㉖ 黄色いビートル
「たまには私の運転で、調査に出かけましょう?」
村田京子が、そんな風にサン・ジェルマンを誘うのは、珍しい事だった。
先日の、杉浦鷹志と由理子の調査報告が、刺激になったのか。伯爵自身も、自分の研究が、一段落したタイミングだったので、彼女のお誘いに乗る事にしたのだ。
「……で、どこに行きますか?」
「確か今回のメインテーマは、"悪魔を探せ"、だったわよね?それなら過去に、ちょうど私向きの、悪魔がらみの事件が有ったのよ。」
「ほう、ソレは興味を惹かれますねえ。」
「じゃあ決まりね。早速行きましょう!あっ、冬物の服装を準備してね。」
「了解しました。」
それから30分後に、冬物のコートを着込んだ二人は、地下駐車場の、黄色いビートルに乗り込んだ。
そして運転席から京子が、センターコンソールパネルに、以下のように座標を入力したのだ。
西暦1855年2月9日
時刻00時00分
北緯50度41分
西経03度27分
「じゃあ、行くわよ。」
京子は、いつもみんながやっている手順で、ビートルに光学迷彩を掛けると、上空に出てから、時空転移装置のスイッチを入れた。
目指すは英国のデポン州、トップシャムの街だ。
時空転移装が終わると、薄暗い街の上空に出た。
クルマ越しにでも分かる程、とても寒い。
それもそのはず。
この年は、イギリスの歴史上、記録的な寒さだったそうだ。
深夜という時間帯が、その寒さに、より拍車をかけていた。
上空から凍てついた街を見下ろすと、それは月明かりの中で、何処もかしこも真っ白な雪に覆い尽くされている。
そして当たり前だが、皆すっかり寝静まっているようだった。
その深夜の雪景色の中を、歩幅25cm程の小刻みな駆け足で、音も無く動く黒い影が見えた。
頭から羊のような角を生やし、背中にはコウモリのような翼を持ち、つま先が二つに割れた蹄をした……ソレはまるで、悪魔のような姿をした謎の生き物だった。
ソレは家々の玄関前まで行くと、そこで少しだけ立ち止まり、ヒラリと屋根の上に跳び上がる。そんな動きを、次から次へと繰り返していた。
確かに怪しいヤツだが、別に無断で、人様の家の中に侵入するでも無い。
そんな事をしながら、一通り街中を廻った後、ソレは街の外へ出て行った。
隣街に行ってしまったのだろうか?
京子たちは、ビートルで、上空からソレの行方を追ってみる事にした。




