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27話『ふたりきり』

「おはようございます」


 水曜日――。

 俺は、入社1日目の時のような緊張と不安の中で出勤した。


 時刻は定時1分前の8時59分。


「おはよ!今日、ギリギリじゃん。珍しい~~」


 そう言って、和也はジロジロと俺のほうを見る。


 いつもは和也のほうが遅い。コイツはいつも定時5分前の出社だ。

 対する俺は、30分以上前には会社に着いていることがほとんど。

 和也に出迎えられるなど、ごく稀なことだ。


「おはよ。今日、寝坊しちゃってさ」

「へ~~?その割には、今日、いつも以上にキマッてるね?」


 さすが和也。鋭い。


 今日の俺は、白色のYシャツに黒色のパンツというモノトーンのコーディネート。黒色のジャケットを肩がけしており、少し気取ったスタイルだ。


 髪はワックスでふんわりと立体感を出し、前髪は7:3の分け目を作った。


 さらに、昨日はナオコさんの美容院で眉毛カットをしてもらったので、顔全体の印象もだいぶ柔和になっていると思う。


 すべては、今日、この日のため。

 だが、気合が入っているのを悟られるのはカッコ悪い。


「そう?いつも通りだけど?」


 動揺する心の内を悟られぬよう、なんとかかわそうとする。

 だが、和也は核心をついてきた。


「新卒採用ページの撮影があるからだろ?」


 俺はドキッとした。


 その通りである。ここまで気合を入れているのは、今日が、麗香さんとのマンツーマンでの取材日だからに他ならない。


 和也はニヤニヤしながらこちらを見てくる。


「さすがに、ボサボサの髪、だらしない服では会社のHPに載せられないだろ!」


 否定するのも不自然だと思い、半ば肯定する形で突っぱねた。


 和也からようやく解放された俺は、パソコンを開いて仕事に取り掛かる。

 だが、キーボードに手を置いて仕事をしている風を装っているが、目の前の作業は全く進んでいない。


 2時間後に訪れる、麗香さんとのふたりきりの時間を思い、どうにも集中できないのだ。


 昨日――。


 麗香さんとの取材が明日に迫っていることを、ディーノさんにLINEで伝えた。

 そして、俺はアドバイスを求めた。


 だが、ディーノさんは『え~~デートじゃなくて仕事なんでしょ?』と、助言をすることを渋った。


 だから俺は、個別のLINEから急きょ、トモミさん、ニナさんとのグループLINEに切り替えた。


『明日、仕事で本命の麗香さんから新卒採用ページの取材を受けます』

『30分間、ふたりきりで会話するので、緊張しています…』

『ディーノさん、アドバイスお願いできませんか?』


 個別LINEで送ったのと同じ内容を送った。


 すると、ディーノさんは個別LINEに、可愛らしいウサギが真っ赤に怒っているスタンプを俺に送り付けた後、グループLINEに次のようにメッセージをくれた。


『今回は取材だから、直が話す立場。相手に直のことを知ってもらうチャンス』

『① 問いに対して、自分を下げるようなネガティブなことは言わない』

『② モゴモゴと自信のないようなしゃべり方はしない。ハキハキと応じる』

『③ 聞かれたことには、正直に。嘘をつくのはもってのほか。紳士的であれ』

『以上!』


 ディーノさんは何だかんだ言いながら、結局、丁寧にアドバイスをくれる。

 それはありがたいのだが――この丁寧さが、今回は俺にかなりのプレッシャーをかけた。


 ――こなすべきことが、3つもあるのか……。


 1つ1つのアドバイス自体は、そこまでハードな内容ではない。

 いつものマッチングアプリでのデートでならば、たやすいことだっただろう。


 だが、今回の相手は本命の麗香さんだ。失敗は許されない。

 その事実が、俺に想像以上にプレッシャーをかけていた。


 まるで、人生を左右する面接みたいだ。


 キーボードが手汗でじんわりと湿る。

 緊張からか、喉はカラカラ、唇も乾燥してカサカサだ。


 ごくりと生唾を飲んだ時。


 ポン――。


 私用のスマホがLINEメッセージの通知を知らせた。

 周りを気にしつつ開いてみると、ディーノさんからだった。


『深呼吸ね。頑張れ!』


 俺は、キョロキョロと周りを見渡した。

 だが、当然、ディーノさんの姿はない。


 彼はエスパーなのだろうか……。


 ディーノさんのメッセージ通り、俺はフーッと深呼吸をする。

 そして、水を飲んで喉と唇を潤した。


 ――くよくよ考えても仕方ない。ありのままの自分を知ってもらおう。


 そう、腹をくくった。


 10時50分――。


 俺は、取材場所である会議室Cに移動した。


 4人席のこぢんまりとした部屋。席同士の距離もかなり近い。

 今日、この場所で、麗香さんとふたりきりの時間が紡がれる。


 俺は再び深呼吸をしてから席に着き、麗香さんの到着を待った。


 そして、約束の11時まで残り1分――。


 コンコンコン。


「…はい」


 ガチャ。


「ギリギリセーフ!」


 麗香さんが満面の笑みで入室してきた。

 その笑顔は、いつにも増して生き生きと輝いて見えた。


「お疲れさまです」

「お疲れさま。取材、引き受けてくれてありがとうね」

「いえ、こちらこそです。こんな大役に推薦していただき、ありがとうございました」

「大河内くんは仕事ぶりも真面目だし、適任だと思ってたよ?」


 麗香さんは、俺の目の前に座る。


「じゃあ、早速、インタビューから始めますね」

「よ……よろしくお願いします」


 事前にメールでもらっていた質問項目は、すべて頭に入っている。

 そして、どういう回答をするかも、あらかた考えてきた。


 準備はバッチリ。

 だから、俺は「どーんと、来い!」という気持ちで、彼女の質問を待っていた。


 すると、麗香さんは、意味深にニコっと俺に笑いかけた。


「なんで、急にイメチェンすることにしたの?」


 ――それ……事前の質問項目になかった内容ですけど!?

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