表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/57

23話『Mission9 失敗を糧にせよ!【前編】』

 翌日の日曜日――。

 9時。


 俺はボーッと天井を見上げる。


 ――全然眠れなかったな……。


 枕元に置いたスマホを確認すると、ディーノさんから1時間前に、個別LINEでメッセージが来ていた。


『昨日のデート、どうだった?』

『何かあった?』


 毎回当日に送っていたデートの報告LINEを、昨日は送らなかった。

 だから、ディーノさんは何かを察知したのかもしれない。


 俺は布団にくるまったまま、返事を送る。


『やらかしました』


 送信後、1分もしないうちに既読がつく。


『何があった?』

『デート続きで頭が混乱していて……相手の女性の名前を間違えました』

『とりあえず昨日の録音データ送って』


 俺はすぐにデータを送る。

 そして、約10分後――。


『今日、予定ある?』

『今日はとくに予定ありません』

『14時、ここに来て』


 送られてきたのは、港区新橋の住所。

 レストランかと思ったが…どうやら違うらしい。


『わかりました』


 俺は重い腰を上げて、ベッドから起き上がる。

 そして、昨日の大失態を思い返し、ハーッと深いため息をついた。


 昨日。

 奈々子さんを“奈津美”さん、と言い間違えてしまった直後――。


「奈津美って、誰ですか?」


「しまった!」と思ったが、時すでに遅し。

 言い訳のしようがない間違いだった。


 俺と彼女の間に、長い沈黙が流れた。


 疲弊した頭を強制的にフル回転させ、なんとか挽回できる回答を導き出そうと熟考した。

 だが、素直に謝ること以外、彼女を納得させる方法はないと思った。


「……本当に申し訳ありません。数時間前に…マッチングアプリで別の女性とお会いしていて、名前を間違えてしまいました」

「…………」

「不快な気持ちにさせてしまい、本当に申し訳ありませんでした」


 俺はテーブルに額がつくほど、深く頭を下げた。

 奈々子さんは、沈黙していた。


 だが、俺がこれ以上何かをしゃべると言い訳がましくなってしまう。

 彼女からの返答を待った。


「……頭を上げてください」


 俺は言われた通り頭を上げ、恐る恐る彼女の顔を見た。


「あなたを責めるつもりはないです。私も、マッチングアプリであなた以外の男性とお会いしてますし」

「…………」

「ただ、あなたにとって私は、名前を間違える程度の存在なんだなって思って」

「いえ!そんなことないです!俺は奈々子さんのこと……」

「まだ出会って1時間も経たないですけど。私はあなたのこと、誠実で素敵な男性だなって思いました」

「…………」

「私、次に付き合う男性は結婚を考えられる方がいいと思ってるんです。自分のことだけを一途に思ってくれる…そんな男性です」

「…………」

「正直、あなたは違うのかなって思ってしまいました。ごめんなさい」


 奈々子さんはそう言って、オーダーしたパスタの代金だけ置いて帰ってしまった。


 帰り際に彼女が見せた悲しげな表情が、ずっと忘れられないでいる――。


 俺への好意を踏みにじってしまったことを申し訳なく思うとともに、自分の情けなさに心底がっかりした。


 25年間の人生で、おそらく今がもっとも精神的ダメージを受けている。


 いままでの人生の大きな失敗といえば、大学受験に2度失敗したことや、大学の授業に遅刻をしてしまったこと、友達の家で酔っぱらって粗相をしてしまったこと、などが浮かぶ。

 それらは、ミスを挽回して取り戻せる余地があった。


 だが今回は、もう彼女との関係を取り戻すことはできない。


 どうすれば、あの失敗を未然に防げたのか。

 名前を間違った瞬間、うまい切り返しが他にあったのではないか。

 もしかすると、今からでも関係修復の糸口があるのではないか。


 考え始めると止まらなくなる。


 そのせいで昨日はろくに眠れず、そして今も――9時に起床してからうだうだと考え込み、気づけば10時を回っている。


 昨日、自分と彼女、ふたり分のパスタを食べたので、ディーノさんとの約束の前にジムに行きたかったのだが。そんな時間もなくなってしまった。


 ――準備するか……。


 俺は感情を失ったロボットのように、機械的にルーティンであるスキンケアやベースメイクを始めた。


 13時50分――。


 ディーノさんに指定された約束の住所に到着した。

 そこは、新橋のとあるオフィスビルの5階。


 木目調の壁には『Amore Mio(アモーレ ミオ)』と書かれている。

 会社名だろうか。

 調べると、イタリア語で「僕の愛」「愛しい人」といった意味があるらしい。


 ――愛しい人、ね……。


 再び昨日のことが思い出されて落ち込んでいると、奥からディーノさんが現れた。


「直!いらっしゃい。こっち来て」

「ここって……?」

「僕の会社」


 そういえば、ディーノさんは女性ユーザー限定の旅行代理店を経営していると言っていた。


「ここに入って。そこの椅子に座ってネ」


 通されたのは、4人が定員の小さな会議室らしき場所。


 指定された椅子の前には、パソコンと3冊のノートが置かれている。


「今日はネ、キミにちょっとした作業をお願いしたくて」

「作業…ですか?」


 傷心の俺に、自分の仕事を手伝わせようということなのか。


「ウン。この3冊のノートの情報を、Excelにまとめてほしいんだヨ」

「このノートって何なんですか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ