第6話 視点を変えて、ノアです。
アナザービジョンサイドストーリー物語サイドアナザービジョン。
~ ノア視点 ~
私はノア。
目の前に、マスターがいます。
「マスター、何かご要望は、ございませんか?」
「はあ、はあ、はあ、はあ、コ、コ、コーヒーを淹れてくれるか?」
「肯定」
私は台所に行き、コーヒーを淹れる。
・・・はあ。
正直、他の要望が聞きたい。
マスターは、私が要望をたずねる度に、コーヒーを要求してくる。
これでコーヒーを淹れるのは、かれこれ50杯目だ。
マスターの様子をチラッと見る。
「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ・・・・・・」
苦しそうに、胸を押さえている。
コーヒーを飲み過ぎているためなのか、マスターの様子がなんだかおかしい。
大丈夫だろうか?
「はい、どうぞ」
「あ、あ、あ、あり、ありが、あり、ありがとととととととととととととと」
マスターが震える手で、コーヒーカップを持つ。
手が震えすぎて、コーヒーをこぼしそうだ。
「うふふ」
しかし、大丈夫!
私は後ろ手に、テーブル布巾を用意しているのだ!
私は思考回路をフル稼働し、そうなった時の状況を想定する。
~ 妄想 ~
「あ、いっけねえ! コーヒーをこぼしちまったぜ!」
キラキラしたマスターが、コーヒーをテーブルにこぼす。
「失礼します、マスター」
キラキラした私が、さっとテーブル布巾で、こぼれたコーヒーを拭く。
「な、なんだと!? ノア、まさかテーブル布巾を用意していたのか!? こんなに早くこぼれたコーヒーを拭くなんて! なんて優秀なアーティフィカルインテリジェンスなんだッ!!!」
「AIの嗜みです」
「こんな優秀なアーティフィカルインテリジェンスに仕えられて、マスターとして鼻が高いぜ!!!」
「もー、マスター、褒めすぎですよ」
「そんなことない! ノアは最高に素晴らしい|アーティフィカルインテリジェンスだ!!!」
「まったく、マスターには、やれやれですね」
「あははは!」
「うふふふ」
~ 妄想終わり ~
早くこぼせええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!
ノアはすまし顔で、テーブル布巾を強く握りしめた。
だが、マスターは震える手で、慎重に慎重にコーヒーカップを、口元へ運ぶ。
コーヒーは1滴も落ちていない。
・・・しぶとい。
マスターは時間をかけて、コーヒーを飲み切った。
「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ・・・・・・」
マスターの目の焦点が合っていない。
「あ、あ、ああ、ああ、ああり、ありああが、ととととととととととととと」
「おいしかったですか?」
コクコクコクコク。
マスターがすごく頷いてくれた。
うれしくて、顔がニヤケそうになる。
だが、表情は崩さない。
優秀なアーティフィカルインテリジェンスは、常に冷静で、キリッとしているものだ。
「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ・・・・・・」
マスターは、荒い呼吸を繰り返し、胸を押さえている。
大丈夫だろうか?
「マスター、何かご要望は、ございませんか?」
「ひいい!」
マスターがヒステリックな声を出し、私を恐ろしいものでも見るような目で見る。
「コ、コ、コ、コーヒーを、い、い、淹れて、く、く、く、くださ、さささささい」
「肯定」
私はコーヒーカップを持ち、ふたたび、台所へ向かう。
・・・はあ。
・・・他の要望が聞きたい。
これでコーヒーを淹れるのは、51杯目。
コーヒーも淹れ飽きてきた。
だが、手は一切抜かない。
それは当然だ。
当然過ぎるのだ。
私が仕えるマスターは、とても素晴らしい方だ。
この素晴らしい方のお役に立ちたい。
いや、お役に立ってみせる。
この素晴らしい方の、お役に立ってみせるのだ!!!
私は丁寧に丁寧にコーヒーを作る。
マスターがよろこんでくれるよう、
また少し、コーヒーの粉を増やして。




