132_レッドギルドの財布で豪遊作戦
前話の後書きの内容に至るまで、実はこんなことがあったんだよって話
―――時間はスーツを受け取り、カジノへ向かう最中に戻る。
『至急、皆様にお伝えしなければならない事案が発生しました』
カジノホテル=ベラシオンへ向かおうとしたところで、シズが急に足を止めた。
普段のシズは、よほどのことがない限りこんな事を言わない。まして歩みを止めるとなれば別だ。
俺は反射的にハイデマリーを見るが、本人も何のことやらと首を傾けている。全員不思議に思ったのか、足音が一拍遅れて止まった。
「何かあったん?」
ハイデマリーが振り返る。
薄紫のドレスに身を包んだちっこい商会主は、ぱっと見だけなら金持ちの家から抜け出してきた子供に見えなくもない。
『賞金首掲示板に更新が入りました。対象は当商会関係者です』
「賞金首?」
「関係者って、どこまで?」
アレンとエレンが眉をひそめる。
賞金首と言えば、エリーが200万で俺が100万だったか。
『全員ではありません。現時点での対象はミスター・オキタ、ミス・エリーが増額。ミス・リターナ、ミス・ハイデマリーが新規追加で計4名になりました』
「イエーイ」
エリーが片手を上げる。リタは無表情のまま、その手に自分の手を合わせてハイタッチ、ぱしんといい音が鳴った。
リタは順当だろうけど、まさかハイデマリーも賞金首になるとは……おお、目を白黒してる。
「ウチはなんで!? ウチはなんでぇ!?!?」
「え? マリー嬉しくないの? ボクは賞金上がって嬉しいけど」
「そうだな、俺も上がった」
「出世だよね?」
「社会の敵から目の敵にされるのが出世って言うならな」
首を傾げたエリーに向かって、リタは無表情のままもう一度小さく手を上げた。そのまま今度は俺にもハイタッチを求めて来たので、パンっと乾いた音を残してハイタッチしておく。
まあ、100万クレジットなんて半端な値札をぶら下げられるよりはマシだ。どうせ狙われるなら、高く買い被られた方が腹も立たないってものだ。
「ウチはただの商人やで!? 昼に服買って、夜にカジノ行くだけの、いたいけな商会主やで!?」
そんな中でハイデマリーだけが、心底納得できないという顔をしていた。
「いたいけな商会主?」
「いたいけな人は、自分の船に強襲揚陸艦を選ばないと思うけど」
「イケイケな商会主の間違いじゃ?」
俺、リタ、エリーから突っ込まれたハイデマリーが頭を抱えている。ぬぉぉぉぉ、と身体を捻る姿が面白い……が、どうやら道端で時間を喰っている場合じゃなさそうだ。
通りをぶらぶらと歩いていた俺たちだったが、周囲から向けられる視線が多くなってきている。
高級ホテルの送迎車の中から、店にいる露出の高いドレスを着た女から、あるいは通行人から。その中の何人かが、端末と俺たちを見比べては足を止めている。
それも一人や二人じゃない、次第に多くなっていくのを肌で感じる。ただの好奇心じゃない、値札の付いた獲物を見つけた時の目だ。
腰のレーザーガンを確かめながら周囲に目をやると、丁度良さそうな路地が見つかった。
「チッ、耳の早い連中が多いな。一旦路地に入るぞ」
俺が言うより早く、リタが俺の半歩後ろへついた。エリーはそんな俺たちの前に出て、アレンとエレンがハイデマリーを挟み、その背後にシズが陣取る。アンドーはだらしなく首を回しながら最後尾へ下がった。示し合わせたわけじゃないが、自然と落ち着く形になった。
「おいおい、夜遊び前に人気者かよ」
後ろからアンドーの笑い声が聞こえてくる。人気者は辛いですねぇ、と穏やかなアレンの声が遅れて聞こえてくるが、そのすぐ後にシャレにならんわ! と威勢のいい声が聞こえて来て、思わず笑いが零れてしまった。
「オキタ、上」
「了解、警戒する。エリー」
「うん、前は任せて」
建物の二階、屋上の端、広告看板の陰。それら一つ一つに目を這わせながら、一定の速度で路地を進んで行く。
「リタ、周りに動きは?」
「今の所は見てるだけ。私たちが警戒してるから、準備もないままじゃ手を出せないでいるみたい」
「ねえ、どこまで進めばいい? この先ちゃんと繋がってる?」
『インカムを付けて下さい、ナビゲーションします』
携帯端末からインカムを引き抜いて装着する。
『右の細い路地へ。そこなら少しの間は身を隠せます』
シズのナビを頼りに、俺たちは建物と建物の間にある細い路地へ入った。
表通りの音が、壁に遮られて少しだけ遠くなる。煌びやかな表通りとは違い、ネオンの光が路地裏を薄く照らしている。
「アンドー、ここならいいか?」
「本当ならすぐにでも移動したいが……まあ、いいだろ」
「シズ、表示してくれ」
『承知しました』
シズの目がわずかに光り、俺たちの前にホログラムが展開される。
映されたのは賞金首掲示板。そこには俺とエリー、リタとハイデマリーの名前と顔写真、金額。あとは備考が表示されていた。
賞金リストの一番上に表示されていたのはハイデマリーだった。
なんと800万クレジット。
「あ゛?」
その額を見た本人が変な声を出したが、俺も少しだけ黙った。全員が”え?”と、何かの間違いじゃないのかと見返すが、何度見ても800万の賞金額が変わることはなかった。
「え? え? えぇ……???」
目を白黒させているちっこい商会主の首に800万。決して安くはない額だが、高い……のか? いや、うちの代表を安売りされても困るが、高値をつけられてもそれはそれで困る。
問題は、何を見てこの値段をつけたか、だ。ラビットⅡか、それとも俺たちの首輪の位置としてなのか。
「ウチ、800万……?」
「やったじゃん、自動車買えるよ?」
「ウチは自動車と等価なんか!? それはそれで嫌やー!?」
「1億とかの方が良かったか?」
「それも嫌や! てか、賞金首自体が嫌なんやけど!? これから先、レッドギルドに狙われ続けるとかシャレにならんわ!」
「まあまあ、オッキーが加入した時点で遅かれ早かれそうなってたって。
じゃあ次はボクね。マリーでそれなら、ボクはその5倍はないとね~」
次に表示されたのはエリー、賞金額2000万クレジット。
「2000万! ……2000万かぁ、うん、まあ別に良いんだけどさ、マリーの5倍は欲しかったなぁ」
エリーはむう、と唇を尖らせているが、その目にはギラギラと好戦的な意志が見て取れる。元値の10倍に上がったから、ということもあるのだろうがそれだけじゃないはずだ。
コイツは人見知りのお調子者だが、バカじゃない。コミュ障特有の、他人からの評価をめっぽう気にする奴だ。だから、相手にどう見せればどう思われるかをよく分かっている。
だから無邪気に笑っていれば、それだけで周りは勝手に誤解すると知っている。無邪気を演じていれば与しやすい、狩りやすい獲物だと判断される。
エリーはそうやって自分にヘイトが向くよう、明るいバカをわざと演じている……と、誰よりもエリーを評価しているだろう俺は思っている。少し関りのある奴はエリーの事を危機感のない馬鹿、腕だけの傭兵、金で釣れる子供と思っているだろうが、その全部が間違いだ。
ただし、遊びでは釣れる。そこが一番まずいんだが……。
まあいい、次はリタだ。
賞金額はエリーと同じ2000万クレジット。
「エリーと同額。うん、まあいいかな」
「嬉しいのか?」
「少しね」
「嬉しいのかよ」
「負けてないから。もし下だったら、そこらの札付きのワルを狩って上げるつもりだった」
無表情のまま言うせいで、冗談なのか本気なのか分からない。
だが、リタに2000万はむしろ安いんじゃないだろうか。
なにせ身体が特殊だ。滅多にお目にかかれない、全身をB.M.Iで強化された成功例。事情を知っている奴ならもっと積んでも不思議じゃない。それをしていないということは、その事情を詳しくは知らないんだろう。
「リタ、視線は?」
「増えてる。アレンとエレンは分かる?」
「さっきの大通りに3人、この通路を見張っているのが2人かな」
「先程の女性は賞金稼ぎじゃないですね。情報屋ってところでしょう」
「凄いな、そこまで分かるのか」
「我々からしたら、分からない方が不思議と言いますか」
「言ってしまえば、こんなものは呼吸と同じですからね」
「私は近くに居ないと分からないけど。2人は別格だね」
いやいや、シレっとそう言うところが怖いから。
まあいい、最後に俺だ。えーと、賞金額は5000万クレジット……5000万クレジット!? おいおい誰がそこまで評価してくれたんだ? 順当な評価に思わずにやけ顔が止まらんぜ……っておいエリー、悔しいのは分かるが脇腹つつくな。
「流石オキたん、やっばいわ……ん? 搭乗機戦闘記録、機体制御ログ、兵装運用データの取得に追加報酬? ……あー、そういうこと」
「俺が目的なの分かりやすすぎだろ!」
思わず声が出た。俺の首というより、デスペラードの戦闘ログが欲しい。そう書いてあるようなものだった。
しかも殺害限定じゃなくて捕獲推奨とか舐めてるだろ。色々言いたい事はあるが、何が何でも俺の機体と戦闘記録に触れたい奴がいるのは分かった。
問題はこれだけのクレジットを一つの商会に懸ける下手人が誰だって話だ。宙賊は見敵必殺してきたから恨みを買うことはないだろうし、共和国が出張るはずもない。そこまで考えて、嫌な名前が頭に浮かんだ。
ゼネラル・エレクトロニクスCEO、ヴァン・サイファー。
たぶん、そっちだろうなぁ。この間の一件で特殊部隊、それも夢無き者なんて連中を叩きつぶした。いや、潰したというか向こうから突っ込んできたというか、その後の会談で結果的に俺が踏み抜いたというか。
「オキたんどしたん? なんや難しい顔しとるけど」
「いやーその、ちょっとな……」
普通、勧誘を断っただけでここまでするか? でもヴァン・サイファーはプライドの塊みたいな奴だったからなぁ……。
「みんな、オキタが心当たりがあるって」
そんなことを考えていると、リタがジトっとした目でそう言ってきた。やっぱお前には筒抜けだよなと思いつつ、双子に目を向ける。アレンとエレンも仕方のない人ですね、なんて呆れていた。
「なんやてぇ!? オキたんほれ、はよ喋らんかい! ウチが何でこんな目に遭わされとるんか喋らんかい!」
「そんなとこ揺するなって、ズボン落ちたらどうするんだよ」
体格差で襟首に届かないせいか、ハイデマリーは俺の腰ベルトを掴んで揺さぶってきた。
しかしどう説明したものか。あの時同席していたのはクレアだけだし、あの空気感をどう伝えるべきか悩む。
とりあえず分かっていることは、ヴァン・サイファーは何の狙いもなく賞金稼ぎに「殺してこい」と札束を投げるような男じゃないってことか。
「今ここで説明すると長くなるから、また今度でいいか?」
「ちょい待ち、結構因縁ある感じなん?」
「俺にそんなつもりはないけど、向こうが何考えてるのかが分からん」
そこまで言うと、ハイデマリーはジトっとした目になった。
「また女絡みかいな」
「違う違う、今回は企業絡みだ」
「企業絡みの女か? 粉掛け過ぎやろシバくで」
「怖ぇよ。だから違うって。ガリアンでの後、俺がクレアの所で留守番してただろ? そこで一悶着あったんだよ」
「クレアと何かあった?」
ギュルンと、リタが無表情でこちらを見た。だから怖いって……。
「俺とクレアが、ゼネラル・エレクトロニクスのCEOと少し話したんだよ。そこでまあ、色々とあって……たぶん喧嘩売って売られた?」
「御三家のゼネラル・エレクトロニクスに?」
「御三家のゼネラル・エレクトロニクスに」
「御三家のゼネラル・エレクトロニクスのCEO?」
「御三家のゼネラル・エレクトロニクスのCEO、ヴァン・サイファーと話したんだって。たぶんそれが原因」
「―――んあぁぁぁぁぁぁ! もぉぉぉぉ!! なんで! その時に! ウチに! 連絡せえへんのやアンタはァ!!」
人のお腹に顔面押し付けて、両手で俺の胸板をぽかぽかと叩きながら叫ぶハイデマリー。全員呆れたような目で俺を見てくるが、終わってしまったものは仕方がない。……いや、始まったの間違いか?
「心配掛けたく無かったというか、その……ごめん」
「ごめんちゃうわボケェェェェッ!」
「まあまあ、ハイデマリー氏。オキタ氏が大人っぽい対応をした結果、こうなってしまったと思いましょうよ」
おいアレン、ため息をついている所申し訳ないが、さっきとんでもない不名誉なこと言わなかったか?
「ところでオキタ、お前さん大企業のCEO相手に何を言ったんだ?」
アンドーがニヤニヤしながら聞いて来た。
「社会人として必要な意見を少々」
「絶対に違う」
「オッキーそんな器用じゃないでしょ」
リタとエリーに即否定された。なんて失礼な奴らだ、俺はちゃんと礼儀を守ったんだぞ。
たぶん。
「で? オッキーはG.Eがボクたちに賞金を懸けたかもしれないって言いたいの?」
エリーがホログラムの俺の金額を覗き込む。
「可能性の話な。戦闘ログ、制御ログ、兵装運用データ。これを欲しがるのは賞金稼ぎじゃないだろ」
「使い道がある所に限られるってこと。G.Eならその条件にも合う」
『依頼元は匿名化されています。ただし、資金経路に企業系ダミー口座の特徴が見られます。完全な断定は不可能ですが、反社会組織単独の依頼としては不自然です』
「ほらな?」
「ほらな? ちゃうわ!」
俺は肩をすくめたが、胴に回されるちっこい腕の力は強くなった。
とはいえ状況は変わらない。これだけ高額な賞金を懸けられたんだ、レッドギルドが多いエリュシオン銀河系で情報が流れた以上、ここら一帯を根城にしている連中が動かない理由はない。
企業が餌を撒き、裏社会が食いつき、俺たちはその真ん中にいる。状況は最悪だ。
「G.Eはオッキーの情報を欲しがってて、そのためにボクらの賞金も上げて、それ狙いの宙賊やレッドギルドがボクたちを狙ってくるってことだよね」
「たぶんな」
ついさっきまで普通の観光惑星だと思っていたが、今のままならまともに出歩くのも難しくなる。比較的安全なはずの大通りにまで賞金狙いの連中がいるくらいだからな、狙撃や誘拐、事故を装った襲撃に薬なんかも警戒しないといけなくなる。
「最悪、予定を繰り上げてデミエルを発つしかないか」
「ボクとオッキーが考えたひと月の休暇プランがぁ~」
「仕方ありませんよ。船に乗ってしまえば相手は手を出せないでしょうし、安全第一ならそうするしかありません」
「もしくは、もっと安全な場所で羽を伸ばすかじゃな」
デミエルで安全な場所ねぇ……警備が厚くて、客の身元よりクレジットが優先される場所かつ、裏社会の秩序が表の法律より強い、言ってしまえば聖域みたいな場所なんてあるのか?
『ベラシオンが該当します。如何でしょうミス・ハイデマリー』
シズの提案に、ハイデマリーが鼻を鳴らした。
「えらい露骨やな。けど使えるか……?」
そう言い、ようやく俺から離れてくれたハイデマリーの目がすっと細くなった。この切り替えがハイデマリーの凄いところだ。800万の首に慌てていたちっこい商会主が、次の瞬間には金の流れと敵の腹を計算しているのだから。
「外を歩いたら狙われるけど、ベラシオンの中なら話は別か? シズ、あそこはレッドギルドの息がかかったカジノやろ?」
『確定情報ではありませんが、運営母体に複数のダミー企業が挟まっています。資金移動の一部はアナトミア系列と推定されます』
「うげ、アナトミアかぁ……」
露骨に顔を歪めるハイデマリー。エリーやアンドーも”うげぇ”と言いたげな表情を浮かべている。俺は聞いたことがないが、結構有名なレッドギルドなんだろうか。
「一応は損得勘定できる理性派で通っとる分、まだマシな部類か?」
ハイデマリーはホログラムに映る自分の顔写真を指で弾いた。
「大勝ちして目立てば、アナトミア以外はウチらを狙うんは難しくなるはず。泣く子も黙るアナトミアのおひざ元で暗殺しようなんて馬鹿はおらんやろうし、おったとしてもアナトミアが守ってくれるやろ。なにせ、ウチらはこの首含めてクレジットを落とす客やからな。わざわざ懐に入ってきた餌を他にやるような真似はせんはずや」
「敵の縄張りに入って、敵の警備に守られるってことか。分かってて罠に飛び込む分には、まだ対応しやすいか?」
「敵の家に上がり込んで、敵の酒飲んで、敵の布団で寝ながら、敵の財布をパクる。タダどころか終わった頃には全部がプラスになる作戦やな」
「うわ、ま~たマリーの嫌な癖が出てるよ。すぐそうやってギリギリ攻めようとするんだからさ~」
「休暇を楽しむ、賞金稼ぎから身を守る。両方やるならマリーの作戦は理に適ってる」
俺たちが頭を捻っていると、アンドーが後ろで笑った。
「いいじゃねえか。忍び込むより派手に入った方が、かえって見落とすこともある。堂々と玄関から入って、靴の泥を絨毯に擦りつけてやれ」
「まったく、その泥を掃除するのは誰だと思ってるんですか」
「そこはほら、二人にお任せするわ」
出たとこ勝負で、というハイデマリーにアレンとエレンは呆れている。もしもが起こった時、P.Pが使える二人が一番負荷が高いことを察しているのだろう。
「じゃあ、カジノで遊んでいいの?」
「遊んでよし!」
ハイデマリーは即答した。
「ただし勝つのが大前提や。しかも派手に勝つ。向こうが無視できんくらい勝つ。ディーラーが冷や汗かいて、支配人が奥から出てきて、ホテル側が優待を出すくらい勝つ」
「いいね! じゃあ作戦立てよ!」
「ふっふっふ、では豪運のマリーちゃんが作戦を授けてしんぜよう」
キリっとした顔の横で指を1本立てる。なかなか様になっていてちょっと面白い。
「まず、ウチがバカ勝ちして奴さんの視線を独り占めする」
「よし、解散」
「うう、短い休暇だったね……」
「アンドー、逃走ルートは?」
「最寄りの港湾施設は把握済みだ」
「敵が来たら私とエレンで対応しますね」
「任せて下さい、小島まで敵を寄せ付けませんよ」
「ちょいちょいちょーい! ちょっとお兄さん方、話だけは聞いてくれんか!?」
ビシ!っと綺麗なツッコミを入れるハイデマリーに向かって、他の全員が胡散臭い人を見る目を向ける。
さっきまでとは違い、今度は俺がハイデマリーの頭を片手で掴む。前提から崩れている話を聞いて何になるんだい? お兄さん怒らないから言ってごらん?
「シ、シズ! 説明よろしく!」
『皆様、どうか驚いて下さい。ミス・ハイデマリーの賭博、投機、短期勝負における累計勝率は65%です』
「65%……って、高いのか?」
『常人ではおおよそあり得ない類に足を踏み入れています』
「だから豪運のマリーちゃんなんやって! 信じてや!」
勝率6割強。5割勝率があればいい所に6割強と言われると、確かに豪運のマリーちゃんと言いたくなる気持ちも分かる。
とりあえず掴んでいた頭を離して続きを促す。
「いちち、オキたん意外と手が早いんやって……じゃあまずはエリー、目立つ係や。思いっきり子供っぽくいったってな。オキたんはそんなエリーに引っ付く護衛役で」
「任された!」
「えぇ!? また俺がエリーとセットかよ!」
やる気いっぱいのガッツボーズをするエリーの隣で、俺は思わずといった感じで本音が出てしまった。しまった、ガキ大将の機嫌が悪くなるぞ。
「なんだよ、ボクと一緒じゃ嫌なの?」
「嫌とかそういうのじゃないけどさ」
「……じゃあなんなのさ」
「別に何でもないって。一緒に行動するんだ、ひとりで突っ走るなよ?」
機嫌が悪くなるどころか不安そうな顔をしたエリーに慌てて否定する。あーもう、コイツに不安そうな顔が似合わないのは俺が一番知ってるのにいらん事言った。
「次リーさん、ウチの護衛な」
「分かった」
「アレン、エレンは遠巻きに遊んどいて。何かあったら思いっきりよろしく」
双子は顔を見合わせた。
「ではハイデマリー氏の周囲で遊んでおきますね」
「カジノではP.Pを制限されるでしょうから、程々にしておきます」
「P.Pを制限されるのか? なんで?」
「相手の心を読んだら、ポーカーなんて絶対勝てるじゃないですか。その対策ですよ」
エレンにそう言われて納得した。それは確かに無法だわ。
「アンドーは囮な」
「お? ワシに色々と探らせると思っとったが、当てが外れたな」
「幾らアンドーでも全方位の監視カメラからは逃げられんやろ。今回はそれっぽいプロの動きに期待しとるで」
こんなガタイの癖に、ただの整備員だからな。ラビット商会でのアンドーの登録表を手に入れていたら、きっと怪しむに違いない。
「クック、了解。手癖の悪い奴と、目つきの悪い奴と、女の胸じゃなく腰を見る奴を拾っとく」
「ちょい待ち、最後の分類は何やねん」
「武器を隠してるかは腰を見ろ、それがワシのポリシーでな」
「へー、そうなんだ。アンドーってただのヘンタイじゃないんだね」
「勿論胸を見てる奴も拾うぞ。そいつはワシと同類だからな」
「やっぱただのヘンタイじゃん!」
アンドーの視界から逃れるように俺の影へと逃げ込むエリー。ガルルル言ってるところ悪いが、お前にそんなパイはない……いや、あったわ。それなりにあったのを海で確認した……ってリタさん頭叩かないで、痛いです。
「この作戦の肝、撤退に必要な情報収集は全部シズに任せるで。ベラシオンの客層、ディーラー、警備、運営会社、逃走経路。アンドーが囮やっとる間に全部さらっといて」
『了解しました』
全員が自分の役割を把握した所で、パンっとハイデマリーが手を叩いた。
「作戦名”レッドギルドの財布で豪遊”でよろしくぅ!」
「品性が死んでる」
「やめなよリタ、生きてたらこんな商会やってないって」
「おい、流石のウチも怒るで」
地団駄を踏みそうなハイデマリーを見て笑う。こんな時でも、俺たちは変わらずラビット商会だ。賞金首になった直後の姿としては、たぶん宇宙で下から数えた方が早いくらい緊張感がない。
けどそれが良い。緊張して縮こまるより、笑って踏み込む方が俺たちらしい。
「よし、じゃあ行くか」
「爆勝ちして、敵に保護されにね~」
「うーん、ウチやっぱ天才かも」
「紙一重」
「けど、悪くありませんよ?」
「長い人生のスパイスには丁度いいくらいです」
「ワシとしては、もう少し落ち着いて欲しい所だがの」
『これもまた人生、そういうことでしょう』
エリーがステップを踏むように前へ躍り出る。ハイデマリーが笑い、リタが俺の隣につく。アレンとエレンがハイデマリーを挟み、シズがその横で情報を流し続ける。アンドーは最後尾で、まるでただの酔っ払いみたいに肩を揺らしていた。
俺たちは何も気づいていない観光客の顔で、ネオンの海へ戻った。
さあアナトミアとやら、掌を土足で踏み荒らされる覚悟はいいか?
野兎の足は、思っている以上に汚いぞ。
ルシアンの敗因は、帝国に存在しないはずの独立した超高性能AIがいたことと、それを単独で作れるバケモンが何食わぬ顔で個人商会やってること




