表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
76/79

76話『忠誠心』

「お兄さん、おひとりですか?一緒に飲みません?」


 俺の隣の席にひとりの女性が座った。


 チラッと横目で見ると――ツヤツヤのショートヘアにくっきりとした目鼻立ち。

 タイトな黒のロングワンピース姿で、俺のほうに向かって脚を組んでいる。


 ワンピースのサイドスリットがざっくり開いており、程よくむちっとした太ももが片側だけ大胆に露わになっていた。


 俺は視線を前に戻した。


「すみません。今日はひとりで飲みたい気分で」

「もう十分、ひとりで楽しんだんじゃないですか?お兄さん、1時間以上前から店にいますよね?」


 そう――『Lv.∞』(レベルインフィニティ)で飲み始めてから、1時間以上が経っていた。


「私、ずっと向こう側のカウンターからお兄さんのこと見てたんです。気づかなかったですか?」


 そう言って、女は俺の顔をのぞきこんだ。


 だが――考え事をしていたからか、まったく存在に気づかなかった。


「そうですね。気づかなかったです。すみません」

「ずっとぼーっとしてたから……もしかして、彼女と喧嘩でもしたんですか?」

「……いえ。彼女とかでは……」

「お兄さん、もしかしてフリーですか?」

「……まあ、そうですね……」


 俺の回答を聞くなり、女はあからさまに距離を詰めてきた。


「だったら、何も問題なくないですか?私、そんなに魅力ないですか?」


 端正な顔立ち、細身だがメリハリのある体型――魅力がないなんてことはない。

 間違いなくモテる女の典型だろうし、世の多くの男性が彼女からの誘いをNOとは言わないのかもしれない。


 だが――。


「俺、好きな人がいるんで」


 ハッキリと伝えた。


 女は言った。


「だから?」


 俺はチラッと女を見た。


「何がダメなんですか?」


 女は首を傾げている。


「今フリーなんだから、逆に今遊んでおかないとじゃないですか?それに……彼女ができたって、彼女ひとりに忠誠を誓って一生その人だけ、なんて無理でしょう?お兄さん、かっこいいんだしもったいないよ?」


 確かに――この先の長い長い人生を、ひとりの女性だけを愛し続けるというのは、難しいのかもしれない。


 俺はディーノさんのようにはなれない。

 別の女性を魅力的だなと思う時もあるだろうし、誘惑されて浮気心が湧いてしまう時もあるだろう。


 だけど――絶対に失いたくないと思う気持ちさえあれば、理性を踏み外すなんて選択はしない。


「世の一般的な男性のことはよくわからないですけど……少なくとも俺は、好きな人に誠実であり続けたいですね」


 俺はひと口、ワインを飲んだ。


 女は一瞬、ムッとした表情を浮かべたように見えた。


「お兄さんはそうかもしれないけど、相手の女性はどうだろう?女ってお兄さんが思うほど清い生き物じゃないよ?」


 それは――正直、わからない。

 俺は彼女のことだけを愛したいと思っているけれど、彼女の心の内はどうしたって彼女にしかわからないし、気持ちが移ろうことももしかしたらあるかもしれない。


 だけど――。


「確かに、相手の女性の気持ちが変わることもあるかもしれません。もしそうなったら――その時はその時です。でも、そうならないように努力します」


 女は俺の回答が不満だったのか、さらに不機嫌そうに一瞬、顔をしかめた。

 だが、すぐに表情が変わり、スイッチが入ったように見えた。


「お兄さん、一途だし真っ直ぐで……本当にかっこいいね?」


 女は俺の太ももに触れた。


「私、お兄さんにもっと興味が湧いちゃった」


 さらに近距離で身体を寄せる。


「別に今夜だけでもいいの。誰にも言わないし、連絡先も交換しなくていい」


 女は俺の耳元に、さらに顔を近づける。


「私とお兄さん、ふたりだけの秘密」


 女の唇が俺の耳に触れた。


 その時――。


「ねえ、何してんの?」


 腕を組んで仁王立ちし、女の真横に立っていた女性――。

 レイナだった。


「あんた誰?直、知り合い?」

「ううん。知らない人」


 レイナはキッと女を睨んだ。


「そこ、どいてくんない?」


 女は不機嫌そうにレイナを一瞥し、席をどいた。

 そして、「マスター、チェックで」と言い、そそくさと帰っていった。


「あからさまに色仕掛けされてたじゃん?」

「……そうだね。びっくりしたよ」

「直、全然興味なさそうで安心した」


 レイナはふっと笑った。


「レイナ、今日は……ひとり?」

「うん。ひとりで飲もうと思って来たけど、直が来てたなんてラッキーだったわ!一緒に飲も?」

「……うん。もちろん……」


 そう――別に、レイナと今日約束をしていたわけではない。

 偶然だった。


 でも――今日、彼女に「会おう」と連絡を入れようと思っていたから、ちょうどよかった。


「そういえば、直、ディーノさんと連絡とってる?昨日連絡入れたんだけど、既読にならなくてさ。ディーノさんって即レスが基本だから、何かあったんじゃないかって、ちょっと心配で」


 俺はスマホを確認した。


 ちょうど、1時間ほど前に――ディーノさんに連絡を入れていた。

 いままでの感謝の気持ち、そして、自分の決断についての内容だった。


 だが、既読はついていない。

 まだ1時間足らずだが、いつもの彼の返信速度を考えると、確かに遅いのかもしれない。


「俺は1時間ほど前にメッセージ入れたけど……未読だね」

「そっか……ちょっと気になるから、電話してみようかな。ついでに、ディーノさんの予定が空いてるようだったら、今日は3人で飲もうよ!」


 レイナはニコっと微笑んだ。


 久しぶりにディーノさんに会いたい。


 でも、今日は――。


「ごめん。ディーノさんのことは確かに気になるんだけど……今日は、ふたりで飲みたい」


 レイナの目をまっすぐ見て伝えた。

 彼女も、俺の真剣な雰囲気を察したのか、緩んでいた表情が気持ち引き締まったように見えた。


「そう……わかった」


 彼女は手に持っていたスマホをテーブルに置いた。


 少し沈黙が流れた。


 改めて話を切り出したのは、レイナだった。


「麗香さんと……デートしたんだね?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ