123_ラビット・ファミリー_挿絵追加
☆評価を押してくださった方が、あと2人で1000人に到達します。
大台到達まであと僅か。この小説を読んで下さっている皆様に感謝です。
私の最終目標はブクマ5000なので、残り1000人の方にブクマして貰えるように、これからもお楽しみ頂けるような話を書いていきます。
20260616追記:評価頂きありがとうございます、無事1000人突破しました!
20260616追記:7割増し美化ラビット商会の挿絵追加。画像荒くて申し訳。画像クリックして、みてみんのリンクに飛べばまだマシなはず
競馬場で一部のメンバーの頬が引き攣り始めた頃、星系の恒星が沈み始めた。
デミエルの時刻は夕暮れ。少なくないクレジットと引き換えに、競馬場で露天のホットドッグを腹に詰めたのが数時間前だ。
財布の中身と引き換えに競馬文化を堪能した俺たちは、再び高級繁華街、スーツの仕立て屋へと戻ってきた。
「店長、出来とる?」
「勿論です、ハイデマリー様。お待ちしておりました」
店に入ると、待っていましたと言わんばかりに店長が出迎えてくれた。後ろには変わらず二人のお姉さんが控えている。確か…カミラとヴァネッサだったか。
「女性の方は奥へどうぞ」
「はいな。ほなアンドー、あんまオイタせんようにな」
「勿論だとも―――やあミス・カミラ、ミス・ヴァネッサ。俺のスーツは出来てるかな?」
「はい、お待ちしておりました」
ハイデマリーたちが奥に消えたのを見るや否や、アンドーがお姉さん方にすり寄っていった。
ッチ、いい歳したオッサンが色気づきやがって。親し気に話しているのを見ると羨ましさと嫉妬で歯噛みしてしまいそうになる。
俺はリタに釘を刺されたから、この旅ではノーチャンスなのに。琥珀色の眼を真紅に変えて覗き込んで来るリタが恐ろしいのなんの……くわばらくわばら。
「では最後の方、試着室で着替えをお願いします」
「分かった」
試着室で着ている服を脱ぎ、ズボンを履いて白シャツに腕を通す。
いい素材を使っているのか肌触りがいい。袖を通した瞬間、着慣れていない俺でもそれがはっきり分かった。
適度な硬さの白シャツの可動範囲は想像以上に広く、フォーマルな恰好に抱いていた動き難さのイメージは何処かに行ってしまった。ネクタイを絞めれば、もう傭兵には見えないんじゃないだろうか。
その上から特注の黒いスーツを羽織る。肩も背中も、変に形を主張してこない。身体の動きに合わせて勝手に馴染んでくれる。高級品特有の着せてやってる感もない。むしろ逆で、スーツが俺に合わせに来てくれている感覚すら覚える。
「思ってたより良いじゃないか」
試着室を出て鏡の前に立つと、思ったまま口に出た。これなら何処に出ても恥ずかしくないだろう。
「ありがとうございます。サイズの確認だけさせていただきますね」
いつの間にか背後に控えていたお姉さんの声がくすぐったい。
あーあ、アンドーは本当に上手くやったよな。カジノで遊んだ後、このお姉さんたちと夜に消えるんだろ? もうズルじゃん、そんなの。
「少しだけ詰めますね」
「よろしく」
こっちとの距離も声量も完璧、セクハラした俺にさえ近すぎず遠すぎず。俺が軽く腕を上げると、袖口と肩に触れて丈を確認してくれる。流石はプロ、動きが丁寧で無駄がない。
「案外、スーツってのも悪くないんだなぁ」
「気に入って頂けたようで、私共も大変嬉しいです。よくお似合いですよ」
「初めからこの恰好だったら、俺にもチャンスはあったかな?」
にこりと笑顔を返された。こういう所が大人の女性のズルい所だよなぁ。
「いいさ、ガキなのは俺がよく分かってる」
短く返して、鏡の中の自分を見る。
うーむ……我ながら悪くないのではないか? というか、出来すぎてる。軍服や普段の恰好と比べると仕事のできる大人になった気がして、思わずにやけ面が鏡に映ってしまう。
足元の丈を確認して貰っている間に、アレンとエレンが腕を組みながら近寄ってきた。
「うんうん、似合ってますよ。ちゃんとそれっぽく見えます」
「それっぽくって何だよ」
「普段の子供っぽさが無くなっていると言う意味です。これなら格式高い場所でも……まあ、ギリギリ浮かばないでしょう」
「普段のオキタ氏なら入口で止められているかもしれませんが、これなら平気ですね」
「好き勝手言いやがって。滅茶苦茶似合ってるだろ?」
「いい大人はスーツ一つで自慢気にはしないものですよ」
ジト目で抗議してみたが、呆れた様子で即答された。こいつらは遠慮というものを知らない。
「防弾防刃、対レーザー塗装の特注品だからな。ちったぁ護衛っぽく見えるじゃねぇか」
「そういうアンドーは……おい、どこのマフィアに入った?」
「うさぎ組ってか? それは些か可愛すぎるだろ」
「そこはラビット=ファミリーにしとけよ」
ごりごりのマッチョが黒スーツにサングラスを掛けてたら、それはもう立派なマフィアにしか見えない。身体が縦にも横にもデカいからか、威圧感が半端ないことになっている。俺が一般人なら絶対に近づきたくない。
「その点、私たちは」
「何処にでもいるエルフのマフィアといったところでしょうか」
「お前らみたいなエルフが何処にでもいてたまるか」
双子も黒スーツに身に纏っている。元々線の細い双子の見た目は完全にインテリヤクザだが……なんだこの黒の選定率。全員、とりあえずで黒を選んでいるのか?
「うわ、マフィアが4人もいる!」
「うさぎ組……フフ」
『おや、皆さまお揃いの装いですか』
「そういうお前らも黒スーツかよ。一端の構成員じゃねぇか」
着替え終わって戻ってきたエリーとリタ、シズ。
俺たちと同じく黒スーツに白シャツ、ネイビー系のネクタイと、示し合わせていないのに何故か纏まりのある恰好になってしまった。これでハイデマリーも黒スーツだと流石に笑うしかないんだが……。
「なんやなんや、やっぱウチが予想した通りになっとるやないか」
ハイデマリーが呆れた様子で戻ってきた。
良かった、ハイデマリーはフォーマルなドレスを着ていた。髪色に似合う薄紫を主体に纏まった感じだが……何だろう、似合っているのに何故か違和感が。
ああ、違和感の正体はアレだ。子供が頑張って背伸びしてお洒落しました、って感じに見えるからか。小柄な種族のせいとはいえ、威厳が無いなんて言ったら蹴られるだろうから絶対に言えないな。
「ったく、揃いも揃って辛気臭い色選びよってからに」
「え~いいじゃん別に。ボクだってカッコよく決めたいんだから」
「ちゃんとしたドレス選んだったんやから、そっち着ればええのに。
りーさんもやで。あんな大胆なドレス選んどるんやから、あっち着ればええやん」
「むぅ……流石にいきなりは恥ずかしい」
「どエロいやつ選んどってどの口が言うねん」
リタが大胆でどエロいドレスだって!? 気になる、後で着て貰おう。
「いいじゃん皆でお揃いなんだし。ねえねえオッキー、ボクのこの恰好って似合ってるよね? 一度はこういうの着てみたいかったんだ~」
男装のエリーが楽しそうに覗き込んでくる。トレードマークのポニーテールはローポニーテールへと変えられているせいか、余計に男装の麗人感が強まっている。
そんなエリーの上から下まで目を這わす。悔しいことに素材だけは一級品だからか、中々に決まっている。
「馬子にも衣装って知ってるか?」
「なにそれ? 似合ってるってこと?」
「そういうことだ」
「むふふ……いいね! みんな揃ってラビット・ファミリーだ!」
たぶん違うけど、まあ喜んでるからいいか。
「……で、オキタ。追跡は?」
不意に、後ろからリタの声。
視線を向けるといつもの無表情を浮かべているが、目だけが少しだけ細い。シャツが置かれている背後の棚まで下がると、リタも同じように後ろに下がってきた。
「俺が気付く範囲で追手は無し。平和なもんだ」
「そう。ならいいけど」
「気にしすぎじゃないか? 惑星内には帝国軍の陸戦隊が巡回してるし、惑星の近くには巡視船もパトロールしてるはずだ。いくらレッドギルドでも、警備が厳重な惑星内で出来る事は限られてるはずだ」
「その油断が、奴らに付け入られる隙に繋がる。人が数人消えた所で軍は動かない。レッドギルドに攫われた人たちがどうなるか、知らない訳じゃないでしょ」
少しの嫌悪感を含んだようにそう言われると、俺も返す言葉に詰まる。レッドギルドに攫われた人たちの成れの果て、それを資料で見せられたのを覚えているから。
「みんなを守るためには、警戒し過ぎるくらいが丁度いい」
「……分かった、俺も気は抜かないでおく。
けど、お前も一人で何とかしようとか思うなよ。何かあればみんなに、それが無理なら俺に頼れ」
「……。それはこっちの台詞でもあるのだけど……わかった、考えておく」
そう言うと、リタは一瞬だけまばたきを止め、かすかに視線を揺らした。こいつはあまり人に頼らない癖があるからな、こうして釘を刺しておかないと。リタはひとりで何でも出来てしまうから、誰かに頼ることをしないんだよな。
「ああ、そうしてくれ」
そう答えるとリタは眼を逸らして、それ以上は何も言わなかった。
「色々ありがとさん。また使わせて貰うわ」
「他銀河でも主要星系内であれば支店があります。ご入用の際はお声がけ下さい」
頭を下げる店員に一言礼を言って外へ出た頃には、空に星空が浮かんでいた。昨日は気にもしなかったが、ガスか塵が余程濃いのか、本来肉眼では見えない紫色の雲のような星空が目に入って来る。
「……」
通りの人影は少ない。高級街だからなのか、人の声や雑踏も聞こえてこない。リゾート惑星と聞いて想像するような酔っ払いの笑い声や、安っぽい呼び込みもいない。あるのは整えられた街灯だけ。まるで、デミエルの夜はこうだと言わんばかりの風景だ。
「―――静か過ぎるな」
「どしたん?」
「いや……なんでもない。それよりカジノに行こうぜ。何て所だっけ?」
「ベラシオンってとこや。ほなひと暴れしに行こか!」
次回から漸く本章の中盤に入り始めます




