㉑ ハメルーンの笛吹き
……でも、これで一体どうしようというのだろう?
由理子が、そう思った時だった。
街中のあちらこちらから、何やら黒っぽい、小さな生き物たちが、広場の笛吹き男の元へと、集まって来たのだ。
ネズミだ。ネズミたちの大集団だ。
動物好きを自認する由理子にとっても、コレだけ集まると、流石に異様に感じる。
やがて男が、笛を吹きながら歩き出すと、大きな黒い塊のようになったネズミたちの集団も、その後ろに続いて、ゾロゾロと動き出した。
笛吹き男は、どんどん街の中心部から離れて行き、やがてヴェーザー川の河岸に差し掛かった。
彼は、そのカラフルな衣装が濡れるのも構わず、どんどん岸を越えて、流れる水の中に入って行く。
ネズミたちも夢中になって、彼の後を追う。
そしてとうとう、全てのネズミたちが、川底に沈んでしまったのだ。
その後も笛吹き男は歩き続け、最後には、何食わぬ顔をして、向こう岸から街に戻ったのである。
何と驚いた事に、あれ程たくさん居たネズミたちは、一匹たりとも、岸から上がる気配は無かった。恐らく全滅したのだろう。
「何だか可哀そう。」一部始終を見ていた、由理子が呟く。
「結局は、ニンゲンの都合だからねえ。」鷹志も同情的だ。
※ 以下の会話の多くは、ドイツ語でなされて居ますが、作者の都合で、日本語表記になっている事を、お許し下さい。なお、鷹志と由理子は、自動翻訳機能付きリングを、使用しています。
街は喜びの声に揺れた。
事態を聞きつけた市長が、街の住民たちと共に、先程の広場で待っていた。
笛吹き男は、その市長の前まで戻って来ると、こう言ったのだ。
「お望み通り、街のネズミたちは、この私が全て退治いたしました。それでは、お約束の品物を頂けますか?」
その場に居た一同は、かたずを飲んで成り行きを見守る。
しかし、市長の返事はこうだった。
「いや、ダメだ。お前は、ただ笛を吹きながら歩いただけだ。それ以外に何もしていない。こんなのはただの偶然だ。そんなお前に金貨はやれない。」
当然、見守っていた住民の間からも、激しい抗議の声が上がった。
その場は一気に、騒然となってしまった。
「そりゃあ、そうよねえ?市長ったら、金貨が惜しくなったんだわ。」
由理子もそう言いながら、頬を可愛らしく膨らませた。
しかし、件の男が笛を少しだけ鳴らすと、皆あっという間に静かになった。
「いいでしょう、分かりました。それでは以後、私の笛の音がした時に起こる事態は、何であれ全て、偶然の出来事である……それでよろしいのですね?」
「……あ、ああ、そうだとも。そうに決まっている。」
市長はそう言って頷いた。
「……それでは、これにて失礼します。」
笛吹き男はそれ以上抗議することも無く、静かにその場を去って行った。
「ねえ、鷹志。」上から見ていた由理子が、隣の夫をつつく。
「何だい?ユリちゃん。」
「コレって、今後起こるヤバイ出来事の、フラグなんじゃないの?」




