121_そのサイズ、申告制につき
260408_SFから離れた別の話を書いてみたいので、次話が遅れるかもです。
ティマイオス社製の垂直離着陸機で小島を飛び立って10分。パイロット役を任されたとはいえ、オートパイロットのお陰で操縦席に座ったまま、後ろに流れていく風景を楽しめる気楽な旅だった。
本島が近くなるにつれて、操縦席を隔てる扉向こうが騒がしくなってきた。
どうせエリーあたりが騒いでいるんだろうと想像しつつ、着陸エリアを探す。
カジノやバーが多い歓楽街に、アクティビティを楽しめるレジャーエリア。それぞれに幾つか着陸可能な区画があるが……スーツを作ると言っていたから、繁華街がいいだろう。
機体に登録されている着陸エリア一覧から繁華街、それもグレードの高そうな店舗が並んでいる場所を選ぶ。ホログラム上にルートが表示され、機体が傾いて進路を変更し始めた。
「―――っし、アイハブコントロール」
『オートパイロット解除シマシタ』
本島まであと少しの所で天啓を得たぜ。
せっかくパイロットシートに座っているのだから、頼まれた仕事はしっかりやらないと。機械的で上質ないたわり運転とは違い、ちょっと揺れるお茶目な運転を体験させてあげよう。これもアクティビティってな。
操縦桿を握ってスロットルを開くと、垂直離着陸機体の翼の左右に、斜め方向に展開されていたエンジンが水平方向へと向いて行く。速度が上がるにつれて後ろが喧しくなってきた。
「あー、あー……お客様にお知らせします。この先少々揺れますので、シートベルト着用ランプが消えるまでお席を立たないようにお願いします、わっはっは」
”イェーイ!”
”やめろアホー!!”
”誰かアイツ止めろ!”
”ワァ……”
地面に対して機体を90度傾けて旋回すると、後ろから聞こえてくる楽し気な声が大きくなった。そのまま背面飛行に移ると汚い叫び声が聞こえてくる。叫んでいるのはハイデマリーだな。TSF乗りに運転任せた張本人なんだ、これくらいは想像しておかないと駄目だろう?
「間もなく本島上空、人工密集エリアで~す。残念、曲芸飛行はここまで。皆さま、荷物を纏めてお降りになる準備をどうぞ」
『オートパイロットに移行シマスカ?』
「いや、俺がやるからいい」
スロットルを絞りつつ、機体を水平に安定させる。宇宙の活動が多い俺からすれば、大気中の気流を捉えて飛ぶ大気圏内特有の飛行方法は慣れていないが、ついさっきまで目の前で飛び方を披露してくれたオートパイロット先生がいたからな。その動きをトレースすればなんてことは無い。無駄な工程はカット、オートパイロットを再現するような機動制御で機体の揺れを完全に抑え込む。
「案外簡単に出来るもんだな。教本通りだからか?」
それとも、機体の制御システムが優秀なのか。俺の意志が操縦桿を通してダイレクトに伝わっているのが分かる。ティマイオス社は規模こそ中堅だが、使用者を選ばない堅実な造りはグッドだ。
低速で少し飛ぶと、繁華街の着陸エリアが見えて来た。地面にはマーシャラーの姿も見える。機体が表示するガイドに従ってエンジンを垂直に立たせ、出力を絞っていく。6,5,4,3,2,1,バーティカルランディング。
『ようこそデミエル本島へ。グランドハンドリングスタッフが機体の整備と移動を行いますので、そのまま機体を降りて下さい』
「了解。全員外出て良いぞー」
ういー、と野太いアンドーの声を皮切りに機体の扉が開いた音が聞こえて来た。俺も操縦席で最低限のチェックだけ行い、荷物を持って外へ出た。
「このアホンダラ! 怖かったやんけ!」
「イテ、蹴るなよハイデマリー。楽しかったろ?」
機体を降りた所で脹脛を軽く蹴られたが、蹴った本人も笑っているから良しとしよう。
「ったく、ホンマに勘弁してや。……おーいそこの兄ちゃん、車は借りれるんか?」
「はい、こちらにご用意しております。皆さまは人数もおられますし、2台使われては如何でしょうか」
案内された先にはセダンタイプのオープンカーが2台並んでいた。いかにも観光地仕様です、という顔をしている。
「ほな男女別で行こか。集合場所はこの店な」
ハイデマリーから共有された位置情報が端末に表示される。それほど大きくない、高級店が並ぶエリアに店舗を構えているスーツ専門店だ。
「ここからはワシが運転しよう」
いの一番に運転席に乗り込んだアンドー。コロニーじゃ見られない車だ、運転したくて仕方がなかったみたいだ。
アレンとエレンが後部座席に乗り込んだのを見て、俺は助手席に乗り込む―――直前に、リタの運転でカッ飛んでいく女性陣の車を見送った。
「ハイデマリー氏には受難の日ですね」
「パイロットに運転席任せるのが悪い」
「違いない。じゃあ、ワシらも行くか」
アンドーの運転で車が走りだす。ドリフトでコーナーから消えたリタの運転とは打って変わり、気持ちいい海風を感じながらのドライブだ。タイヤの転がる感触が心地いい。
着陸用の港湾エリアを抜けると、景色が一気に変わった。
海岸沿いを連想させる白い建物から始まり、ガラス張りのファサードがちらほらと。登り勾配の開いた通りを走っていると、空に向かって昇っているような気分になってくる。
人が増えていくにつれて車も低速にならざるを得ないが、視界をゆっくりと流れる繁華街を見物するのも乙なものだ。
「流石に栄えていますね。周辺星域でも有数のリゾート惑星なだけはありますか」
「? リゾート惑星だぞ、栄えていて当然じゃないのか?」
「表向きは、の話です。デミエルがリゾート惑星なのは疑う余地もありませんが、ここがエリュシオン銀河系に含まれることも変わりませんよ」
一般市民が旅行気分で惑星降下が可能な場所なんだから栄えていて当たり前だと思うが、何か含みを持つアレンとエレン。どういう意味かと考えていると、アンドーが一本の道を指差してきた。
その通りの向こう。少しだけ目を凝らすと、周囲とは少し色味が違う建物が見えた。人の出入りも見えないが―――。
「アンドー」
「お前さんが想像しているようなもんじゃない。あれはただの倉庫だろう。わざとああやって見せているのだろうが」
「この街もそうですね。入り組んだ区画は巧く隠した、表を見せるための街です」
漸く思い出すことが出来た。リタの故郷のコロニーで、俺がこの世界で初めて目覚めた頃。まだスラムでまごついていた俺に弱者がどう扱われるか、この世界のクソッタレな現実をこれでもかと見せつけてくれたモノ。久しぶりに感じる嫌な感覚に、リゾートの浮ついた気持ちが沈んでいくのが分かった。
「―――この街の境界線か」
自分でも驚くほど冷たい声が出たせいか、アンドーが目を丸くして俺を見て来た。なんだよ、珍しい物でも見たか?
「警戒しても仕方がありません。今の私たちには関係のない話ですよ」
「そうですよ。夢のリゾート惑星で遊んでいるだけですからね」
そりゃそうだ。視線を進行方向へ向けると、周囲の人だかりがだいぶ落ち着いてきた。登って来た道路も平坦にならされた狭い通路へと変わってきている。高級ブランドのエリアに近づいて来たのだろう。
「アンドー、右前方にハイデマリーだ……って、アイツらどれだけ早く着いたんだ? エリーの奴、もう小袋持ってるじゃないか」
「安全運転を心がけ過ぎたか。まあいい、後ろに付けるぞ」
手を振るハイデマリーたちが乗って来た車の後ろに駐車。
通りを歩いている人は少ない。僅かに歩いている人も俺たちみたいに大世帯ではなく2,3人でショッピングを楽しんでいる。
目に入るのは派手な身成をした男性や、若い女性を連れた初老男性の二人組など。一目で一般人ではないと判断がついてしまう人たちばかりだ。
「ほな行こか」
そんな中を集団が歩いて行くのだから当然目立つ。悪目立ちとまではいかないが、俺たちに向けられるのは値踏みされているような視線だ。
「気にしやんでええ、どーんとしとけばええねん」
先頭を歩くハイデマリーは何でもないと歩いて行く。種族的な特徴とはいえ、このナリで銀河を渡り歩いて商売をするのだから慣れっこなんだろう。
少し歩くと、小さな店舗が目に入った。そこへ迷わず入っていくハイデマリー。目的のスーツショップのようだが、横並びの店舗と他と比べてもかなり狭い。全員入るとそれだけで満員になりそうだ。
「どうも―――見ての通り、アロハは本日品切れです」
「人数分のスーツ買いに来ただけや。ほら、コレ」
「……これは失礼致しましたお客様。カードをお持ちであれば話は別ですね」
開口一番、とんでもなく失礼な事を言われたが、ハイデマリーが宿泊施設名の入ったカードを見せた途端、対応がガラリと変わった。それを見ていたエリーがススっと近づいて来る。
(ねぇオッキー、何で急に店員の態度が変わったの?)
(小島貸し切りプランがどれだけ高いか知ってるだろ? 金持ちだと判ったから客扱いされてるだけだ)
(うえぇ、買い物するだけなのに気を遣うのは疲れるよ~)
(アロハにサンダル装備のお前が言うな?)
(人の事言えないでしょ、武器見せつけちゃって。完全にカタギじゃないからね?)
「オーダーメイドを人数分用意して欲しいんやけど、女性用のドレスの取り扱いは?」
「ございます。ドレスをご希望される方は?」
「ウチと……あ~、説得するのも面倒やさかい、女性陣は全員ドレスとスーツの2着用意して貰える? 男性陣はスーツ2種類で」
何故かちょっとキレてるハイデマリーが、エリーとリタを指差して言った。
「うぇ!? ボクもドレス着るの!?」
「着んでもええけど、持っとるのと持ってないのとじゃ選べる選択肢が違うから用意して貰い。りーさんもな」
「わかった」
エリーはともかく、何処かそわそわしているリタは着てみたかったようだ。元とはいえ貴族だし、ヴォイド侵攻が無ければ、今頃は貴族としてドレスを何着も持っている年頃だ。気になるのも分かる。
「ではドレスをご希望の方は奥で採寸を行います。―――カミラ、ヴァネッサ。男性のお客様の採寸をお願いします」
「承知しました」
奥へ案内されていく女性陣と入れ替わるように別の店員がこちらへ来た。長身で無駄のない所作、ぴちっとしたスーツにスレンダーなラインが良く似合う美人組だ。目が合うと柔らかく微笑んでくれる仕草に、何だろう、こう、大人の余裕を感じる……!
「ではエルフ族のお二方から採寸させて頂きますね。こちらへどうぞ」
「やあ、お嬢さん」
「お手柔らかに頼むよ」
促されるまま前に出るアレンとエレン。肩に腕、胸囲と流れるように測られていくが……どこかその所作がエロく感じるのはどういう事だ!?
「私、エルフ族のお客様のお相手は初めてです」
「私もです。お客様の線は細いですから、スーツ姿が映えますよ」
「そうかい? 後ろの二人と違って筋肉が少ないからね。男らしくないと言われないか不安だったよ」
「そんな事ありませんわ。お二人とも、とても魅力的です」
「股下も図りますね? 失礼致します」
「ふふ、柄にもなく緊張してしまいますね」
口説かれてる? これ、双子口説かれているのか!? いや確かに、男から見てもアレンとエレンは美形なのは間違いないんだが。なんだかお姉さん方の目が潤んでいるような気がしないかアンドー! ヤラシイ雰囲気がプンプンするんだが、ここってそういう店だったのかハイデマリー!?
チラっと視線をアンドーに向けると、即座にアイコンタクトでの意思疎通が始まった。
(落ち着け若造)
(ジジイ!)
(ジジイじゃない! いいか、これはチャンスだ)
(と、言うと?)
(美人さんとお近づきになれるか否か、ここで決まる!)
(!)
(この雰囲気をそのまま持っていくことだけを考えろ)
(是!)
「では、次のお客様もこちらへどうぞ」
エレンの採寸が終わり、アンドーが俺よりも先に呼ばれる。
その後で俺も呼ばれて首回りから採寸が始まるが、その頃にはアンドーは股下の採寸に移る所だった。
「では股下を測りますね」
「ああ―――サイズはラージ、だろ?」
や、やりやがった! このスケベジジイ、美人さんが測定するためにしゃがみこんで、アレの近くに顔を寄せた所でぶっこみやがった!
だがこれは判定ギリギリのセクハラ、ラインを超えている場合は相手からの痛いしっぺ返しが返って来るが―――
「まあ―――ウフフ、しっかり確認しますね」
―――通った、だと……!? 中年オヤジの変態アプローチが通用した!?
しかも美人さんの声色が気持ち柔らかい……ヤバいぜこれは!
「これは……フフ、興味深いですね」
「だろ?」
しゃがみこんだままの上目遣い、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。やべーぞハイデマリー、なんかわかり合ってるぞこの二人。
「本日のご予定は?」
「昼間は後ろのガキ含めた面倒を見る必要があるが、夜は空いているぞ?」
アンドーがそう返した後、美人さんとの空気に少しの間があった。1分なのか、2分なのか。たぶん10秒くらいなのかもしれないが、俺が固唾を呑みこんで見守っていると。
「でしたら、後ほどお時間を頂けませんか?」
「美人の誘いなら喜んで」
勝ち誇った顔で俺を見下ろすアンドー。
その顔はこう言っている。”俺に続け”と。
ああ、分かったよアンドー。アンドーの伝えたいことが、頭ではなく心で理解できた。
ここでは引けない。ここで引くのは無作法というもの……!
「お客様も股下を失礼しますね」
「よろしく―――2Lかな?」
言った。言い切ってやった。Lではない2Lだと、さっきと同じテンションで言い切った。
なのにどうして、何で首を傾けて俺を見ているんですか……?
「……確認させて頂きますね」
……沈黙が痛い。黙々と採寸だけが進んで行く。
そして立ち上がった美人さんが、柔らかい笑みを浮かべた。その口元は緩んでいる。これは―――?
「……そうですね。数値としては、もう少し控えめかと」
「ぶはっ」
アレンが吹き出した。
「申し訳ありません、ですが――」
美人さんは口元に手をやり、上品にくすりと笑い。
「申告値よりも、現実の方が誠実でいらっしゃいます」
「フォローになってねぇな」
アンドーのボソッとした一言に耐えきれない、といった仕草で互いの肩を叩き合っている双子。やべぇ、俺涙でそう。
「真似するならちゃんとやれよ。盛ってんじゃねえ」
「う、うっせーな!」
腹立つ顔で煽るアンドー。もう採寸も終わったんだ、一発ぶん殴ってやる!
そう息巻いたその時、店の奥からとんでもないプレッシャーが放たれた気がした。バッと視線を移すと、カーテンの隙間から除く眼。少し紅くなっているような気がするのは気のせいでしょうか、リタさん。向けられた眼圧がこ、怖い……。
「オキタ」
「ひぇ」
「なに、してるの」
視線が逸らせない!?
「オッキー……」
しかも向けられている目はもう一組ある。
「最低……」
「いや、その、これはだな……」
頭をフル回転させて言い訳を考えるが、何も出てこない。
と言うか、思考は全部リタのB.M.Iで読まれるから何の意味もなさない。
「……ふーん、そういうノリなんだ」
「違う、違うぞエリー。お前の勘違いだ」
「へぇ」
だ~めだこれ、全っ然信じてない。
「オキタ、後で話があるから」
―――あ、終わったわこれ。
横を見ると、アンドーが満面の笑みで親指を立てていた。
「死ぬなよ、色男」
その後はスーツの色を選んだり、女性陣のクレジットを全部払ったりして、何とか機嫌を直して貰えたのだった。




