表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/79

64話『ディーノの過去【後編】』

 あの日――。


 僕は、用意していた婚約指輪を店に取りに行ってから帰宅した。

 翌日にプロポーズをする予定で、やっと美央と結婚できるんだって、浮かれてた。


 だけど、自宅に着くと、いるはずの美央がいない。

 電話したりメッセージを送ったりもしたんだけど……返事はなかった。


 イヤな予感がして、彼女の部屋に入ると……大きな家具だけが残されていて、彼女が愛用していたマグカップも、化粧品も、部屋着も――すべてなくなっていた。


 僕はその瞬間、膝から崩れ落ちた。


 その日以降――毎日のように過去を振り返っては後悔した。


 もっと彼女に愛情表現をしていれば。

 自分に経済力がもっとあれば。

 家事を全部自分が担当していれば。

 もっと早く生まれていたら。


 たられば、ばかりが頭をよぎったよ。

 

 でも、無情にも時間だけが過ぎていき、何日経っても美央が家に戻ってくることはなかった。


 美央がいなくなって1か月ほどは――彼女の職場をあたったり、行きつけのお店に行ったり、毎日心当たりのある場所を探しに回ったよ。


 でも、彼女を見つけることはできなかった。


 それから――何かが吹っ切れたように、僕は荒れた。


 港区に入り浸って、毎日のように女の子をとっかえひっかえ。

 感情のないロボットと化して、ひどい言葉を浴びせてたくさん傷つけた。


 美央との結婚のためにコツコツ貯めていた貯金も底をつき、仕事もせず、この容姿だけを武器に女の子たちに養ってもらうヒモ生活を送った。


 でも、当時はなんとも思わなかったよ。

 何もかもどうでもよかったから。


 そんな自堕落な生活を続けて、2年が経とうとしていた頃――。


 目的もなく六本木をフラフラと歩いていた時、ふいに人気のない路地裏に入った。

 いつもは通り過ぎてしまう場所だったけど、その日はなんとなくその道に導かれているような気がしてね。


 そこで見つけたんだ。このお店……『Lv.∞』(レベルインフィニティ)を。


 中に入ると、まだオープンしたてだったからか、その時は店内に客はひとりもいなかった。


 そして、純太さんと再会した。

 純太さんとは美央と3人で1度だけ食事に行ったことがあり、顔見知りだった。


 僕は――純太さんにすがった。


 なぜ、美央は僕のもとから何も言わずに去ったのか。

 どうしたら彼女をつなぎとめることができたのか。

 この数年、彼女のいない世界をどんな思いで自分が過ごしてきたか。


 みっともなく泣きわめきながら、必死で訴えたよ。


 純太さんは何も言わず、無言で僕の言葉を受け止めてくれていた。

 気が済むまで思いを吐き出した後、僕はぐったりとその場にへたり込んだ。


 純太さんは、店の看板を「CLOSE」に変えた。


 そして、あの日の真実を教えてくれた。


「美央は……亡くなったよ」


 彼女は――乳がんを患っていた。

 気づいた時にはすでにステージIII。

 進行が早く、転移も見つかったそう。


 乳がんの発覚は、僕の前から姿を消す数週間前のこと。


 純太さんいわく、そのことを僕に打ち明けるかどうか、彼女はかなり悩んでいたらしい。

 でも結局、彼女は僕に何も告げることなく、ひとり闘病生活を送ることを選んだ。


 そして、闘病から1年足らずで――彼女はこの世を去った。


「これ、美央から」


 純太さんが渡してきたもの。

 それは、一通の手紙だった。


「もしもレオと再会することがあったなら」と、純太さんに託していたらしい。


 僕は涙で濡れた目元をぬぐい、手紙を開けた。


 ~~~

 レオへ


 突然あなたのもとを去ってしまったこと、本当にごめんなさい。


 あなたはきっと、どうして病気のことを打ち明けてくれなかったのかと、ひどく悲しんでいることと思います。


 あなたなら……きっと私が病気のことを話したとしても、闘病中の私に必死で寄り添い、最期までそばにいる選択をしただろうと思います。私のことを……あなたは心から愛してくれていたから。


 だけど、だからこそ……別れる決断をしました。

 弱々しく衰えていく姿を、あなたに見せたくなかった。

 元気な姿のまま、私のことをずっと覚えていてほしかったから。


 はじめて会った時――あなたのことをこんなにも深く愛する未来が訪れるなんて、思ってもみませんでした。正直、そこらへんのナンパ男とそう変わらないだろうって思っていました。


 でも、レオは私に振り向いてもらうために、これ以上ないくらいに努力してくれたね。片言だった日本語もみるみるうちに上達して、顔つきもとっても男らしくなったなって思ってたよ。


 さすがに、100本のバラを持ってお店に来た時は、キチガイすぎるわって思ったけど(笑)

 私がどれだけ適当にあしらっても、めげずに私に向き合おうとしてくれた。


 そして、それは付き合ってからも変わらなかったね。

 語り尽くせないほど……あなたとは大切な思い出がたくさんあります。


 病気になってショックだったし、あなたにつらい思いをさせてしまうこと、とても申し訳ない気持ちでいっぱいだけれど……。


 人生の最後にあなたと出会えたこと、かけがえのない思い出を作れたこと――私は心から神様に感謝しています。


 レオ、日本に来て私と出会ってくれて、愛してくれて、本当にありがとう。


 誰よりも何よりも、私を優先して尽くしてくれたレオ。

 私にとっては、冗談ではなく、本当に完璧すぎる彼氏でした。


 あなたならきっと……世界中の女性を幸せにできる。

 だから今度は……別の女性に愛を注ぎ、幸せにしてあげてください。


 改めてになるけれど、こんな形での別れになってしまって本当にごめんなさい。


 レオと出会ってからの2年半、本当に幸せでした。


 美央

 ~~~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ