⑥ 由理子と鷹志
「ああ、面白かった。」と由理子。
「ええっ、そういう感想なの?」と鷹志。
これは会合からの帰り道。
伯爵から借りっ放しの、赤いビートルの車内での会話である。
ハンドルを握るのは鷹志。
助手席では由理子が寛いでいる。
「でも驚いたよ。まさかユリちゃんの中に、母性愛の神アセトが居るなんてね?」
「…自覚はゼロなんだけどね。鷹志は私から母性、感じる?」
今日も赤いウィッグを付けた、メイド服姿の由理子にそう言われて、鷹志は一瞬躊躇したが、こう返答した。
「母性かどうかは良く分からないけど、あらゆる動物に対する、誰にも負けない大きは愛を感じるかな。」
「でしょ、でしょ。」
由理子は上機嫌だ。
「…僕も少しは、古代エジプトの神々について、知ってるんだけど…伝説と現在とでは、微妙に家族構成が違うんだよねえ。」
「…でも結局、チームとして集まれたんだから、イイんじゃない?だって、恐怖のナントカに備えるためなんでしょう?」
「恐怖の大王、アンゴルモアだよ。まあ、そっちの方が大変そうだから、多少は"呉越同舟"でも、イイのかもねえ。」
「ゴエツ…なんて?」
「仲の良くない者が一緒に居る事だよ。雪子さんが成雪君に、そう言ってたでしょ?」
「ああ、あれかあ。」
「それに、親子と兄弟姉妹がゴチャ混ぜになっていて…まあ、元々の神話もそうなんだけど。」
「気にしない、気にしない。人類皆兄弟でしょ?」
「…人類の話じゃないから、困ってるんだよ。」
「アハハ…それもそうね。私は、例え相手が人外の者でも、愛せる自信があるけどね。」
「…だろうね。全く、ユリちゃんには敵わないよ。」
「それにしても、6年後かあ…随分先の話よねえ。その頃私、何歳になっているのかしら…ええっと、29歳かあ…流石に結婚してるわよねえ?」
由理子はそう言いながら、チラリと鷹志を見た。
「いいよ。何なら、今すぐ区役所に行こうか?みんな忙しそうだから、結婚式に呼ぶのは大変そうだし…。籍を入れるのは、簡単な事だよ。」
とその視線に答える鷹志。
「ホントにアタシでいいの?」
「ユリちゃん"で"じゃなくて、ユリちゃん"が"、イイのさ。」
「…ありがとう。」
そして鷹志は、クルマの進路を、名護屋市東区役所へと変更したのだった。
こうしてこの日から、目出度く、杉浦鷹志・由理子夫妻が誕生したのである。




