表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
78/79

78話『告白』

 麗香は――きょろきょろと辺りを見渡している。


 ふと、その視線が俺と交わった。

 彼女は驚いた様子で、近づいてきた。


「……直くん……あの、レイナちゃんは……?私、彼女に呼ばれて来たんだけど……」


 状況がよくわからず困惑しているようだった。


「レイナは……帰ったよ」

「……え?」

「さっきまで一緒にいたんだけど。用事があるって」

「そう……」


 麗香は考え込むように、少しうつむいた。

 先ほど俺とレイナの間で起こったであろうことを、想像しているのだろう。


「とりあえず……座る?」


 彼女は、先ほどレイナが座っていた俺の隣の座席に座った。


「マスター、彼女にも同じ一杯をお願いできますか?」


 オーダーを終えると――。


「「……」」


 ふたりして、しばらく沈黙した。


 どこから何を切り出そうか――。


「いいお店……だよね」


 麗香が口火を切った。


「ラグジュアリーな雰囲気だから、もちろん背筋はピンと伸びるんだけど……すごく居心地が良いし、落ち着く」


 彼女はニコっと俺に微笑みかけた。


「麗香が……このお店に俺を導いてくれたんだよ?」

「……え?」

「自分を変えたくて行きついた場所が――ここだったんだ」

「そうだったんだ……」

「はじめてこの店に来た時……本当に自分が惨めで恥ずかしかった。前は、身だしなみも体型もだらしなかったからさ。別世界すぎて、圧倒された。だけど……不思議と自分には合わない、とは思わなかった。努力して、この店に似つかわしい男になれば――麗香が振り向いてくれると思ったから」


 本当に濃い日々だった。


 ディーノさんに弟子入りを志願し、イメチェンに成功。

 恋愛経験を積もうとマッチングアプリを始めたものの、初デートの攻略に苦戦。

 トモミさんとニナさんにもアドバイスをもらい――彩音さんと里実に出会った。

 麗香と仕事を通して接近するも、レイナと想定外の初キス。

 麗香、レイナ、里実がそれぞれ鉢合わせる修羅場も経験した。

 そして、ディーノさんから背中を押してもらい――レイナと里実の告白を断る決断をした。


 麗香を追いかけた日々が――紛れもなく今の自分を形作っている。


「レイナのこと……すごく大切だから、たくさん悩んだ。だけど――俺の中に、麗香を選ばない、という選択肢がなかった。俺にとって……誰よりも麗香が特別だから」


 ぎゅっと両手の拳を握り、彼女のほうに向き直った。


「俺……恋愛経験ゼロなんだ……。だから、めちゃくちゃ遠回りしたし、女々しいと感じさせたり、男らしくないと思わせることもたくさんあったと思う。これからも……麗香を不安にさせちゃうこともあるかもしれない。だけど……」


 人の心は移ろい変わるものだから、未来のことなどわからない。

 だけど――これだけは言える。


「俺はこれからもずっと、麗香を追いかけ続けたい」


 これが俺の答えだ。


「恋人として、ずっと隣にいてほしい。俺と――付き合ってください」


 準備もろくにできていない状態だし、即席の言葉だ。うまく伝わったかどうかはわからないが――身体中、燃えたぎるような彼女に対する俺の熱量が伝わっていてほしい、と切に願いながら、彼女の答えを待った。


 麗香は目線を合わせたまま――しばらく、ただ俺をじっと見つめていた。


 どのくらい時が経ったのかはわからないが――ふと表情を緩ませた。


「うん、ありがと」


 そう言って、目の前のワインに視線を変えた。


 ――えっ……それだけ?


 期待していた反応とは違っていたので、拍子抜けした。


「私も大好きだよ!」

「ずっとその言葉を待ってたよ!」

「愛してる!」


 そんな甘い言葉が彼女の口から聞けるのだと思っていたのだが――。


 彼女は平然とワインを飲み干し、マスターに新たな注文を相談している。


 ――あれ……俺たち……。


「付き合うってことで合ってる……?」


 たまらず確認した。


「え?うん。私も直くんのこと好きだし?」


 あまりにもさっぱりとしすぎていたので、思わず――。


「ほんとに俺のこと好きなんだよね?」


 再び確認をとった。


「うん」

「……」

「え?どうしたの?」

「……いや、やけにさっぱりしてるなと……」


 麗香は、ふふふと楽しげに笑った。


「心配しないで?ちゃんと直くんのこと、大好きだから!」


 そう言って、笑顔を向けたかと思えば一転――少し眉間にシワを寄せながら、複雑な表情を浮かべた。


「なんというか……この席、さっきまでレイナちゃんが座ってたわけでしょ?はしゃいで喜びにくいというか……」


 人の気持ちに敏感で、他人を思いやれるところが彼女らしい。


「レイナとさ……友達になってあげてくれないかな?」

「え……?」


 予想外の提案に驚いたのか、麗香は目を丸くした。


「俺の直感……なんだけど、麗香とレイナってなんというか……相性が良さそうというか。ライバル同士なのにサシ飲みして連絡先交換してるし、ためらいなく麗香に電話をかけてるし。たぶん……レイナって、気を許せる友人って多くないと思うんだよね。俺はもう……純粋に友達ってわけにもいかないからさ」


 レイナにとっても麗香にとっても、望んでいないことかもしれない。

 都合のいい話だということはわかっているが――切なる俺の願いだった。


「直くんって、ほんと優しいよね」

「……無理なお願いだよね」

「私は……レイナちゃんには恩もあるし、何より――彼女の真正面からぶつかってくる感じとか、年下なのにちょっと生意気なところとか、逆に清々しくて私は好きだし、可愛がってあげたいなって思う」


 麗香はひと呼吸置いた。


「だけど……彼女はどうだろう……。好意を寄せてた男性を奪った女と――仲良くしたいかな……?」


 そりゃそうだ。当然、いい感情を持つはずがない。


「……そう……だよね……」

「……聞いてみるよ。レイナちゃんに。どっちにしろ、さっきの電話の件を問い詰めたいし」


 麗香はそう言って笑った。


「ありがとう」


 彼女の心意気に救われた気がした。


 23時半――。


 俺たちは店を出た。


「今日は急だったのに、来てくれてありがとね」

「こちらこそ……」


 麗香はふいに、ぎゅっと俺の左腕にしがみついた。

 突然だったので、身体がびくっと、わかりやすく反応した。


「……直くんってさ。色仕掛けに弱いよね?レイナちゃんといちゃいちゃしてたし、キスもしてるし……」

「……えぇ。誰だって男は……そうじゃない……?」

「直くんが他の女に目移りしないように、私も努力しないとだね」


 そう言って、麗香は不敵に笑みを浮かべながら俺の顔を覗きこんだ。


「来る?」

「……え?」

「私の家」


 そんなの、もちろん――。


「……行きます」


 こうして、俺たちは――麗香の家で恋人として一夜を共にしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ