⑫ メジェド
「ああ、ソレは多分……メジェドですね。」
伯爵が静かに呟いた。
「……やっぱり知っているのね?」
香子が納得した顔で言う。
「ソレは、貴女の……つまりオシリスの家で出現するのが、決まり事になっている存在なのですよ。」
伯爵が、当たり前のような顔をして、そう言った。
「今この三次元の時空で、我々に憑依している五次元の存在は、そうしなければ、ここに居られないから、仕方無く、我々の中に入っているのです。」
「……ソレは理解しているわ。」
「でも、メジェドは違う。白いシーツ一枚あれば、この世界に定着できる。彼は、三次元の肉体を必要としない者なのです。」
「やっぱり、型破りな存在なんですよね?」
鷹志がそう言った。
彼も、古代エジプトの神々については、かなりの知識を持っているのだ。
「眼からビームを出したり、口から火の玉を吐いたりするって、本当なんですか?」
「鷹志君、よく勉強してるね。私も見た事はないが、伝説ではそう言われているよ。」
「そして、基本的には、オシリスを護る存在なんですよね?」
「そうだね。何しろオシリスの家が、発生元だからね。」
「私、あんなモノが湧くような、何かしらの変な事でもしたのかしら?ソレと知らずに、秘密の呪文を言ったりとか?」
オシリスの宿主の香子は、にわかに心配になる。
「大丈夫です、安心して下さい。先程も申し上げた通り、コレは、決まり事なのですから。」
伯爵が彼女をなだめる。
「でも、あいつ、慌てて逃げて行ったわ。」
「ひょっとして、香子さんが先に、彼に何かしたんじゃないですか?」
「あっ。」思い当たるフシ、アリアリである。
「……やっぱり。」伯爵が言う。
「いや、だって、アレはどう見ても、ただの不審者でしょう?当然私は、捕まえようとするわよ。」
「……まさか、殴ったり蹴ったりは、してませんよね?」
「私はただ、鉢植えのツタやツルを使って、拘束しようとしただけ。でも逃げられちゃったわ。」
「う〜ん、ギリギリセーフかなあ……。」
伯爵は困り顔だ。
「……でも、ほら、眼からビームとか出されなくて、良かったじゃない?」
由理子がお気楽な感じで、そう言った。
「まあね。それで、ラッキーだった事にするわ。」
「……彼が貴女に、敵意を抱いてない事を祈りましょう。」
伯爵がそう言った。
「……あと、心臓を食べられなくて、良かったよね。彼の大好物らしいから。」
鷹志が、余計な事を付け加えた。
「ええっ!?そんなにヤバイやつだったの?」
「……鷹志君、それ、私は敢えて、言わないようにしていたのに。」
伯爵がヤレヤレという顔で、そう言ったのだった。




