43話『爆弾ネタ』
「次は麗香さんなんですけど…」
「ウン」
「麗香さんって…直くんの本命ちゃんだよね?」
麗香さんとのやり取りは、すべて仕事の延長だ。
録音なんて、ひとつも残っていない。
だから、3人には彼女との距離感が全然伝わっていないはず。
一番、録音をして助言をもらうべき相手なのだが――ニナさんに麗香さんのことを再確認されたことで、もどかしさを感じた。
「はい。会社の先輩で…好きな人です」
この“好き”が、憧れなのか、恋なのかは、わからないが――。
好きの気持ちに偽りはない。
「職場恋愛って周りでもいるけどさ、正直、恋愛関係に発展するのってハードル高くない?」
「お互いが同期同士とか、同じ部署の先輩・後輩とかはよく聞くよね」
「ああ!たしか……新卒採用ページ?か何かで接点あったんだっけ?」
「そういえばそうだね!ディーノさんにグループLINEで相談してたっけね?」
ニナさんもトモミさんも、少しずつ記憶を手繰り寄せているようだ。
「はい。で。その…なんやかんやあって……昨日、デートに誘われたっぽいんですけど…」
俺が結論を先に伝えると、ニナさんもトモミさんも「え?」と目を丸くした。
「誘われたっ“ぽい”ってどういうこと?」
「仕事上の関係から、どう飛躍したらデートに誘われるようになるわけ?」
「“なんやかんや”が知りたいんだけど?」
ふたりとも前のめりで食いついてきた。
だが――俺もなぜそんな展開になったのか、よくわからない。
本音では、どうしてこうなったのか、こっちが聞きたいくらいだ。
麗香さんの心の内が読めない。
少なくとも、俺に対して否定的な感情を持っていないのは確かだが。
今までの彼女の言動を振り返ると――正直、自分に好意があるんじゃないかと都合よく考えてしまう。それほど、恋愛経験ゼロの俺にとって、彼女の態度は思わせぶりに感じてしまうものだった。
だが、恋愛経験も豊富であろう彼女にとっては、会社の仲間とふたりきりでカフェに行くことなど、当たり前の日常なのかもしれない。
俺は頭の整理がつかないまま、とりあえず事実ベースで簡単に状況を伝えた。
「麗香さん、カメラが趣味みたいで。写真が見たいって言ったら、Instagramを教えてくれて。それで相互フォローして。昨日――麗香さんも含めた複数人で飲み会があったんですけど、その時に…カフェ一緒に行く?って言われて…」
俺は状況を話しながら、目の前に座るふたりの表情がだんだんと曇っていくのがわかった。
「いつカメラが趣味だってわかったの?」
「どっちがInstagram相互フォローしようって言ったの?」
「どういう飲み会?誰に誘われたの?」
「何で周りに人がいる状況で、デートに誘われたの?」
ふたりは俺を質問攻めにした挙句、「話が飛躍しすぎてよくわかんないんだけど」と、とどめを刺した。
俺は話すこと自体は好きでも、話し上手というわけではない。
そのうえ、なぜこんな展開になったのか、うまく説明できるほど自分でも状況を理解できていない。
俺は彼女たちの圧をどうかわせばいいかわからず、助けを求めるようにディーノさんに視線を投げた。
すると、ディーノさんはニタニタと、意地の悪い笑みを浮かべて楽しそうにしていた。
「ディーノさん!!!」
ムッとしながら怒りの意思を込めて彼の名を呼ぶと、「ごめん、ごめん」と、笑いながら謝った。
「キミ自身、なんで麗香さんとこんな急展開になったのか、よくわからないんでショ?」
「……おっしゃる通りです」
俺はうなだれた。
「だから…トモミちゃん、ニナちゃんもいろいろ問い詰めたいこともあるだろうけど、勘弁してあげて?」
「ディーノさんがそう言うなら…ね?」と、ニナさんとトモミさんは顔を見合わせる。
そして、前のめりになっていた姿勢をふたりとも元に戻した。
「とりあえず、麗香さんとデートの約束できたってことだよネ?」
「はい」
「日程とか場所は?」
「口約束なので、まだ…」
「What!?キミから積極的にいかないと!LINEは?」
「わからないです…」
「Instagramを相互フォローしてるなら、DM送れるよネ?」
「言われてみれば…そうですね」
「今日中に連絡いれとくこと。そして、麗香さんとの初デートはちゃんと録音とること。以上!」
まくし立てるように言い切ると、ディーノさんは目の前の豆乳鍋の蓋を取った。
モクモクと煙が立ち込める。
煙越しで顔がよく見えないが、「うわ~~!」という幸せそうな女性陣の声色だけで、喜びが伝わってきた。
今日は、トモミさん、ニナさんがリクエストしたお店に来ている。
名物の豆乳鍋がとにかく女性人気が高く、映えるとSNSで話題になっているらしい。
ディーノさんが麗香さんについてのアドバイスを駆け足でまとめたのは、鍋の出来上がりを見越してのことだったのだろう。
「さ!ここからは、トモミちゃんとニナちゃんが主役!鍋楽しもうネ!」
「「いえ~~~~い!!!」」
3人の中では、完全に俺の相談は終わったという認識だ。
だが――俺にはまだ話すべきことがある。
しかも、特大の爆弾だ。
言い出しづらい。
3人は美味しそうに鍋を食べ始めたが、モヤモヤした感情で胸がいっぱいで、食欲がまったく湧かない。
「……直?食べないノ?」
ディーノさんが俺の異変に気付いて、声をかけてきた。
「ディーノさん、すみません。俺……」
「……???」
ディーノさんは俺の次の言葉を待っている。
言わなくては。
「……俺、キスしました」
ゴホッゴホッ。
ニナさんと、トモミさんが、それぞれ鍋を食べながらむせた。
「……何!?まじで飛躍しすぎ!」
「それ、超重要なイベントなのに、なんで先に言わないの!?」
ふたりとも、口元をおしぼりで拭きながら、俺を咎めた。
一方のディーノさんは、彼女たちとは対照的で、いたって冷静に見えた。
「誰としたノ?」
3人とも俺の次の言葉を待つ。
「……レイナさんです」




