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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
紅白
123/124

120_本島へ


 ―――リゾート惑星デミエル

 ―――ラビット商会専用小島のロッジ



「――――――んぁ?」


 何の拍子もなく目が覚めた。


「何処だここ……ああ、そうだった。じゃあここは、ロッジの部屋か」


 昨日はたらふく食べて、しこたま飲んで……えっと、アンドーとリタが飲み勝負を始めて、途中から巻き込まれたところまでは覚えているんだが……だめだ、結局どうなったのか覚えてない。

 よく見たら、俺の恰好は昨日から変わらず海パン一丁なままだ。たぶん誰かが運んでくれて、そのままベッドに投げ入れられたってところか。


「あ゛~……あー、あー。今日はこのまま横になってるのもいいなぁ」


 天井の木目をぼんやり眺めながら瞬きをする。漸く目が光りに馴れて来た。

 身体は軽い、無理にアルコールが抜けた感じもしない。ちゃんと眠った後のそれだが、それはそれ。惰眠を貪って良い環境にいると堕落する理由がこれなんだろうな。


 横を向く。窓は半分開いていて、白いカーテンがゆっくり揺れている。海で跳ねた光が、天井に薄い波紋を描いていた。

 波の音も、風の音も穏やか。平和だ。命のやり取りはないし、暮らそうと思えばこうやって静かに暮らすことも出来るのだろう。それが俺のやりたい事かどうかは別として。


「んーっ、よし! 起きるか。まずはシャワーだな」


 起き上がって、床に足をつける。木の冷たさが妙に心地いい。

 昨晩シャワーを浴びなかったからか、海水の影響で身体中がベタついている。部屋備え付けのシャワールームに入ると、高そうな容器に入ったシャンプーとボディソープが目に入った。


「いい匂いだ。これで本島に行けば、多少はマシだろ」


 これがデキる男の匂い、ってやつだ。元俺の部下曰く”中身で勝負”は都合のいい部分だけを切り取った、逃げの常套句だ。外面が整っていない奴は見向きもされない。だから俺は着飾る。今回だけはな。待ってろよデミエルのワンナイトちゃん、これで俺の期待値は更に伸びたぜ。

 パパっと身体を洗ってシャワールームから出ると、部屋の外から声が聞こえた。時刻はAM9時過ぎ、誰かはもう起きているらしい。


「お、アロハが置いてある。リゾートのテンプレらしくていいじゃないか」


 適当に置かれていたシャツを羽織る。自分の着替えもあるが、ここは敢えてデミエル仕様で行く。

 鏡を見る。いつもの顔だ、特に問題はない。強いて言えば緩んでいるくらいか。

 ま、今くらいはな。そのままリビングに向かおう。

 ドアを開けて部屋の外に出る。どうやら俺は2階にいたらしい。階段を降りると、下から食事の匂いが漂ってきた。


「はよーっす。なんだ、俺が最後だったのか」


 リビングには全員集まっているが、食事中なのは女性陣だけのようだ。アンドーと双子はソファで横になって端末を弄っている。声を掛けると手をヒラヒラと返してきた。


「おはよ、オッキー!」


「おはよう、エリー。朝から元気だな」


「おはよう、オキタ」


「おはよう、リタ。……それ、全部食べるのか?」


「昨晩とのバランスを重視してる」


 山盛りというか、超山盛りのサラダだ。リタの顔が見えないくらい積まれている。周りに色んなドレッシングを控えているとはいえ、よくもまぁ生野菜をそんなにも食べられるものだ。


『おはようございます、ミスター・オキタ。食事を配膳します、席に着いて下さい』


「さんきゅー、シズ。飯の準備ありがとな」


 種類の違うパンが3種、スクランブルエッグ、カリカリに焼かれたベーコンに生野菜のサラダ、コーヒー。コーヒー嫌いのエリーの卓には牛乳とシリアルが置かれてあった。


「これぞホテルの朝ごはん、って感じだな。シズが調理してくれたのか?」


『はい。本島から送られてた材料を元に、ロッジの調理アンドロイドたちと一緒に』


「へえ、ロッジには調理専用のアンドロイドもいるのか。そいつらは? 姿が見えないけど」


 トーストを齧っているハイデマリーに向かって言うが、ハイデマリーは一瞬びくりと肩を揺らした。シズの方をちらちらと見ながら、何やら言い辛そうに口をもにょもにょとさせている。


『私が皆さまのお世話様係なのです。他の個体が姿を見せる必要などありません』


「ご、ごめんてシズ。ウチかて、シズの事を思ってやな……」


「……何かあったのか?」


 俺が寝ている間に何があったんだこの主従。意味が分からないとエリーの方を見ると、ジュースをお代わりしていたエリーが小さく溜息を吐いた。


「リゾートなんだから、ちょっとくらいシズも楽したらどう? ってマリーが言ったの。そしたらシズが怒っちゃって」


『ミス・ハイデマリーに尽くすことが私の存在意義ですので』


「ああ、要するに痴話喧嘩か」


 トーストをかじりながら言う。ハイデマリーから操教育を進めていると聞いていたが、嫉妬なんて感情も見せるようになって来たんだな。


『お代わりは如何ですか? こちらのクロワッサンはミス・エリーからも評価の高い一品ですが』


「じゃあ頂こうか」


『どうぞ。お飲み物は如何致しますか?』


「さっぱりした柑橘系のジュースがあればそれで」


『ではこちらを』


 今日はやけに甲斐甲斐しく世話してくれるな。普段はハイデマリーが居たら最低限しか相手してくれないのに、ロッジにいるアンドロイドのサービスを断った手前、自分一人で出来ることを見せたいんだろう。


「今日は何する? また海に行くなら俺も釣りがしたいし、ちょっと離れた所にゴルフコースもあったけど」


 大人しく食後のコーヒーを飲んでいたハイデマリーに話しかける。


「今日は本島に行ってみようって話になってな。ショッピングもしたいし、夜はカジノにも行ってみようって。今はアレンとエレンに本島への行き方を調べて貰っとる所や。

 二人とも、行き方はどうなったん?」


 端末を覗き込んでいたアレンとエレンが顔を上げる。


「この島には高速飛行艇が配備されているようでして、それを利用すれば10分程度で向かえるようですよ」


「本島側の指定ポイントが幾つかあり、行きたい場所に着陸すればいいそうです。帰りは近くの駐機場から同型機に乗ればいいそうです」


 飛行艇版カーシェアみたいなものか。


「じゃあそれで。オキたん、悪いけど操縦お願いできるか?」


「いいけど、基本オートだろ? 座ってるだけだと思うけど」


「でもほら、もぐりはアレやん?」


「ああ、そういうことか」


 こういう平和な惑星で大出を振って操縦できるのは、免許持ってる俺くらいだろう。帝国軍時代に色々免許取ってて良かったぜ。エリーやリタも操縦自体は出来るだろうが、もぐりの運転がバレたら帝国法違反でしょっぴかれても可笑しくないからな。


「何時に本島へ向かうの? やっぱ最初はショッピング? それとも競馬? お昼はドッグレースもやってるみたいだけど」


「飲み込んでから喋ろな」


 口いっぱいに食い物を詰めたまま聞いてくるエリーを、ハイデマリーが横から軽く小突いた。


「んぐっ……で?」


「まずはスーツ買う所からやな」


 短く言うと、一瞬だけ間が空いた。


「……スーツ?」


 エリーが首を傾げる。


「カジノに入るんにな、ドレスコードがあんねん。ウチはともかく、他のメンツは正装持っとらへんやろ? やからまずはスーツかドレス買わんとな」


「面倒だな。スーツなんぞ着なくても勝負出来る所があるだろうに」


「入れへん言うとるやろ」


「なら別の場所に行かんか?」


「却下や」


 即答か。アンドーの言う通り、俺もドレスコードが必要な場所は堅苦しくて気が進まないが……。


「じゃあボクもかっこいいやつ着る!」


「似合わんかったら笑うで?」


「似合うし! 絶対似合うし!」


 エリーのやつ、本当に分かってるのか? リゾート惑星なんだからドレスコード無しで入れるカジノなんて腐るほどあるだろうに、ハイデマリーはわざわざドレスコード必須の場所に行こうって言ってるんだぞ? 金持ちの中の金持ちが集まる場所に行くってことは、普段俺たちが何気なく使っている以上のクレジットを賭ける場所だってことだ。


「エリーは素材が良い。ドレスでも良いと思うけど」


「え~、嫌だよドレスなんて。ヒラヒラしたの嫌いなんだよね」


 顔を歪めているが、確かにこんな騒がしいやつにお淑やかなドレスなんかは似合わないだろうな。


「ま、服装は置いといてや。全員分かっとるやろうけど、最低限の武装はしといてな。本当はこんなこと考えたくもないけど、エリュシオン銀河系じゃ何が起こるか分からんから」


「はーい」


「まあ心配はしとらんよ。ぶっちゃけ、ウチらは艦に乗るよりコッチの方が無法と思っとるから。頼むで、アレンとエレン」


「お任せ下さい」


「出来るだけ血は出さないようにしますね」


 ひらひらと手を振る双子は、白兵戦なら敵なしと言われるP.Pホルダーだ。

 同じくP.Pホルダーのクレアは戦車が10両来ようが相手にならないと豪語していたし、そのクレアよりもP.Pに造詣が深いエルフの二人だ。単純に考えてクレアの2倍の戦力、ハイデマリーに自信があるのも分かる。この二人を突破して来る事は無いと思うが、俺も準備だけはしておこう。


「ドレスコード必須の高級カジノか……」


 アンドーが深刻そうな顔でぼそっと呟いた。


「何だよアンドー、カジノは嫌いか?」


「ああ。昔から、ああいった場所にはあまりいい思い出がなくてな」


 普段にない苦悶の表情も浮かべて言う姿に、俺も自然と背筋が伸びる。アンドーの過去はよく知らないが、帝国軍陸戦隊に居たことは知っている。任務で何かあったのだろうか? 固唾を呑んでいると、真剣な眼つきで俺を見た。


「オキタ、ワシは財布が空になった経験しかない。お前さんも注意しろよ、美人のディーラーだからって鼻の下伸ばしてると、すぐにすっからかんになるぞ」


「やな事言うなよ」


 この大馬鹿がよ。


「大丈夫、オキタが鼻の下伸ばさないように傍から離れないから」


「やな事言うなよ……」


 そこのハーフリング、笑っている場合じゃないからな。俺、監視社会は良くないと思います。


『カジノ施設のセキュリティは標準以上ですが、トラブル回避を優先推奨します』


「分かっとる。隣のおっちゃんがレッドギルドってこともザラやろうし、みんな節度を持って楽しむようにな。まあ、向こうさんもわざわざ高い金払って惑星降下しとるんや。いきなり喧嘩吹っ掛けてくるとは思わんけど」


 そいつはどうかな。真面な感性を持っていれば、レッドギルドになんて所属はしていないだろう。気に喰わないことがあれば裏路地に連れ込んで……なんてことも起こり得るだろう。

 アンドーに目配せすると、肩を竦めていた。分かってるさ、俺なりに注意しておく。


 ともあれ、今日の流れは決まった。本島へ行く。スーツを揃えて、夜に備える。


「ほな30分後に出発な」


「了解ー!」


 それぞれが動き出す。

 俺も部屋へ戻り、持って来ていた荷物の中から鈍く光る銃とホルスターを二つ手に取る。

 外からでもぱっと見える腰の位置に一つ。上着を羽織り、外からは見えない胸の位置に長年の愛銃を隠し持つ。


「まあ、念のためな」


 ……俺の念のためって、結構当たるんだよな。


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