表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
72/79

72話『修羅場ふたたび』

 身体が一瞬硬直したが、慌ててすぐにレイナと距離を取る。


「いい雰囲気のところごめんなさい」


 麗香さんは平然とした様子で、対面のソファに腰かけた。


 俺たちに向けた視線は一切揺らぐことなく、その表情には覚悟が宿っているように見えた。


「レイナさん、今日は時間を作ってくださりありがとうございます」

「……いえ」

「大河内くんもありがとうね」

「……はい……」


 ――やっぱり『大河内くん』なんだな……。


 もやっとした。


「まず、この間のこと……改めて本当にごめんなさい」


 麗香さんは深々と頭を下げた。


「麗香さんが謝ることじゃ……」


 ちらっとレイナを見ると、何も言わずじっと麗香さんを見ていた。


「ふたりに対してすごく不誠実な言動をしてしまったなって……反省してます」


 麗香さんは唇をぎゅっと噛みしめた。


「あの日――レイナさんに言われた通り……いままで、どっちつかずな態度で大河内くんに接してきました。……自覚しています」


 麗香さんは俺に視線を向けた。


「心地良い関係を壊すのが……怖かった。いままで同性の友達にさえ、一線を引いて接してきたから。素の自分をさらけ出せて、そんな自分を認めてくれる人――今まで出会ってこなかったから」


 その力強い瞳から、必死で俺に伝えようとする彼女の切なる思いが伝わってきた。


「恋人としてそばにいてほしいと思う反面、別れた時のことを思うと、今のままがいいって思う自分もいて……。『好き』っていう純粋な気持ちとか、そういうのは考えないようにしてた。だけど、レイナさんに一喝されて――今のままじゃダメだって思った」


 そう言うと、麗香さんはレイナさんのほうを向いた。

 そして、深々と頭を下げた。


「レイナさん、ごめんなさい」


 頭を上げると同時に、俺のほうに再び視線を向けた。


「私、大河内くんが好きです」


 ハッキリとした声。一切ブレのない澄んだ瞳。

 彼女の気持ちが痛いほど伝わってきた。


 いままで、麗香さんは「思わせぶりだな」と感じる言動が多かった。

 だからこそ――この告白の重みをずっしりと感じた。


「智也には――ちゃんと告白を断りました。今さら、遅すぎるのかもしれないけど……私の気持ちはちゃんと伝えたくて」


 俺たち3人の間には――しばらく、沈黙の時間が流れた。


 たぶん、今この瞬間にもっとも求められているのは、ふたりの好きに対する自分のアンサーだろう。それは、重々わかっている。


 でも正直――今この瞬間に答えを出すことはできない。


 本音を言えば、ふたりと付き合いたい。

 恐ろしい浮気心だなと思うが、優劣つけがたいというのが嘘偽らざる本心なのだ。


 とはいえ、俺の曖昧な態度が長引くほどに、彼女たちに期待を持たせ続け、縛り付けてしまう。


 だから、最後に――。


「直、麗香さんとデートしてきなよ」

「え……?」


 ドキッとした。


「麗香さんとも1日デートしないと、フェアじゃないじゃん?」


 レイナは俺の本心を見抜いているのだろうか。

 そう――答えを出す前に、俺を「好きだ」と言ってくれた今の麗香さんと、改めて向き合う時間がほしかったのだ。


 まさかレイナに背中を押されるとは思わなかったが、彼女らしいなとも思った。


「麗香さん。改めて、俺とデートしてください」


 俺は右手を差し出していた。

 無意識だった。


 麗香さんは控えめに、俺の手を取った。


「こちらこそ……よろしくお願いします」


 俺たちは軽く手を握り合った。

 初デートの時のような緊張感と照れくささがあり、なんだかくすぐったかった。


「レイナ……ありがとう」


 彼女に深々と頭を下げ――ふたりの視線を交互に見つめながら、伝えた。


「ずっと曖昧な態度でいること……本当にごめんなさい。麗香さんとのデートが終わったら――自分なりの答えを出します」


 誠実という仮面を盾に、今までずるずると自分の好きに優劣をつけることを避けてきた。


 そんな自分に対しての――決意表明でもあった。


「……そっか」


 小さな声でポツリとつぶやいたのは――レイナだった。


「あの」


 彼女は麗香さんのほうに身体を向けた。


「この後、サシ飲みしません?」


 ――え……?


 サシ飲みとは……麗香さんとレイナが、ということか?

 状況がいまいち掴めず、困惑した。


 麗香さんも一瞬、驚いた表情を浮かべたが――彼女の視線に応えるように「はい」と応じた。


「え……あの……俺は?」

「直とは、ここでバイバイ!」

「へ……?」

「ここからは女同士の本音のタイマン!ほら、帰った帰った!」


 レイナはぐいぐいと俺の背中を押し、部屋から押し出そうとする。


「いや……でも……」


 話自体は一旦まとまったわけだから、修羅場まがいの展開にはならないだろうが――心配だ。


 ――というかそもそも、この場の主役は俺では?


 そんなことを思いながら、予想外の展開に戸惑っていると……レイナが耳元で小さくささやいた。


「さすがに殴り合いはしないから、安心して!」


 そう言って、レイナはニコっと笑った。


 その笑顔が逆に恐ろしく、身震いした。


 こうして――俺は追いだされる形で『Lv.∞』(レベルインフィニティ)を後にした。


 時計を見ると、時刻は19時半過ぎだった。

 ということは――3人で話したのは、わずか30分足らずだったということになる。

 緊張感を持って臨んでいたはずが、拍子抜けだ。


 まだ時間も早い。

 六本木の街はまだまだ活気に満ちている。


 ――今日はひとりで……お店開拓でもするか……。


 きっとまだ、この街には俺の知らない一面があるはず。

 俺はこの日――ひとり六本木のバーを新たに2軒はしごした後、帰宅の途についたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ