㉕ 悪魔とは
腕のデバイスの信号を頼りに、二人は洞窟内を戻り始めた。少しでも、由理子のショックを和らげようと、鷹志は別の話題で話し始める。
「伯爵から聞いた情報によると、どうやら悪魔というモノは、三次元の世界に積極的に関わろうとする、四次元人たちの総称らしいよ。」
「へえ、そうなんだ……。」
ボンヤリとした顔で、相槌を打つ由理子。
「彼等が物理的に、三次元の世界に関わるためには、どうしてもボディが必要になる。それで魂……つまり誰かの精神体を、エネルギーとして消費して、その隙間に入り込んで来るらしいのさ。」
「ふ〜ん。」
「稀に、相手の魂を全て奪って、カラダを完全に乗っ取る事もあるんだよ。怖いよねえ?」
「……そうね。」
「まあ、そもそも、三次元の住人に、四次元人から付け入れられるような、心の隙間が無ければ済む話なんだけど……文字通り"魔が差す"事は、きっと誰にでも有るんだろうね?」
「そうよね……ああ、じゃあ、さっきの黒いモヤモヤしたモノが、四次元人の本体なのね?」
「うん、僕もきっとそうだと思うよ。」
二人でそんな事を話しているうちに、出口に辿り着いたようだった。ただ、目の前に壁が立ちはだかっていて、多分それは、 さっきの笛吹き男の、奏でるメロディでしか開かない。
鷹志は、こんな事も有ろうかと、拾っておいた笛を取り出した。そして、先程のメロディを思い出し、再現して吹いてみる。自慢じゃないが、記憶力には自信が有るのだ。
すると、案の定、目の前の壁が、左右に真っ二つに別れて開いた。昔、家庭教師をつけて、フルートを習わせてくれた両親に、彼はこの時ほど、感謝した事は無かったのである。
二人は早速、洞窟前に停めておいたグリーンのビートルに乗り込む。
そして光学迷彩を掛けたまま、街の上空を飛ぶと、眼下では、人々が大騒ぎをしていた。無理もない。一夜にして、街中の130人の子どもたちが、一斉に失踪したのだから。
「今夜の出来事が、後の世に、"ハメルーンの笛吹き事件"として、語り継がれる事になるんだよ。」
「ああ、なんか、昔、童話で読んだ事が有るような……まさか本当に、歴史上の事件だったなんて。そして悪魔が関わっていたなんて……。」
由理子は、複雑な思いを抱いているようだった。
「さあ、早く戻って、伯爵やみんなに報告しよう。」
また由理子の精神状態が、不安定になりそうな予感がした鷹志は、そう言うと、そそくさと時空転移装置のリセットボタンを押したのだった。




