメイクをやらかしがちなのだ。それがわかっているナリーに何度怒られて、直されたことか知れない。
確かに、転生した自分の顔は美少女だとは思う。だけど、自分の理想はもっと流し目の似合う色気たっぷりの妖艶な美女なのだ。
(胸だってこんなに小さいはずでは……)
思わずそっと自分の胸を持ち上げると、ナリーにぺしんと手をはたき落とされた。令嬢としての振る舞いを忘れると厳しく怒られる。
コーデルは頬を膨らませてから、がっと目の前にある無駄に大きな胸を両手で掴んだ。
「ちょっと分けてくれたっていいじゃない~!」
「ちょ! 掴まないでください!」
二人でわちゃわちゃしていたら、新婦の控室となっていた部屋の扉がノックされた。「はい」と返事をすると、女性メイドの声が聞こえてくる。
「奥様、そろそろお時間です」
奥様、という響きに顔を赤くしたコーデルを、ナリーが笑顔で背中を押してくれる。その優しい手つきに、勇気をもらった。
緊張をほぐすために、自分の馬鹿なじゃれ合いに付き合ってくれる大切な親友を、行ってきますの意味をこめてぎゅっと抱きしめる。
そうしてコーデルは十八年間かぶりつづけた令嬢としての仮面をかぶって、楚々と部屋から一歩踏み出したのだった。
内心では、心臓が破裂しそうなくらいドキドキしていたけれど。
案内されたのは、夫婦の寝室。お城の最上階にあるウルスロアンの私室の隣に位置し、その逆側が今日から辺境伯夫人となるコーデルの部屋になる。夫婦の寝室は広く、前世の感覚で言えば余裕で二十畳ほどはあるだろう。中央に大人が三人ほど乗っても余りある大きな天蓋付きの寝台があり、その左下に軽食などがとれるように上品な白いテーブルと椅子二脚が置いてある。
暖色系の温かい灯りがところどころに設置されていて、足元の高級な絨毯を照らし出す。踏み出した足裏にふかっとした感触を覚えながら、部屋へ入った。
左右にはそれぞれの私室へ繋がる扉がある。中にまだ新郎の姿は見えず、コーデルは自分の気持ちを落ち着けるために、白いテーブルの上に置いてあったレモン水をコップに注いで口にした。
身体に広がる冷たい水と鼻を抜けるさわやかな香りに少しだけ、息をつく。
前世は、生きることで精一杯だった。唯一の趣味が推し活だったくらいで、現実に誰かと家族になることまであの頃はまだ意識してはいなかった。
生まれ変わって、初めて親の愛情を感じてから、自分も家族を持ちたいと願うようになった。
そして、ウルスロアンと出会ってから、その願いはただの憧れではなくなったんだと今ならはっきりわかる。
「……旦那様」
ぽつ、と口の中で呟いてから、一人の空間で照れている時だった。コンコンと扉がノックされ、飛び上がらんばかりに驚く。一気に恥ずかしさが押し寄せてきて、わたわたとしていると執事が扉を開き、ウルスロアンの姿が見えた。
心臓が大きく跳ねる。
(初めて見る……ウルスロアン様の寛ぎスタイル……)
リネン素材の大判の上着をゆったり羽織った、いわゆる男性の夜着だ。薄手の生地だからか、いつもよりその胸板や肩幅まで見てとれてしまって、なんだか目のやり場に困る。
ウルスロアンが部屋に入ると扉が閉まり、二人きりになった。コーデルにゆっくり近づいてきて、その赤らんだ頬に大きな手を添えた。
「涎、出てるぞ?」
「え!?」
慌てて口元を抑えると、当然そんなものは出ていない。思わずじっとりとねめあげると、ウルスロアンが緑青色の瞳を細めて、くくっと笑った。
(は、反則なんですけど……!)
「お前の反応は素直でいちいち面白い」
「……う、嬉しくありません」
夫にまで珍獣扱いされるのはごめんこうむりたい、とコーデルが苦虫を噛み潰したような顔をする。それから、一抹の不安が過って、少しだけ唇を尖らせた。
「私……貴方の子供ではないわ……」
女性として見られたいと、こんな拗ねたことを言っている時点で子供なのだ、と自覚はしていても、零れてしまう。
年齢は離れていても、異性として見てもらいたいのだ。
ウルスロアンは頬に添えた手をするりと顎に持っていって小さな顔を上向けさせると、桃色の艶やかな唇に己のそれを軽く重ねた。
ふにり、と柔らかい感触がする。
「……俺は子供に欲情はしない」
そうしてシニカルに笑うのだから、本当にこの大人はずるいと思う。普段は厳しい空気を纏うことが多い男が、甘い空気と色気を本気で出したらこんなにもすごいのかと悔しさと、高鳴る心臓で身が持たない。
(は、恥ずかしいのに、全身が喜んでるのがわかるなんて……)
へにょっと眉をハの字に落とすと、コーデルは顔を隠すようにその胸に頬を寄せた。そして自分からぎゅう、と広い背中に腕を回して思い切り抱きしめる。
鼻孔いっぱいに広がるウッド系の香りが安心感を運んでくる。
思わずたくさん堪能しておこうとくんかくんかしていたら、頭を掴まれて引き剥がされた。
不満いっぱいの表情で見上げたら、呆れた瞳とかち合う。
「大体、子供がそんな欲望に忠実なわけないだろう」
「……!?」
「お前、普段どんな目で俺を見ているか自覚ないのか」
(な、なんですって!?)




