42話『Mission11 相手の好意と向き合うべし!』
「そうだネ~~?」
ディーノさんは何かを考え込むようなポーズをとった後、俺に問いかけた。
「直。彩音さんってどんなタイプの女性だと思う?」
「タイプ…ですか?そうですね…。ちょっと重い女性なのかなと…相手に依存しやすい、求めやすい気質というか」
「ウン。じゃあ、彼女の魅力はなんだと思う?」
「魅力?う~ん……。デートプランを考えてくれたり、お弁当含めていろいろ準備してくれたりしたので…一生懸命なところですかね。相手を喜ばせたい、というホスピタリティが高いというか…」
「逆にここ直してほしい、嫌だなと思うところは?」
「それは、時間にルーズなところ。あと、体型や持ち物などの身だしなみを含めた自分管理が甘いところです。……まあ、俺も半年前まで彼女と同じ状態だったので、人のこと言えませんけど……」
ディーノさんは、何が知りたいのだろうか?
彼女の長所や短所を答えたところで、結論は変わらない。
「じゃあ、彼女のこと好き?嫌い?」
「えっと……好きでも嫌いでも……」
「ダメ。好きか嫌いか、どっちか」
好きか嫌いか、どちらかしか選べないなんて極端すぎる。
俺は頭の中でぐるぐると、いままで彼女と過ごした時間を反芻する。
――好き?嫌い?好き?嫌い?好き?嫌い?
脳内で花占いをして、自分の心に問う。
そして、俺が出した答えは――。
「……好き…ですかね?」
答えた瞬間――。
「「はぁ?」」
トモミさんとニナさんの声がまたしてもシンクロした。
「直くん、それはないわ。酷すぎ」
「ほんっと、男って優柔不断」
俺は慌てて、弁解する。
「ちょっと待ってください!違いますって!好きっていろんな意味があるでしょ?俺の彩音さんに対する“好き”は、人としてってことで……異性に対する“好き”ではないです!!」
『好きにもたくさんの意味、ニュアンスがある』
ディーノさんに教わったことを盾にして、必死で説得を試みた。
ふいにディーノさんに視線を向けると…彼も俺を見ていた。
「ウン。答え出てるじゃんネ」
そう言って、ウンウンと頷いた。
「ニナちゃん、トモミちゃんの意見はどっちも正しいヨ。目的のために関係を継続するって考えも理解できるし、報われない恋に一生懸命な相手に同情する気持ちもわかる」
ふたりに対してフォローを入れたうえで、こう続けた。
「僕は、相手が自分に対して明確に好意があると自覚するまでは、目的優先でいいと思うヨ。でもネ、キミ自身が彩音さんからの好意を自覚している段階では話が別。相手の好意と向き合う必要が出てくるから」
なるほど。相手からの好意を線引きにして、折り合いをつければいいのか――。
「僕が大事だなって思うのは――相手に対して感謝の気持ちを持つこと」
「感謝?」
「ウン。世界中にはうん十億っていう恋人候補がいるのに、自分を好きでいてくれる。これって奇跡みたいなことでショ?その想いにきちんと向き合って、感謝をするべきだって僕は思ってる。
だから、その好意に応えられなくても『なんとなく合わない』『タイプじゃない』って曖昧な理由をつけて、女性を適当にフるのは絶対NG」
ディーノさんらしい考え方だなと思った。
「感謝とは、相手と向き合うこと。その人はどんな性格で、どんな魅力があるのか、それから、自分がされて嬉しかったこと、楽しかったこと――その人に対する想いをちゃんと言語化して向き合ったうえで…自分の気持ち――好き、嫌いの感情や、その意味合いをはっきりさせるといいと思うヨ」
さすがディーノさん。物事の考え方が達観している。
必要ないと思っていた彩音さんについての質問も、全部意味があったのか――。
「え。ディーノさん、好き」
彼の話を静かに聞いていたニナさんが、ポロリと一言。
トモミさんも「え、私も」と、それに続く。
「ふたりとも、僕に惚れ直しちゃった~~?」
真剣みを含んだ眼差しから一転、一気に彼の表情筋が緩んだ。
「ディーノさんと付き合える人、幸せすぎでしょ?」
「ね?彼氏いなかったら、絶対ディーノさんと付き合いたいもん」
「僕、モテモテだな~~♪ね、直~~?」と、ディーノさんは調子づく。
このままではこの場の主人公が、あっという間にディーノさんになってしまう。
今日はそうはいかない。
俺は「はいはい」と適当に応じつつ、「で!」と、話を無理やり戻した。
「彩音さんのいいところもわかったうえで、やっぱり、異性としての好きとは違うかなと思ったので――お別れしようと思います」
「メッセージで終わらせないで、直接会って、きちんと感謝を伝えてあげてネ」
「……はい。わかりました」
彩音さんのことは一件落着。
ここからが、本題だ。
「それじゃ、次、里実さんネ」
「はい」
「里実さんは…キミから緊急の電話もあったけど。彼女に対しては、今率直にどう思ってるノ?」
「……好きです。間違いなく」
「それは、異性としてのってことで合ってる?」
「……麗香さんがいなければ…「はい」と即答できたと思います。麗香さんのことは置いといて、彼女と向き合うって電話で言いましたけど――やっぱり、ふとしたときに麗香さんを思い出してしまいます」
トモミさんが再び「優柔不断」と、バッサリ言い放つ。
俺は、ガクッとうなだれる。
ディーノさんは「まあまあ」とトモミさんを制しつつ、「女性は誰しも魅力を持ってるから、好きの矛先がなかなか定まらないのは理解できるヨ?」とフォローを入れてくれた。
「里実さんとは、もう少し一緒に時間を過ごしてみたらいいんじゃナイ?彼女もキミに、好意があるようだし」
「……そうですね」
里実に対しては、特別なアクションをとる必要はない。
自然体で向き合ったうえで、じっくり答えを出せばいいと思っている。
「次は…」とディーノさんが言いかけたところで、「ひとつ相談が!」と遮った。
「里実から、次は俺が住んでる巣鴨でデートしたいって言われたんですけど。巣鴨デートってどう思いますか?」
俺がそう問うと――ディーノさんは沈黙し、深く考え込んでしまった。
そんなに難しい相談をしたつもりはない。
『巣鴨はセンスがないから変えたほうがいい』
『彼女の希望を優先したほうがいい』
どちらか一方の答えが、すぐに返ってくると思ったのだが――。
今までで一番悩み込んでいるように見えた。
それがなぜなのかは、まったくわからない。
「巣鴨かぁ。なんかムード出なそう…私なら、やっぱ夜景が見えるレストランデートが嬉しい!トモミは?」
「私は、たまには日常っぽいデートもありかな~たまには、だけど」
ふたりは、ディーノさんが沈黙している時間を利用して、自分たちのデート論を語っている。
申し訳ないが、今はディーノさんの答えが知りたい。
俺は、彼女たちの声をシャットダウンし、彼の来たる回答にだけ耳を傾けて待った。
しばらくして、ディーノさんは「そうだね…」と、重々しく口を開いた。
「里実さんの願いを叶えてあげたい想いはあるんだけどネ…居住エリアでデートするってことは、自分のテリトリーに入れるってことでショ?恋人じゃない相手をテリトリーに入れるのはどうかなって思って…」
『テリトリー』
ディーノさんから耳慣れないワードが飛び出し、俺は少し驚いた。
彼の女性に対する基本スタンスは、オープンマインドだと思っていたのだが。
否定的な考え方が出てきたのは、かなり意外だった。
いつの日か――レイナさんがディーノさんを「ミステリアスな人」と表現していた。
その時はそんなイメージはないのに、と思ったのだが――。
もしかすると…彼の中では、女性たちとの接し方にある一定の線引きをしているのかもしれない。
俺はあえて深く突っ込まず、「わかりました。巣鴨以外で提案します」と応じた。
ディーノさんの頭の中を暴きたい気持ちは強いが――今日は、相談したいことがまだまだある。
俺は、ディーノさんの秘密めいた部分を知りたい気持ちに蓋をして――麗香さん、そして…レイナさんの相談へと話を変えた。




