㉙ 一応の決着
すると、すっかり炭化した首の中から、何やら黒いモヤモヤしたモノが、フワリと出て行った。
「アレが本体ですね。」
伯爵が呟く。
「アレは……見逃すのかしら?」
「抹殺する事が目的ではないので……今後の悪魔的な活動を、自粛して頂けると幸いなんですがね。」
「伯爵は、お優しいのね。」
「そうですよ。今まで、どう思われていたんですか?」
「……もちろん、知ってたけど。」
京子はそう言って、静かに笑った。
「まあ、アレを"悪魔"と呼んでいるのは、ニンゲンだけなので……実際にはこの三次元世界での、四次元人の存在の仕方の、一例に過ぎないのですよ。」
「……でも、魂を取られるのはイヤだわ。」
「そうですね。その点は私も同感です……さあ、そろそろ帰りましょうか?」
やがて二人は、黄色いビートルに乗り込むと、速やかに、帰路に就いたのだった。
帰りの道すがら、助手席のサン・ジェルマンが、京子に語リ掛ける。
「先程の、如何にも悪魔っぽい、異形の姿を見て、京子さんは何か、思い当たる事はありませんでしたか?」
「それは……何かしら歴史上の、有名なモノって事かしら?」
「そうです、そうです。」
「……頭に角が有り、足には蹄を持った人物……ミノタウロスね?」
「そう、古代ギリシアのクレタ島……クノッソス迷宮に居たと言われている……。」
「確か、食料として、9年ごとに各7人ずつ、若い男女の生贄を、捧げられていたのよね?」
「はい。恐らくそれは、精神体のエネルギーを、得るためだったのでしょう。最後は、知恵と戦略の女神、アテナの使いの、テセウスに退治された事になっています。」
「ああ、あの、"テセウスの船のパラドックス"で有名な……。」
「……はい。"全ての部品を入れ替えて、修繕した船は、果たして、元の船と同じと言えるのか"という……そのテセウスです。まるで"我々三次元の存在"の事を、指しているかのようですよね?」
「成る程……確かに。"ニンゲンの細胞も、5年もしたら、すっかり新しいモノに、入れ替わる"らしいもね。」
「実は彼の正体を、タイムトラベラーだと睨んでいるのですよ。そしてその船はタイムマシン。まるで悪魔の成り損ないのような、ミノタウロスは、四次元人の成れの果てではないかと。」
「有りそうな話ね。まさか今から、確かめるつもりなの?」
「まあ、それも無粋な話です。やめておきましょう。」
サン・ジェルマンはそう言って、薄く笑ったのだった。




