⑩ 香子とセクメト
今日も真田香子は、一人で帰宅の途に着いていた。
地下鉄桜通線で、久屋大通駅から名護屋駅へ。
その後は、JR線の電車に乗り込む。この時間帯は、比較的車内が空いていて、過ごしやすかった。
(急にあんな事を言われても、自覚ないわあ……。)
彼女は、豊橋行きの車両の座席に着くと、先程の雪村の発言を思い出していた。
「この私が、植物再生の神オシリスだなんて。」
彼女は思わず呟いてしまった。
(まあ、正しくは、私のウチなる神、なんだけど…。だからそのおかげで、植物を操れるようになったかと思うと……少ししゃくに障るわね。)
(それに、今まで一度も、肉体の主導権を奪われた覚えはないんだけど……まだ本格的に、覚醒してないって事なのかしら?覚醒したら、あのセト神みたいになっちゃうのかな?……なんか、嫌だな。)
(あと、気になるのは、確か古代エジプト神話によると、私、あのセト神に殺されて、カラダをバラバラにされちゃうのよねえ。そうしないと、私が復活しちゃうから、らしいんだけど……おーこわっ。)
(セト神本人は、気にするなって言ってたけど、ソレは無理よねえ……まあ、あれこれ悩んでも仕方が無いか。運命の日は、どうせ6年後なんだし、それまでせいぜい、人生を楽しまなくっちゃね。)
彼女はそういう結論に至った。
一方その頃……。
ここは獅子王レオンの宇宙船内。
「なあ、セクメト……。」レオンが妻に話し掛ける。
「……ノーコメントです。」つれない彼女。
「……まだ、何も言ってないぞ?」
「昔の話は、しない約束でしょ?」
「だが、事がここに至ってしまった以上、話題にせざるを得ないじゃないか。」
「確かに古代エジプトでは、たくさんヒトを殺したわよ。数え切れない程にね。でもそれは全て、太陽神ラーの命じるままに、した事なのよ。私の意志は、どこにも無いし……むしろ嫌だったかもしれないわ。」
「……そう……かい。」
「何よ。コレ以上、私に何を言わせたいのよ?人類への謝罪?」
「いや、悪かったな。誰にでも、忘れてしまいたい思い出の一つや二つ、有るからな。もう、いいから。」
「6年後に、償いの機会がもらえるなら、そうするわ。借りは返さないと、気が済まないから。」
「……そうだな。それが良かろうな。」
「でも、一つ言わせてもらえるなら、あの時命令を出した、張本人の罪は…どうなるのかしら?」
「太陽神ラーの、真田雪村のことだな。」
「敵対勢力の排除が、大きな目的だったとは言え、あの時の彼の様子は、まるで鬼神のようだったわ。」
「でもそのおかげで、エジプトの人々は皆、救われたんだろう?」
「まあね。ただあんな彼は、もう二度と見たくないけどね……。」
そう言ったきり、セクメトは黙り込んでしまった。
獅子王レオンは、時空渡航機兼宇宙船を、自宅の城の中庭に着陸させた。




