⑤ タイムマシン
「ハイ、質問です!」
そこで由理子が手を挙げた。
「何だい、由理子?」
雪村が優しく尋ねる。
「せっかくココには、伯爵のタイムマシンが、5台も有るんだから、1999年の7月を、みんなで手分けして、見に行けばイイと思いま〜す。」
誰もが頭に浮かべた疑問を、彼女は、あっさりと言ってのけた。
「実は……ソレはもう、試してみたんですよ。」
雪村の代わりに、サン・ジェルマンが答えた。
「……それで、どうだったんですか?」
瞳をキラキラさせながら尋ねる由理子。
「我々12名のサン・ジェルマンズは、それぞれの並行世界の、7月1日から31日までを、シラミ潰しに調査したのですが……別にコレといって、何の危機も訪れなかったのです。」
「……そうなんだあ。」
何故か残念そうな由理子。
「でもそれならもう、心配する事は何も無いじゃない?」
そう言ったのは、香子だった。
「……香子は、本当にそう思うのかい?」
雪村が尋ねる。
「えっ?」
「その日を迎えるまでに必要かもしれない、全ての過程をすっ飛ばして、無理やり結果だけを見に行っても、ソレは"可能性の未来の一例"に過ぎない、とは考えられないだろうか。」
彼は、そんな事を呟いた。
その場に居た面々は、すっかり静まり返ってしまった。
沈黙を破ったのは、伯爵だった。
「まあとにかく、備えておくに越した事は無いでしょう。私もアモン・ラーの雪村君に、同意見なんです。」
会合は、それで解散となった。
皆それぞれ、元の自分の居場所に帰って行った。
もちろん、有事の際には、この名護屋テレビ塔に集まれるように、座標の登録は忘れなかった。
村田京子と酒井弓子の二人は、その辺で時間を潰すからと言って、一緒に出て行き、亜空間レストランには、伯爵、雪村、雪子の3名だけが残った。
「突然のディスクロージャーでしたね?」と伯爵。
「何でも秘密にしたくないタチなので。」と雪村。
「私は未だにホルス神の自覚は無いわ。」と雪子。
「私は薄っすら感じますよ。自分のウチなる、知恵の神ジェフティを。」
伯爵はそう言って笑った。
「僕も……ウチなるアモン・ラーが、主導権を与えてくれているので、自我を失わずに済んでいますね。本当に能力の高い五次元の住人は、それぐらいの芸当は、出来て当然のようですよ。」
雪村の状態も、心配無いようだった。
「私たちは皆、かつて貴方たちが、下級四次元人に乗り移られた時の恐怖を、まだ覚えているから……何と言うか、そう簡単には安心出来ないのよねえ。」
「その気になれば、とっくに精神汚染されてますよ。
だが、ウチなる彼等には、そんな気はサラサラ無い。それは感じます。」
伯爵が、彼女を安心させるためにそう言った。
「だと、いいんだけど……。」
雪子はテーブルに頬杖をついた。




