24話『Mission9 失敗を糧にせよ!【後編】』
「これはネ…僕が今まで出会ったすべての女の子たちのリストだヨ」
「女性たちのリスト…ですか?」
俺は1冊手に取り、ページを開いた。
そこには、「デートの日付」、「場所」、「名前」、「年齢」、「仕事」、「性格」、「一言」という7つの項目に沿って、一人ひとりの基本情報が事細かに記されていた。
しかも、すべて手書きである。
「ノートも、もう4冊目に突入してネ。さすがの僕も、読み返すのが大変だな~と思ってたところで」
「それで、俺に?」
「うん。キミ、データまとめとか得意じゃないかって思って!」
ディーノさんは、いつもの意地悪そうな笑顔を浮かべて楽しそうだ。
だが、今の俺は、そんな彼のテンションに付き合っていられるような気分ではない。
「わかりました。早速、はじめますね」
作業に取り掛かろうと、目の前のパソコンを開く。
すると、ディーノさんは俺が開いたパソコンを、パタンと閉じた。
少し怪訝な表情で彼のほうを見上げると、まっすぐと真剣な眼差しで俺の方を見ていた。
「奈々子ちゃんのこと」
俺は「奈々子」というワードにドキッとした。
「真面目なキミのことだから…相当、落ち込んでるんでショ?」
「……まあ…はい。落ち込んでます」
「デートが連続してたし、しょうがないってフォローしてあげたい気持ちは、なくはないけど。一番悲しい気持ちになったのは、間違いなく奈々子ちゃん」
「……はい」
「名前ってその人のアイデンティティだから。大切にしてあげないとネ」
ディーノさんは俺の肩をポンポンと叩く。
「キミにとっては、奈々子ちゃんとのことは通過点でしかない。気持ち切り替えていかないとネ!」
「……はい」
「このノートさ、全部で1,000人分以上あると思うんだよネ。年齢とか仕事とかでフィルタかけると、傾向とかわかって勉強になると思うヨ」
ディーノさんは「それじゃ、ヨロシク!」と言って、部屋を出て行った。
1,000人以上もの膨大なデータをまとめるとなると、かなり時間がかかる。
いつもの自分なら、嫌々ながら引き受けただろう。
だが、今はディーノさんに対して感謝しかない。作業に没頭すれば余計なことを考えなくて済むからだ。
早速、1件ずつデータを入力しながら整理に取り掛かった。
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【1】
15/1/19(月)@新橋、中華
アマネちゃん、28歳、不動産営業。
バリキャリ・上昇志向が強いタイプ。Sっ気強めだけど褒められると弱い。
甘いものが大好物。
【2】
15/1/24(土)@銀座、ケーキ
カエデさん、35歳、ジュエリーショップの経営者。
高級志向、クレバー、年下を可愛がりたいタイプ。後輩ムーブで「教えてください」スタンスが◎。
寿司好き。
【3】
15/1/25(日)@恵比寿、カフェ
サナエちゃん、24歳、看護師。
努力家だけど自己肯定感低めなタイプ。仕事の話は落ち込むからNG。
楽しい話題、とくに愛犬「マロちゃん」の話を振ると喜ぶ。
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ディーノさんが女性とのデートを詳細に覚えているのは、記憶力がどうこうというより、このノートに秘密があったのだ。
やたら長い情報を書いているわけでもなく、でも、要点はきちんと押さえている。
とくにポイントだろうと思ったのが、「一言」項目の内容だ。
相手の好きなことやもの、されると喜ぶ内容が記載されている。
ディーノさんは、どんな女性にも通用する必殺のモテテクニックを持っている人だと思っていた。
だが、そうではないと気づいた。
一人ひとりに合わせておもてなしをカスタマイズすることで、たくさんの女性の心を掴んできたのだろうと想像した。
“モテる”とは、小手先のテクニックではなく相手と向き合う姿勢なのかもしれない。
――『ディーノさんの恋愛指南書』とは別で、もう1冊ノート作ろう。
ディーノさんの女性に対するホスピタリティの高さに改めて敬意を持ちつつ、丁寧に作業を進めた。
しばらく入力を続けていると、キリのいいところで、ふと見覚えのある内容に手が止まった。
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【500】
23/4/20(土)@六本木、バー
レイナちゃん、23歳、Web編集者。
寂しがり屋で人に尽くすタイプ。明るい性格だけど抱え込みやすい。話を聞いてあげると◎。
お酒、とくにワインが好き。
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――これって……。
コンコンコン。
ちょうどその時、会議室のドアを叩く音がした。
「甘いモノ休憩の時間だヨ~~!」
ディーノさんが、ケーキを買ってきてくれた。
俺はショートケーキを頬張りながら、ディーノさんに聞いた。
「この500番の女性って…」
「あ~!キミも知ってるあのレイナちゃんだヨ。彼女も、キミと同じ。『Lv.∞』で出会ったんだヨ~」
「そうなんですね」
「レイナちゃんとの出会いは印象的でネ。彼氏とふたりで来てたんだけど、途中、彼氏が仕事を理由に帰っちゃって。ひとりで寂しそうに飲んでたから、声かけたんだヨ」
ディーノさんは「これ以上ペラペラしゃべると怒られそう。内緒ネ!」と付け加え、笑った。
彼の心配りと行動力には、畏怖の念すら覚える。俺も見習わなくてはと思う。
だが一方で、女性ファーストの精神は、自己犠牲的という見方もできる。
自己中心的な言動を我慢するのは、相当疲れるはず。
どうして、ここまでするのだろうか……。
「それじゃ、残りの分の作業も頑張ってネ~」
問いかける間もなく、ディーノさんはものの10分ほどの滞在で、すぐに出て行ってしまった。
甘い物を摂取したからか、一気にパワーチャージできた気がする。
――よし!残りも頑張ろう!
俺は再び、パソコンに向かった。
そして、19時半――。
「っしゃ!できた!!」
ようやく、1,000件以上にも上るデータの打ち込みが完了した。
ディーノさんに完了報告をするため会議室を出ると、向かいのガラス張りの部屋で、パソコンと向き合う彼の姿を捉えた。
長い足を組み、いつもとは異なる真剣な眼差し。
本人はいたって真面目なんだろうが、色気をムンムンと漂わせている。
あまりにも様になりすぎて、じっと見惚れてしまった。
俺の視線に気づいたのか、ふと目が合う。
すると、ガラス越しに「終わった?」と口文字で訴えかけてきた。
俺は無言で頷いた。
ディーノさんはドアを開け「助かったヨ~~」と言って、俺に軽いハグをしてきた。
突然の距離感に、ドキッとした。
――こうやって、女性たちを虜にしてきたんだな……。
また一つ、俺はディーノさんから秘技を学んだ気がした。
「このあと、飲みに連れて行ってあげたかったんだけど…今日はちょっとムズカシそう。ごめんネ」
「いえ。今日はお忙しいのに、ありがとうございました。作業に没頭したおかげか、だいぶ気が紛れました」
「それは良かったヨ。次のデートの予定は?」
「週末に、彩音さんと里実さんとの2回目のデートがあります」
「彩音さんとの2回目のデート、誘うの嫌そうにしてたけど。予定組んだんだネ!」
「あなたに言われたから、渋々です…」
キッとディーノさんを睨むと、彼はとても楽しげに笑っていた。
「それじゃ、俺は失礼しますね」
「ウン。昨日のことにめげず、デート頑張るんだヨ~~」
こうして、ディーノさんとはここで別れた。
時刻は20時前。
俺は、その足で六本木に向かった。
目的地は……『Lv.∞』。
原点に立ち返りたい気持ちだったので、久しぶりにひとりで行ってみることにした。
24話をお読みいただきありがとうございました!
次話から新章『モテ期到来編』に突入します。
複雑化する恋模様をぜひお楽しみください♪




