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41話『恋愛相談』

 翌日――。

 18時半。俺は新橋に来た。


『今週、集まれるタイミングありますか?』


 昨日――ディーノさんたちに向けて送信したLINEメッセージの返事が、『明日なら』ということだったので、今日、急遽集合することになっている。


 もともと、里実とのデート場所の相談、という軽い話をする予定だった。

 しかし、一気に相談事が増えてしまった。


 ひとつは、麗香さんのこと。

 口約束だが、カフェデートの約束をすることができた。いい報告ができて嬉しい反面、彼女に対する好意に疑問符がついた状態。心の整理ができておらず、悩ましく思っている。


 そして、もうひとつはレイナさんのこと。

 昨日――彼女にキスをされたことで、恋愛対象として意識し始めている。


 まぎれもなく、俺にとって人生初のキス。

 麗香さんでも里実でもなく、相手がレイナさんだったというのは想定外だった。


 だが、キスをされた直後――驚きはしたものの、やめてほしいとか、拒否したいとか、そういった気持ちには一切ならなかった。


 お互いの唇が離れた瞬間は、名残惜しささえ感じてしまったのだから厄介だ。


 キス直後という絶妙なタイミングで、店員さんが様子を見に来てくれたのが幸いしたが、もし来ていなかったとしたら――その後どうなっていたやら、わからない。


 キスひとつで心が動くなど、男とは単純な生き物だなと我ながら思う。


 レイナさんはもともと、ディーノさんが好きで告白したと言った。

 そんなディーノさん相手にレイナさんのことを相談し、キスした話をするなど――正直、言いづらい。


 どうしたって、足取りも重くなる。


 今日は出社をする気分にもなれず、イメチェン直後から続けてきた毎日出社を断念。在宅に切り替えた。


 仕事はまったく手につかなかった。


 ただ、幸いなことに今日は、麗香さん、里実、レイナさん――俺を翻弄する女性たちの誰からも連絡がなく、心を一層かき乱されるようなことはなかった。


 だからこそ、今日――ディーノさんたちにアドバイスをもらい、頭の中をきちんと整理したいと思っている。


「いらっしゃいませ」

「大河内で19時から予約してます」

「お席にご案内いたします」


 時計を確認すると、18時45分。

 俺が一番乗りだと思ったのだが――。


「「久しぶり!!」」


 ニナさんとトモミさんがすでに到着していた。

 俺は彼女たちの向かいの席に座った。


「随分早いですね。まだ15分前ですけど」

「いや~~なんか面白い展開になってそうだし、待ちきれなくって!」


 ニナさんは「はい、先にビール頼んどいたよ」と、俺に手渡してきた。


 それを受け取ると同時に、「すみません。先に一杯いいですか?」と断って、そのまま勢いよくゴクゴクとビールを喉に流し込んだ。


「ナニナニ~~?なんか訳ありな感じ?」

「……もう、カオスですよ…!」

「「カオス!!!」」

「俄然楽しみ!!!早く話してごらん!」


 他人事だから気楽なものだ。

 俺は四六時中悩まされているというのに。


「いや…まだディーノさん来てないですし」


 そう言うと、ふたりの間でカオス展開の予想合戦が始まった。


「もしかして…他の人とのデート中に本命の彼女と鉢合わちゃった展開?それとも、ライバルからの宣戦布告展開?」

「それか…シンプルに三角関係展開?もしくは……偶然好きな人以外の人とキスしちゃった展開とか!?」


 ゴホッゴホッ。


 俺は残りのビールを飲みながらむせてしまい、口からビールを吹き出してしまった。

 図星すぎてわかりやすく動揺した。


「ちょっと~~!急いで飲むから!」


 ニナさんとトモミさんは立ち上がって、おしぼりでテーブルを拭いた。

 そして、濡れてしまったシャツの襟元と、俺の口元をぬぐってくれた。


「Hi~~~!みんな久しぶりだネ~」


 ちょうどそのタイミングでディーノさんが到着した。


 ニナさんとトモミさんに世話を焼いてもらっている様子を見たディーノさんは、ニヤッと笑って一言。


「……直……モテモテだネ~~~??」


 ……自覚はある。


 そう、俺はきっと今――人生初のモテ期到来中だ。

 と同時に、人生でもっとも悩みあぐねている。


 どう折り合いをつけていいかわからず……苦しい。


「ディーノさん……俺もう、どうしたらいいか……」


 俺はぐったりと、椅子に座ったまま脱力した。


「ちょっとちょっと!どうしたノ?」

「直くん、今カオス状態なんだって」

「詳しくはまだ何も聞いてないんだけど」


 ディーノさんは俺の隣に座った。


「今日の相談って?」

「……たくさんあって。でも、頭の整理がつかなくて。自分でもわけがわからなくなってて。苦しくて……」


 くすぶっていた思いの丈を、彼にぶつけた。


「直は考えすぎるところがあるから、苦しいかもしれないけど…男としてひと皮むけるために必要な悩みなんじゃないノ?」


 俺は顔を上げて、ディーノさんのほうを見た。


「ひとつずつ整理してみようか?」


 穏やかな表情を浮かべたディーノさんは、俺の肩をポンポンと優しく叩いた。


「師匠!!!!!!」


 俺はディーノさんに勢いよく抱きついた。


「ちょっと!!!!ビール臭いヨ!!!ムリムリ!!」


 そう言って、一瞬で引きはがされた。


 俺が抱きついたことでヨレたシャツを伸ばしながら、ディーノさんは「で!」と話を進める。


「まず、彩音さんから…」


 ディーノさんがそう言うと、待ってましたと言わんばかりにニナさんとトモミさんが食いつく。


「彩音さんって、大量のお弁当作ってきた子でしょ?」


 俺が「はい」と返事をする前に、ニナさんはそのままトモミさんの方を向いて話を続ける。


「トモミは割と料理好きじゃん?そんな作れる?」

「私、彼氏相手でもそんなに頑張れないわ…」

「相当好きよね、直くんのこと。完全ロックオン」

「声だけで直くんとの温度差が伝わってきて、ちょっと可哀想に思えたわ」

「しまいには結婚とかって話になってたし」

「間違いなく束縛強い系だね、あれは」

「直くん、束縛とか大丈夫な人?」


 俺は「あの!」と言って少し間を作ったあと、「俺が彩音さんと結ばれるルートはないですからね?」と冷静に釘を刺した。


「「そっか」」


 ふたりの返答がシンクロした。


 俺は「ディーノさん」と名前を呼び、意図的に会話の矛先を変えた。


「彩音さんは俺への本気度がすごく伝わってくるので…。だからこそ、きちんとお断りをしたほうがいいかなと俺は思ってて…」


 言い終えると、ディーノさんよりも先にニナさんが反応した。


「え~~?でもさ、彩音さんとのデートも含めて、たくさん経験積んだから今の直くんがあるわけでしょ?初期の頃とは比べ物にならないくらい、自然に女の子たちと話せてるし。間違いなく成長期なんだし、恋愛スキルアップにとことん利用したほうがよくない?」


 マッチングアプリで恋愛経験値を積む、という当初の目的を考えれば、ニナさんの考え方は正しい。


 トモミさんもその意見に同調するかと思ったのだが。


「ニナの言いたいことはわかるけどさ、私は彩音さんとはお別れしたほうがいいかなって思ったかな。正直、録音聞けば聞くほど、彩音さんに対する同情の気持ちが強くなっちゃって。頑張っても報われないなんて可哀想じゃん?」


 ふたりの意見が割れたのははじめてだったので、少々面食らった。


 どちらの意見も、間違ってはいない。

 結局は、俺自身がどちらか一方を正解にしなくてはならないのだ。


「ディーノさんは、どう思いますか?」


 俺はすがるような目で彼を見た。

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