⑪ 午後の怪異
真田香子が、豊橋の自宅アパートの玄関に辿り着いたのは、もう15時を回った頃だった。
途中で軽い昼食がてら、立ち食い蕎麦などを食べたりして、少しだけ道草を食っていたからだった。
彼女が鍵を回してドアを開け、廊下の電灯のスイッチを入れた時だった。
目の前に、予想外のモノが、立ち塞がっているのを見たのだ。
ソレは、頭から白いシーツをスッポリと被り、視界を確保するために、眼にあたる部分だけに穴を開けた、下から裸足の脚が見える人物だった。
パッと見た感じ、割りと小柄で、男か女か、若いのか年寄りなかも分からない。
ただ単に、怪しいヤツだった。
香子はとっさに、そいつを泥棒だと判断し、こんな事も有ろうかと、玄関に置いておいた鉢植えから、長いツルやツタを伸ばして、先制攻撃をした。
しかしそいつは、絡み着くツルとツタの攻撃を、スルリとすり抜け、香子の横を素早く通り越し、玄関から走り出て行ってしまった。
慌てて彼女も玄関を出てみたが、もう既にソイツは表の住宅街の道を走り抜け、向こうの角を曲がるところだった。それは、とてもニンゲン技とは思えないような、猛スピードだった。
「なんて逃げ足の早いヤツ……。」
呟きながら、香子は部屋に戻り、持ち物を点検する。何も取られたモノは無いようだ。
「……コレは、みんなに報告するべき案件かもね。」
彼女はまた、一人で呟いたのだった。
4月10日の土曜日。
時刻は14時ごろ、香子は再び、名護屋テレビ塔の、亜空間レストランにやって来た。
「おや、香子さん。会合でもないのに、珍しいですね。」
サン・ジェルマンが、声を掛ける。
今日は週末だから、彼女の妹の由理子と、杉浦鷹志も居た。
「どうしたの?お姉ちゃん。何だか、顔色悪いわよ。」
由理子もそんな風に言って来る。
今日も赤いウィッグを着けて、お気に入りのメイド服を着ている。
「ちょっと伯爵に、相談したい事が有って……。」
香子は、そこまで言った後、黙ってしまう。
「何か、お困りのようですね。どうぞ遠慮無く、おっしゃって下さい。」
伯爵が穏やかな声で語り掛ける。
「……実は前回の会合の後、家に帰ったら、室内に変なヤツが居たのよ。」
「へえ〜、どんな?」由理子が興味津々だ。
「頭の上から、白いシーツをスッポリと被ったヤツ。しかもあれ、私のベッドのシーツだった……。」
「えっ?」鷹志が反応した。
「……まさか、そのシーツに、眼だけ見える穴が開いていて、下から裸足の脚だけが見える……。」
「そうよ。その通り。何で分かったの?その上、私の植物攻撃は効かないし、やたらと逃げ足が速いのよ。」




