㉒ 翌日の事件
鷹志はすぐに、ビートルの座標を、同じ場所のその日の深夜に切り替えた。
すると、車窓から見える景色は、一気に真っ暗になった。
そして、月明りに照らされた眼下の街に、例の笛の音が響いている。
「あっ、あの男だわ!」いち早く由理子が気がついて、指を差す。
街の西の外れから、例の男が、昼間と同じあの派手な衣装で、笛を吹きながら歩いてくる様子が、運転席の鷹志からも見えた。
男はそのままゆっくりと街を縦断すると、東の端から山の方に抜けて行った。
すると次の瞬間、不思議な事が起こったのだ。
街中の家々の扉が開き、子どもたちが寝間着のまま、外へ出て来たのだ。
そして全員が、まるで夢遊病のようにフラフラと、街の東の外れに向けて歩き出した。
そちらに目を向けると、笛吹き男が、まさに山道に差し掛かるところだった。
子どもたちは、男に操られるように、一列になって山を登って行く。
それは昼間見た、ネズミたちの姿にソックリな様子だった。
ただ、今回は川ではなく、山だ。
取り敢えず、溺れる心配は無かろう。
そう思って、ビートルの中から二人が見ているうちに、男は山頂付近にたどり着いた。子供たちも、ゾロゾロ後からやって来る。ざっと数えてみたところ、130名ほどは居そうだ。
山の上で男が笛を吹くと、ただの岩の壁だった場所が、見る見る二つに割れて行った。そしてポッカリと、大きな穴が開いてしまったのだ。
男は、その穴の中に消えて行った。
後からやって来る子どもたちも、どんどん穴の中に、吸い込まれるように入って行く。
最後の一人が穴に消える前に、鷹志はビートルを山腹に降ろし、光学迷彩を掛けたまま、由理子と共に外に出た。
そして最後の子どもの後に続いて、二人ともその穴に入った。
すると、二人の後ろで、穴の入り口が、元通りに閉まってしまった。
これで、今後子どもたちを見つけることは、誰にも出来ないだろうと思われた。鷹志と由理子が、こんなにアブナイ橋を渡れるのも、左腕に着けたデバイスがあればこそだった。何しろこれさえあれば、いざという時には、信号を辿って、元の場所に無事に戻れるのだ。
洞窟内は真っ暗ではなく、まるでどこからか、間接照明が当たっているかのように、薄っすらとピンク色に光っていた。
鷹志は、それに対して既視感を感じていた。
由理子も同様だった。
二人とも、何だかイヤな予感がしていた。




