⑨ アヌビスとバステト
犬王アヌビスは、獅子王レオンと、その正妻のセクメトとともに、エレベーターで、地下駐車場にやって来た。
二人が、レオンの宇宙船に乗り込むのを見届けると、彼は自分の船の駐機場所へ向かった。
すると、ニンゲンたちからアダムスキー型と呼ばれて親しまれている、その特徴的な銀色の円盤の前で、たたずむ黒い影を見かけたのである。
「あら、お帰りなさい。待ってたのよ。」
それは猫王子ミケーネの正妻、黒猫のバステト嬢だった。
「あれっ?ミケーネ君の船は?」
「彼は、カグヤ夫妻を送り届けに行ったわ。私は最初から、貴方の船をあてにしてたから、ここで待っていたのよ。」
「へえ〜、そうなんですね。まあ、そういう事でしたら、どうぞ乗って下さい。」
「地下世界の時といい、いつも悪いわね。」
「いやいや、大した事じゃありませんよ。」
二人で船内に乗り込むと、アヌビスは早速、猫の国の座標を入力した。
「ねえ、アヌビス君。」
何故か、文字通りの猫撫で声のバステト。
「何ですか?」
「ちょっとだけ、寄り道して行かない?」
「……イイですけど、どこへ?」
「この近辺を、グルリでいいわ。」
「はあ……じゃあ、光学迷彩を掛けて上昇しますね。」
彼は船を地下から出すと、すぐに上空に移動させた。
「これがニンゲンの街かあ……。」
窓から、眼下の公園やビルを眺めるバステト。
「……そう言えば、黒猫嬢は初めてでしたっけ?ニンゲンの世界。」
「そうよ。いつもミケーネから話は聞いてたけど、ちゃんと見るのは初めて。」
「ここの時空のニンゲンは、未だに絶滅を免れているんですよね?」
「そうね。でもこの平和は、まあまあ危ういバランスの上に、成り立っているらしいわよ。」
「我々の時空では、古代核戦争で、ニンゲンはすっかり居なくなり、放射能の影響で突然変異が起きて、犬族・猫族が、それぞれの世界で霊長類化しましたからね。」
「もしもこの世界で、第三次世界大戦が起こったら、その後は、どんな種族が覇権を取るのかしらね?」
「……分かりませんけど、好戦的ではない種族を、希望したいですね。」
「……ありがとう。満足したわ。帰りましょうか。」
バステト嬢の、その一言を待っていたアヌビスは、すぐに時空転位装置のスイッチを入れた。
「ねえ、アヌビス君。」
「何ですか?」
「私たちが、古代エジプトで、当時のニンゲンたちを指導した事は、正しかったのかしら?」
「その答えは、これからも彼等を見守るうちに、見えて来るのでは?」
「そうね。彼等が、より良い未来を掴めるように、期待しましょうか。」




