⑱ ジャック・ザ・リッパー
雪子は、川岸の階段を駆け上がる。
すぐ前方を走って行く、男の姿が見えた。
逃がすものか!
とっさに雪子は、チカラを使って跳躍した。
そして、件の男の行く手に、立ち塞がるように飛び降りたのだ。
突然、空から舞い降りた少女に、男は驚きを隠せないようだった。
彼は、この貧民街に似つかわしくない、上等な仕立てのコートを身にまとっていた。
それに、月明かりに照らされたその顔も、まるで女性のようにほっそりして見える。さては、何処かのお貴族様の放蕩息子か?……とても殺人鬼には見えなかった。
しかしながら、確かにその右手には、つい今しがた、若い娼婦の喉をかき切ったばかりの、血がヌラヌラと光る、大ぶりのナイフが握られていたのだった。
「So you're Jack the Ripper ? (貴方が"切り裂きジャック"ね?)」
雪子が静かな口調で尋ねる。もちろん英語だ。
「So, what are you going to do, young lady ? (だったら、どうするつもりかな、お嬢さん?)」
そのやさ男が、テノールの声で答えた。
「You sold Your soul to the devil, didn't you? (貴方、悪魔に魂を売ったのね?)」
「Actually, now I am the devil himself. (いや、むしろ今や、私が悪魔そのものなのだよ。)」
※ 以下、全て英語による会話です。作者の都合により、日本語表記になる事を、どうかご容赦下さい。
「若い女の心臓と性器を、むさぼり食い続けたのは、そのせいなのね?」
「そうとも。本当は処女のモノが好ましいのだがな……そうだ。オマエのも食ってやろう。」
「それだけは御免だわ。」
雪子は、今の会話を踏まえて、そのニンゲンの姿をした悪魔を、今すぐこの場で退治する事を決意した。
しかし男が先に、雪子に向かって一歩踏み込み、ナイフで横殴りに斬りつけて来る。
雪子はソレを、後ろへ跳んでかわした……つもりだった。が、気がつくと、セーラー服のスカーフの先端が、スッパリと切り落とされていた。
「惜しいな。今一歩足りなかったか?」
男はニヤニヤしながら呟いた。
どうやら彼は、実際に見えるナイフの切っ先よりも、長いリーチで斬りつけるチカラを、使っているようだった。これがウチなる悪魔のチカラという訳か。
雪子はすぐに理解した。




