51話『意外な一面』
今は里実と向き合う時間――。
他の女性の話を出すなど、地雷でしかない。
俺はディーノさんに視線を投げかけ、小さく首を振る。
だが――ディーノさんは一切こちらを見ていない。
彼は、さらに里実を焚きつけるように続けた。
「僕の友達もネ、直のこと好きみたいなんだヨ~?」
完全に、彼女にけしかけている。
当の里実はというと――ディーノさんの目をじっと見つめており、俺に背を向けたまま。完全に俺の存在を無き者とされている感じだ。
彼女は今――何を考えているのだろうか。
俺はただ、この様子を見守ることしかできない。
「直……モテるんですね……」
里実はディーノさんから視線を逸らさない。
「里実ちゃんはどうしたい?諦める?」
ディーノさんは彼女を試すかのように、選択を迫った。
「諦めたくない……です」
里実は自分に言い聞かせるように――確たる意志を持って、言葉にしたように思えた。
「だってさ~!直~?」
ディーノさんは突如、俺に話を振ってきた。
彼はいつも通りの、意地の悪い笑みを浮かべていた。
「えっと……あの……」
どう話を切り返せばいいか、あたふたしていると――ディーノさんはニヤッと一瞬、口角を上げた後、「里実ちゃん」と再び視線を彼女に戻した。
「直の攻略法、僕が教えてあげようか?」
――なっ!?
会話の予測ができず、俺は完全に振り回されている。
絶妙なアシストで、俺を応援してくれているようにも見えるが――自分がただただこの状況を楽しんでいるだけのようにも思える。
後でちゃんと、事の真意を問いたださなくては――。
「ぜひ、攻略法、教えてほしいです!」
里実はディーノさんの提案に対して、前のめりで食いついた。
正直、意外だなと思った。
彼女は大きなトラウマを抱えている。だから、たぶんメンタル的に強いタイプではない。
人間模様が複雑になるような場に、自分から首を突っ込むことはしないだろうと思い込んでいたのだが――ライバルの存在がかえって、彼女に火をつけたのかもしれない。
「直はネ、根がすっごく真面目だから、人の道理に外れた言動をする人が苦手。遅刻するのに連絡しないとか、店員さんに横柄な態度を取るとか、ダメ」
里実はうんうんと、頷く。
「それから、押しに弱い。自分のために何かをしてくれたり、尽くしてくれると喜ぶから、どんどんアピールしたほうがいいヨ」
「はい」
「あと、すごく悩みやすい気質だから、できる限り自分の思っていることを言葉で伝えると、直も安心できると思う」
「わかりました」
ディーノさんは「最後に」と言って、チラッと俺のほうを見た。
「スキンシップに弱いかナ~~?」
里実は反射的に俺の方に振り返った。
一瞬、目が合う。
だが――恥ずかしさから、お互い瞬時に目をそらした。
――な……何を言ってるんですかぁぁぁ!!!!!
そりゃ、男性は誰だって弱いだろう。
特別、俺だけがってわけじゃない。
それなのに、なぜあえてそれを……!
「僕の攻略法、ご本人サマはどう思ったかナ?」
ディーノさんは俺に話を振った。
本当は、彼に一矢報いたい気持ちはあった。
だが、ディーノさんの人物分析は的確すぎて何も間違っていない。
「すべて、ディーノさんのおっしゃる通りです……」
そう言うと、彼は満足げな表情を浮かべていた。
その後は――。
里実の話を聞くでもなく、俺自身の話をするでもなく――ディーノさんによるモテ談義が繰り広げられた。
これは里実たっての希望だ。
彼女は「恋愛経験がそう多くないから」と、モテる女性のテクニックを知りたいとのことだった。
ファッションやヘアスタイル、メイクなどの身だしなみについてはもちろん、男性をドキッとさせる仕草や振る舞い、表情など――ディーノさんは惜しみなく、彼女にアドバイスを送っていた。
途中――里実がお手洗いに立ったタイミングで、俺はディーノさんを問い詰めた。
「ディーノさん!他の女性の存在をチラつかせるのは、NGじゃないんですか?俺、ハラハラしちゃいましたよ……」
「焦ってるのが手に取るようにわかったヨ!面白かったナ~!」
彼はとても楽しそうに笑った。
そして、里実の印象をこう表現した。
「彼女さ、一見すると柔らかくて穏やかな印象だけど。目を見た時――直感したんだよネ。この子、意志がけっこう強くて負けん気がありそうって」
俺は里実のそんな一面を知らない。
彼レベルになると、目を見ただけで相手の本質を見抜けるのか――。
「だから、ライバルの存在が彼女の本能に火をつけるんじゃないかと思って」
続けて「ま、一か八かの賭けだったけど」と笑った。
結果として、里実を焚きつけることに成功し、まんまと『デートで刺激を与える』という彼の狙い通りになったわけだ。さすがだなと思った。
「意外でした。あんなに前のめりで…俺みたいに、恋愛指南をディーノさんにお願いするなんて」
「里実ちゃんは、それほど直のことが好きで、取られたくないんでショ?」
そうかもしれないなと、心の奥底で思ってはいたことだが。
彼の言葉を聞き、俺は胸を熱くした。
「ディーノさんは……里実のことどう思いましたか?俺の恋人として……」
率直に聞いてみた。
「それを決めるのは直でショ~?僕がどうこう言うことじゃないヨ」
そりゃそうだ。
ディーノさんに求めすぎたなと、反省した。
「そうですよね。すみません」
「彼女、とってもいい子だから……直と成就しなくても、僕が幸せにしてあげるヨ!」
そう言って、俺に軽くウインクをした。
そうだ――ディーノさんは、“世界中の女性を幸せにするために生まれてきた人”。
はじめて彼と出会った時、自分でそう言っていたのを思い出した。
俺は一生、ディーノさんには敵わないなと思った。
22時45分――。
「そろそろ出ようか」
俺は、里実に声をかけて席を立った。
明日は――麗香さんとデートの約束がある。
里実には申し訳ない気持ちだが、明日に向けて準備もしたい。
「そうだね」
俺たち3人は出口へと向かう。
すると――俺たちの目の前で扉が開いた。
そこには、ひとりの女性が立っていた。
ショート丈の黒のワンピースに、ヒールの高いサンダル。
あまりにスタイルがいいので、真っ先に脚に目がいってしまった。
目線を下から上へと上げた瞬間――。
――おいおい嘘だろ……!
そこには、レイナさんが立っていた。




