最終話『俺の物語』
1か月後――。
「ねぇねぇ、お兄さん。かっこいいね。私と一緒に飲まない?」
東京・六本木。
スマホを操作する手を止め、チラッと前を見る。
すると、目の前にはスレンダーな体型の美女がいた。
もう肌寒い季節だというのに、ミニ丈のワンピース姿で、惜しげもなく生脚を露わにしている。
「すみません。彼女待ってるんで」
再びスマホに目をやった。
俺の一言を聞き、一瞬で俺に興味がなくなったのか――女は「あっそ」と言って、風のように去っていった。
いまだに……実感が湧かない。
麗香が「自分を好きだ」と言ってくれていること。
この1か月――毎日、夢なのかもしれないと思いながら過ごしてきた。
「直くん!お待たせ!」
小走りで俺に駆け寄り、目の前で屈託のない笑みを浮かべる麗香。
この笑顔を見るたびに、「ああ、現実なんだな」と実感する。
「あれ?新しいシャツ?」
そう――今日はおろしたてのシャツをニットの中に仕込んでいた。
「赤って……直、珍しいね?」
「……どう?似合うかな……?」
麗香はニコっと微笑んだ。
「うん。似合ってるよ!」
この色を着るにふさわしい男になれたかはわからない――だけど、ただ純粋に「この赤いシャツを着たい」と思った。
六本木の街は――俺がはじめてここに来た日と変わらない。
高層ビルが立ち並び、華やかで、都会的。
多くの人が行き交うが、彼・彼女らは誰一人として下を向かない。
我こそが『この街に選ばれた人間だ』とでも言わんばかりに、堂々と闊歩する。
ただひとつ、前と大きく変わったことといえば――。
隣に――麗香がいるということだ。
俺の熱い視線に気づいたのか、麗香が「どうかした?」と不思議そうに首を傾ける。
「ううん。今日も麗香は可愛いなって思ってさ」
「え~いきなり何?そういうの恥ずかしいって!」
俺と麗香は顔を見合わせ笑い合った。
「あれ?直~?麗香さん?」
背後から、聞き馴染みのある声がした。
「レイナ!」
「レイナちゃん!」
「もしかして、ふたりとも『Lv.∞』行く途中?」
「そうだよ」
「私もなの!一緒に行こ?」
そう言って、レイナは俺の右腕にしがみついた。
「ちょっと!レイナちゃん!」
「え~別にいいじゃん?減るもんじゃないし」
右腕にはレイナ、左腕には麗香と――両腕に華の状態だ。
「直の彼女は私なんだけど!」
「フラれた側の気持ちにちょっとくらい寄り添ってよ!」
と、彼女らは言い合いをしているが――。
――いい夜だな……。
俺は呑気にもそんなことを思っていた。
『Lv.∞』に着くと――。
「いらっしゃいませ。直さん、麗香さん、レイナさん」
馴染みの店員の康太さんが笑顔で出迎えてくれた。
バーカウンター越しの純太さんも微笑みながら、軽く会釈をしてくれた。
いつも通りの光景だ。
「本日は3名様で……」
康太さんがそう言いかけたのだが――。
「はい!」
「いえ、2名です!」
レイナと麗香が異なる回答をした。
「もともと、レイナちゃんはひとりで飲む予定だったんでしょ?」
「合流したんだから3人でいいじゃん?」
ふたりが言い合いをやめないので、康太さんが困惑した様子を見せた。
「すみません……3名で……」
小声でそう伝えると――麗香がキッと俺を睨んだ。
「なんで3名なの?」
「せっかく偶然会えたんだし。ね?みんなで楽しく飲もう?」
麗香は少しふてくされたように、頬をぷくっと膨らませた。
「直、相変わらず優しいね?私と浮気する?」
「ちょっと!レイナちゃん!」
「冗談だって!」
レイナはあはははと豪快に笑った。
いつもの半個室に入り、俺と麗香は隣同士でソファに座った。
レイナは対面のソファに座るだろうと思ったのだが――。
俺のもう片側の隣に腰かけた。
「レイナちゃん、さすがに……」
麗香が何かを言いかけた時――。
俺のスマホが鳴った。
表示を確認し、すぐにその電話に応じた。
「もしもし」
「直~!久しぶりだネ~!元気?」
電話の相手は――ディーノさんだ。
「はい!変わらず元気にやってます!今、テレビ電話ってできますか?実は今日……スペシャルゲストがいて!」
テレビ電話に切り替える。
「やっほ~ディーノさん!」
「お久しぶりです!」
両側から、麗香とレイナが顔を出した。
「レイナちゃん、麗香さん!久しぶり!ふたりとも元気そうだネ?」
「ディーノさん、聞いて?麗香さん、私をのけ者にして直を独占しようとするの~」
「え?直は私の彼氏なんだから当然でしょ?」
「いっつも束縛されると、直だって疲れちゃうでしょ?」
「いやいや。束縛というか、レイナちゃんは距離が近すぎるんだって!」
いがみ合っているふたりを見て、ディーノさんは一言。
「直、モテモテだネ~!」
まさか――はじめてディーノさんと出会った時は、こんな未来が訪れるなど微塵も想像できなかった。
「そうですね。全部……ディーノさんのおかげです。俺を受け入れてくれて、導いてくれて……本当にありがとうございました」
改めて、頭を下げた。
ディーノさんは「もういいって~」と言うが、何度、感謝を伝えたって足りない。
まぎれもなく、彼との出会いが俺を変えたのだから。
「そういえば、ディーノさん。今どこにいるの?」
「今はエジプト。アフリカ大陸を横断中なんだヨ」
「ほんと、突然なんだから。世界一周ひとり旅、なんてさ」
ディーノさんは――俺が麗香さんに告白し、レイナをフッたあの日――日本を発った。
俺の恋愛を応援するうちに、改めて美央さんへの思いが募ったそうで――生前、彼女と約束していた世界一周旅行を実現するべく、日本を離れる決断をしたのだという。
だが、こうして気まぐれで電話をかけてきて、俺のことを気にかけてくれている。
「もし3人で旅行することがあれば、連絡して。僕がガイドしてあげるからさ!」
「ディーノさん、お言葉ですけど……3人で旅行することは断じてありませんから!」
麗香がそう言うと――ディーノさんは声を上げて楽しそうに笑っていた。
「飲み会の最中にごめんネ~!出かける前にちょっと話したかっただけだからさ。それじゃ!楽しんで~!」
「え、あ、ちょっと!」
ディーノさんは一方的に電話を切った。
「もう……気まぐれなんだから……」
俺はスマホをバッグにしまった。
「ディーノさん、相変わらず元気そうだったね」
「そうだね。ディーノさんの話を聞くたび、本当に人生楽しんでるなって、羨ましくなるよ」
「私たちもさ、早く乾杯して楽しも?」
待ちきれないといった様子で、レイナがソワソワしている。
「それじゃ、今日も楽しく飲もう!乾杯~」
「「乾杯~」」
こうして今日も、俺は港区・六本木――ここ、『Lv.∞』で、新たな物語を大切な人たちとともに紡いでいくのだった。
END.
長きに渡る連載にお付き合いいただきありがとうございました!
読んでくださったみなさんの心がほっこり温まっていたなら、嬉しいです。
次作は、スカッと系のお仕事モノを準備中です。
来月中の連載開始を目指していますので、ぜひご期待いただけますと幸いです!
本当にありがとうございました!(ぜひ評価もよろしくお願いいたします♪)




