表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スイーツ(物理)系ヒロインたちが支配する! おかしなセカイ  作者: 八雲 焼藻
1.ロイヤルヴァニラ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/8

第三話 最悪なチュートリアル!?

 紅苺鬼と和解した私は、とりあえずカボットキングダムの入口まで帰って来た。


 分厚いビスケットの扉の前に立ち、声を張り上げる。


「ただいまヴァニラ! 無事に謝罪できたよ」


 すると、ドアがゆっくり開かれた。


 クッキーの回廊を進んで、先ほど授業を受けていた小講堂へ入る。


 ヴァニラが椅子に座って待っていた。


 腕を組んでいるが、何処か落ち着きがない。


「よ、よく戻って来た。その……最初は逃げ出したように見えたが、相手の動きや地形を利用して上手く戦えていたな。褒めて……遣わす」


 水晶玉のような大きさのキャンディを胸に押し付け、ヴァニラは視線を逸らす。


「もしや、その透明なボールで、私の様子を見ていたのかい?」


「ち、違う! これは……そう! これは宝石だ! 綺麗だろう?」


 ……自分の配下であるモンスターにあんなことを言われたら、流石に恥ずかしいだろうね。


「うん、実に綺麗な宝石だ。ヴァニラ様にそっくりだね」


「え」


 ヴァニラは台詞を聞いて、硬直してしまう。


 私としたことが! 普段芸術作品に投げかけていた愛の言葉(アヴァンチュール)を、十四歳の少女に(ささや)いてしまうとは! 少し刺激が強かったかな?


「ぷ……ふふ……きゃははは! そのセンスの欠片もないクソダサ台詞は何なのだ!? それで我を口説いているつもりなのか!? キツすぎるだろ。さては童貞だな?」


 こちらの自尊心を握り潰すように、ヴァニラは爆笑していた。


 じわじわと頭に血が上ってくる。


「わ、私は確かに性の喜びこそ知らないが童貞ではない! ただ純潔を貫いているだけだ!」


「そういう哀しいモンスターを童貞と呼ぶのだ愚か者! 何が……くく、純潔を貫いているだ。言い方を変えればいいとでも思っているのか? ふふ」


 このメスガキ……黙って聞いてりゃ、私の禁忌(タブー)に踏み込みやがって。


「可哀想に、顔が真っ赤だな? 熱でもあるのでないか? ナンキン(ぼう)や」


「坊や……だと?」


「ふふ、では我はお風呂に入ってくる。純潔のナンキン坊やは、我の入浴でも妄想しながら、これでも食すといい」


 メスガキはそうほざいて、カラフルな豆が入った皿を目の前に置いた。


 そして教卓からお風呂セットを取り出し、小講堂から退出してしまう。


「私は童貞かもしれないが童貞ではないのだ……畜生」


 目に苦悶の涙を浮かべ、ただ豆を齧る……なんたる屈辱だろうか。


 高貴な生まれであるこの私が、今や餌を貪る家畜に成り果てるとは。


「うぅ……うぅ……アレ? 結構美味しいな?」


 あまりの旨さに、思わず涙が止まった。


 ただのゼリービーンズかと思えば、シェフのこだわりを感じる味付けだ。


 赤い豆はトムヤンクンスープのように辛味と酸味が効いて刺激的、オレンジの豆はローストチキンのように香ばしくジューシーであり、青い豆は舌平目のムニエルのように上品なコクと甘みがある。


 豆の色ごとに違う料理の味わいが口に広がる。

 たかだか豆一粒なのに不思議と腹も膨れる。


 舌の肥えた貴族である私を唸らせるとは……実に大した料理ではないか。


 しかしヴァニラ! 美味い飯を食わせたからと言って、この私が許すと思うな?


 かくなる上は復讐だ! この恨みを晴らさでおくべきか。


 腹ごしらえを済ませ、軽く爪を研ぎながら思考を巡らせる。


 あのメスガキをどう分からせるか? 


 海綿猫又(スポンジニャンコ)の特性を私以上に熟知している相手だ。力づくでは絶対に叶わない。

 ならば、精神的に分からせればいい。


「……あのメスガキの弱点を一つでも掴みさえすれば――私の勝ちだ」


 ***


 小講堂の奥にバルコニーが見えた。扉を開けて外に出ると、甘い匂いがした。


「このミルクの匂い……温泉で間違いない」


 バルコニーから木に飛び移った。

 森のように連なった木々を飛び続け、枝から枝へ渡り歩いていく。


 目的地に近付くほど、甘い湯気が漂ってくる。


「では見せて頂こう。君の弱点を」


 断っておくが、コレは俗物的な覗きではない。敵情視察だ。


 視線の先には露天風呂。日没の光に照らされ、湯面は白濁している。


 ちょうど見下ろせる高さの木に陣取り、静かに身を潜めた。


 やがてヴァニラが現れた。


 無邪気に伸びをすると、躊躇なく湯に飛び込んだ。


「アイツ、誰も見てないと思って……実に品性が無い」


 幼い柔肌が白濁としたミルクに包まれて、背徳的な美を帯びたヴァニラの一矢纏わぬ姿は、まさにバニラミルクの妖精と評するべきだった。


 十四歳にしては形よく膨らんだ乳房、ミルクに溶け込んだ肢体、異彩を放っている橙髪(オレンジ)少女の身体(アイスクリーム)を包み込む太陽の光(サンライト)


 こんなに美しい妖精が人であるはずがない! 彼女こそ人間が絶対に勝つことのできない、モンスターの象徴ではないだろうか?


 不覚にも美術品のように見入ってしまっていた……屈辱的だ。


 視線を逸らすと、ぷかぷかと浮かんでいる黄色の物体が目に入る。


 アレは……アヒルの玩具?


「クワァ、クワックワァ! ボクはミルキーダック! ヴァニラママのお友達なんだクワァ!」


 耳を疑った。

 間違いなく、ヴァニラ様から発せられた声だった。


「え」


 困惑していると、ヴァニラ様は岩場に置いてあったお風呂セットから他の玩具(おもちゃ)を次々に取り出し始める。


「俺はスポンジニャンコ、ヴァニラ様に仕える執事だ」


 猫耳が付いたスポンジを右手で掴み、ブンブン振り回す。


「アタシはプリンセスヴァニラ、皆に愛されるお姫様よ」


 左手には南瓜(かぼちゃ)の顔をした西洋人形だ。


「大変よスポンジニャンコ! ミルキーダックが溺れているわ!」


 ……ヴァニラ様。どう見てもそのアヒル、浮かんでいませんか?


「ふん、どうして俺があんなアヒルを」


 ……ああ、その猫耳が付いたスポンジは、そういうキャラなんだね。


「もう! じゃあアタシが助ける! アンタなんて知らない!」


 ヴァニラ様は西洋人形を、温泉の中に沈めてしまった。


「あぷあぷ、スポンジニャンコ……助けて」


「ヴァニラ様! 全く。仕方の無いお姫様だ」


 ヴァニラ様は、猫耳が付いたスポンジを使って、アヒルの玩具と西洋人形をすくい上げた。


「スポンジニャンコ……アタシとミルキーダックを助けてくれて、ありがとね」


「勘違いするな? 俺はたまたま海水浴をしたくなっただけだ。そこへ偶然お前達が溺れていたから、暇潰しに助けてやっただけだ」


 ……ダメだ。これ以上我慢すれば、私は死ぬことになる。

 でも笑ったら殺されてしまう! 


「もしボクが立派なモンスターになれたら、ママと結婚するクワァ!」


「ぷ……」


「残念ながら。姫君と婚約する権利は、執事である俺にしか与えられていない」


「ぷぷ……」


「もう、アタシの為に争わないで! 全く……ダックもニャンコも、アタシのことが好きで好きで、仕方ないのね……二人とも、まだまだお子様なんだから」


「ぶわっはっはっは!」


「!?」


 堪え切れずに吹き出してしまった。流石に我慢の限界だった。


 あんな脳内ハッピーセットのヴァニラ様を見せつけられ、笑うなと言う方が無理な話である。


「く……曲者!」


 ヴァニラは声の聞こえてきた木に向かって火炎を撃ち込んだ。

 慈悲も容赦も無い。


 木は凄まじい勢いで炎上した。

 私は飛び移る事もできず、木から転落してしまった。


「いだだ……結構な高さだったぞ……あ、ああヴァニラ様……ご機嫌麗しゅう」


 ヴァニラは湯から上がり、濡れた髪をバサッと払う。


「全部観ていたのか?」


 私は瞼を閉じて(ひざまず)き、(こうべ)を垂れた。


 もはや命乞いするしか――




「……確かお前は芸術批評家だったな? その、我の劇場は……どう、だった?」




 なくもない? 


 飛んできたのは殺意ではなく、震える声だった。


 頬は真っ赤にして、こちらに期待するような眼差しを送っている。


 期待と不安とプライドが混じった、製作者側の表情といったところか?


 勝手に覗いていた手前、あまり下手なことは……いや? 


 勝手に覗いてしまったからこそ、あの公演と真摯に向き合って、批評するべきではないか?


「私は芸術批評家である故に、忖度するつもりはない。それでも大丈夫かい?」


「……う、うん」


「――最低だよ」


「ッッッ!?!?」


「展開は唐突。キャラの行動や動機に説得力がない。演出は幼稚で、世界観の統一もゼロ。おまけに主人公のヴァニラはスポンジ頼りで成長要素も無い。十三点」


「……十三点?」


「もちろん、百点満点でね。もう少しテンポがよければ二十点台でも……ひぃ!?」




 ヴァニラの表情から光は消えて、裸体(からだ)のあちこちが震えていた。


 血走っている瞳から殺意を感じて、私は脱兎の如く、もとい脱猫の如く走り出していた。


「弁明の余地を与えたが残念だ。我の劇場を盗み見た上で十三点とは……万死に値するぞ?」


 次の瞬間、炎の球体や氷の槍、風の刃に黒い雷など、様々な魔法が立て続けに飛んでくる。


「わ、悪気は無かったんですよ! 芸術批評家の本能が勝手に――」


「我の入浴を除いたのも、芸術批評家の本能のつもりと申すか?」


 炎で燃やされ、氷に貫かれ、風に引き裂かれ、雷を打たれた。


 ある程度のダメージを軽減しているとはいえ、激しい痛みが次々に押し寄せてくる……身体は蜂の巣だ。


 海綿猫又(スポンジニャンコ)でなければ確実に死んでいた。


 魔法の吸収にも限界があると、身を以て痛感するが……こんなチュートリアルは最悪だ。


「くっ……お前なんて南瓜さえあれば、南瓜騎士(パンプナイト)で八つ裂きにしてやるのに」


「生前に七等分(ななつざき)を経験したので……どうかお許し頂けないでしょうか? 覗きとか盗聴も、本当に悪気は無かったんですよ! 不慮の事故だったんですよ!」


「そうか。お前の死因は七等分(ななつざき)だったのか。ならば今回の死因は八つ裂きがお似合いではないのか? 引き裂く箇所がもう一つ増えて丁度良いな?」


 今更ながら理解したことがある。


 ヴァニラが魔王として片鱗を見せる時は、威厳を演じている時ではなく、こちらに明確な殺意を抱いている時であると。


 うん。また一歩彼女の使い魔に近付けたのかもしれないね。


 こうして私は、大魔王ヴァニラに夜通し追い回されて、後に三日間ご飯抜きの刑に処された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ