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椎名代理店  作者: 奇文屋
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20/21

決戦

 俺の担当『ノーティス通り北』

人通りは無い路地裏。騎士団通信士『石原敬』少尉

 薄暗い路地、二人で敵を待つ。

「来ますかね」

「来て欲しくないですが、来てもらわないと困ります」

「ですよね。すいません、つまらない事を聞いて」

「いいですよ。喋ってる方が気が紛れますから」

 静かな方がアレコレ考えてしまって落ち着かない。

「そうですか」

 言葉が止まる。

俺達以外の気配。

ここはフリージア軍が封鎖している区域。一般人は誰も来ない筈。

「おや? どちら様?」

 予想通り写真の女。腰に手を当てて、

「ここは立入禁止なんだけど?」

 その女以外の気配はない。

「聞いてる?」

 声にも態度にも敵意は感じられない。

「聞いてますよ」

 二本の短槍を繋げたまま構える。

「では、御武運を」

 ささっと隠れる石原さん。

その方が良いな。庇いながら闘える程の余裕は無い。

「ふふ」

 微笑む声。

直後、

槍を払われる。

「くっ」

 分離して、右手で剣を抑え左手で反撃。

「瞬生が言ってた通りね」

 ……瞬生? 

 剣を外され、反撃の突きも避けられる。

「そう言うって事は」

「ええ。最初から分かっていたわよ」

 嬉しそうに笑う。

「では」

 斬り上げられる剣。

顎先を風が通る。

反撃……する間が無い。視線を戻した直後に突き。

「うわっ」

 槍で防いで後に下がって距離を取る。

「お見事」 

 そう言う割りには余裕があるな。

腕から血が流れる。

「珍しいでしょ」

 そう言う女の剣にうっすらと赤い血が付いている。

レーザーが起動していないのに、斬られた?

それならもっと痛みと熱さを感じる筈だし、傷口ももっと……。

想像したら気が遠くなりそうだ。

それに女の剣は少し反りかえっている。

「真剣って知ってる?」

 真面目に取り組む事。

何て答えたらどうなるか。

「神話時代はこういう武器で闘ってたらしいわよ」

 きらり、と光る。

「剣。と言っても神話時代には色々な形状があったの。突く事を優先した剣、斬る事を優先した剣」

「じゃ、それは斬る事が専門ですか?」

「そう。斬る事に特化した剣は刃が反っている場合が多いの。でもレーザーではそんな事はしないの。何でか分かる?」

「何でも斬れるから?」

「あははは」

 バカにされた様な気がする。

「それもあるけど、反りをレーザーで作るのが無理なの。レーザーは真っ直ぐにしか行かないから。それにそんな装置を作っても実用化は無理だし」

 切っ先が俺に向く。

「利点はエネルギー切れが起きない事位ね。どう? 分かった?」

「貴女がその剣を使うのは分かりました」

「ちょっと違うわね。剣じゃなく刀。かの英雄『キカ』も使ったとされる

永久楽園トコシエノラクエン』のコピー」

「え?」

 ふわっと風に乗る様に間合いを詰めてくる。

舞う様に振るわれる剣閃。

避けるのが精一杯。

しゃがんで避ける時にチラッと見えた顔は……微笑んでいた。

 くそ……余裕か。

腹が立つ事だが力の差は歴然としているのは間違いない。

勝つのは無理。だとすれば俺がしなきゃいけないのは時間稼ぎ。

何処までやれるのかは分からないがやるしかない。

手を出せ。頭では分かっているのに体が反応しない。

次。それを避けて、

「このっ」

 タイミング外れの反撃。

「甘い。もっとよく狙って」

 返す刀で薙ぎ払いが来る。

ガキィ。と金属音が響く。

何とか左手の槍で防いだ。

右手で狙いをつけて、一歩下がる。

「おや? 今のチャンスを使わないの?」

 下手に攻めてカウンターを食らっては意味が無い。

「負ける訳にはいかないので」

 上がる息を抑え、相手を見据える。

ギリギリの戦闘。

張り詰めてないと切れる緊張。

集中する事がここまで疲れる事を今まで知らなかった自分。

「それはこっちも同じ事。これからやる事があるの」

 変わらない余裕。

いつでもここを通る事が出来るという自信。

こっちはもう余裕なんて無い。

それなのに悔しさも何も感じない。

「キミと遊んでいたいけど」

 時計を見る。

「もうそんな時間は無いみたい。退いて」

 声から感情が消えた。最後通告、と言う事か。

「俺にもやらなきゃいけない事があるんで」

「そう」

 刀を無形に構えて、

「え」

 一瞬で間合いを詰められる。

ほのかに香る香水と血の匂い。

 何が……。

ズッと何かが体から引き抜かれる。

同時に力が抜けていく。

 おぼろげに見えた女の姿。

表情は見えない。

「ゴメンね」

 悲しく呟く声。


「誰?」

 人通りの無い『ルスザート通り』に現れた男。

「待ちくたびれたわ〜」

 やっと来た待ち人。

「待っていて貰ってなんだが」

 銃声。狙いを外す。俺のいたところに着弾。

「おぉ〜。いきなりやな」

「待ちくたびれた。と言ってたじゃないか」

 確かに。その方が話が早いな。

右に左に。ステップを踏んで物陰に隠れる。

次々に撃ってくる。弾数とか考えてるのか? 等と心配してみる。

、まぁ。マガジンを変える時を狙うけど。

銃の事はあまりよく知らないが、ハンドガンならそれ程装填出来ないだろう。

 ……止んだ? 

飛び出して、チャクラムを構える。

「そう来ると思ってたよ」

 銃を真っ直ぐに構えている。

読まれてた。

躊躇わずに引き金を引く。

「あ。やっぱり」

 一瞬の間を開けてチャクラムを投げる。

銃弾の狙いは間違いなく俺の体。

 引く直前に動けば狙いはずれる。手元で一ミリでも距離が開けば開くほどそれは増大する。だから、

「うっし!」

 しゃがんで避ける。

「痛ぅ」

 一枚目が腕を切り裂く。

タイミングを逃さずに、もう一つのチャクラムを投げる。

「勝負あり」

 二枚目がもう片方の腕を切り裂いて戻ってくる。

それを、男の首元に突きつける。 


『ターネル通り』

 突きを避け、前に出る。

「ふっ」

 避けた戟が真横から向ってくる。

 しゃがんでやり過ごして前に出るが、

「ちっ」

 もう体勢が整っている。

一歩下がってこっちも体勢を立て直す。

基本に忠実な攻め方。だから、やりにくい。

「ふー」

 息を吐いて攻め方を考える。

……アカンな。考えてる時点で負けやな。

「何が可笑しい?」

 その笑いが気になったのか、初めて男が口を開いた。

「やりにくいなって」

 最短での突き。避けても二撃目の払い。それを避けても槍が戻っているから最初に戻る。その繰り返し。

「そうか。では、こっちから攻めよう」

 リーチが長いからこっちの間合いの外からの攻撃。

剣で弾いて、槍に体重をかけて抑えるが、

槍を引かれてこっちの体勢が崩れる。

「何がしたいんだ?」

「これやっ!」

 崩れた体勢を右足を踏み込む事で立て直し、

私の間合いの中。剣を持ち直し、

 突きから斬り下ろしてしゃがんで足を払う。

「ぐっ」

 足を払われて体勢を崩す男。

一歩下がって倒れないが、私も一歩前に出て攻め続ける。

 地面を蹴って反動をつけて斬り上げる。

勢いをつけた分、大振りになった。

 軌道を読まれ、避けられて、

「詰めが甘い!」

 突き出される槍。

「そっちやろっ!」

 ワンパターンの攻め方。

軌道も早さも同じ。

いい加減に目も慣れた。

剣を振った勢いのまま回転して避ける。切っ先が顔を掠める。

 私の方が速い。

払われるより速く、男を打ち付ける。

「がはっ」

 見事ヒット。

お仲を抑えて倒れている男。

「ふぅ……他はどうなったかな」


「そうか。分かった」

 通信士からの報告を聞く。

「今の所は順調か」

 二勝一敗。あの二人で止められるか。

いや。やれると信じよう。

「そうですね。こっちも頑張りましょう」

「俺は常に最善を尽くすよ」

 そう。今までそうやって来た。それはこれからも変わらない。

「さて、こっちも来たようだ」

 ぶん、と一振り。

「よう、退いてくれよ」

 ダンダン、と迫ってくる。

突きを出して牽制するが、手に持っている剣で弾かれる。

「今なら痛い目見ずに済むぞ」

「退いて欲しいのか?」

「いや」

 口元が歪む。

「そうなら俺が楽しめ無いからな」

 柄の上を剣が滑ってくる。

「退かないのなら、少しは頑張れよ」

 槍を真横に持ち変えて鍔迫り合い。

「こんな長い槍を器用に使うもんだな」

「それはお互い様だろ」

 男の剣も通常の剣の三倍近い剣。それを軽々と振るっている。

「力も互角か?」

 挑発する声。

ぐいぐいと押してくる。

こんな安い挑発に乗るわけにはいかないが、押し込まれる訳にもいかない。

 じりじりと押される圧力で後退して行く。

「俺の方が上かな?」

 笑った瞬間に槍をずらして、バランスを崩させる。

前に大きくよろめく。その隙をつき、槍を振り下ろす。

 打ちつける槍。それを、

「……っぐ」

 体勢を崩しながらも、剣で防がれた。

形勢は逆転。しかし、攻めきれなかった。

状況は俺に有利だが、慎重に、冷静に。そう焦る心に言い聞かせる。

 下から睨みつける男。

槍と剣が軋みを上げる。

 剣が翻り、槍が外される。

「はっ!」

 斬り上げてくる。

それを一歩下がって避け、槍を構える。

 突き出す槍。相手の肩を打ち抜いた。

同時に剣が振り下ろされた。


「まったく」

 厄介な相手だ。

微妙な距離を保ったままの相手。

シールドなんて珍しい武器を使ってる奴なんて久しぶりに見た。

様な気がする。多分。

 まぁ、今はそんな事どうでも良い。

「さて」

 くるん、とチャクラムを指で回して相手を見てどうするかを考える。

シールドを装着した左手に添えている右手。

その照準は私。その軌道もある程度はアイツの思い通りに動いている。

「まったく」

 同じ事を何度呟いただろうか。

ワイヤーを器用に使い軌道を修正してくるなんて。

ワイヤー自体の長さもあるが、それ以上離れるとこっちの攻撃も防がれやすくなる。

 さて、どうするか。

相手は今の所、中距離を保っている。

という事は、接近戦に自信がない。かも。

そうなれば私の方が有利。かも。

 ……何ていい加減な作戦。

実戦とはそういうもの。

そう納得して、ぺろっと舌を出して唇を湿らせる。

 よし。

チャクラムを握り、間合いを詰める。

大きくカーブして射出されるシールドをキッと見据える。

 ギリギリで避ける。

ワイヤーが私に絡みつく様にうねる。

横に進路変更してそれも避ける。

巻き戻す時にもワイヤーが自在に動いて足を払う。

「このっ」

 飛んで避けるがワイヤーが巻き戻されて……最初に戻る。

シールドの一撃目、ワイヤーの二撃目、巻き戻して三撃。

連撃は三発で終わり、か。

 あ。あのアホの話を思いだした。

痛みは一瞬。覚悟を決めろ。チャンスは一度。絶対にビビるな。私。

「ふぅー」

 相手を見据え、心を落ち着けつかせる様に息を吐く。

 ……よし。行くか。

とん、と飛んで一気に走る。

シールドの射出を見極めて避ける。ワイヤーの二撃目。

 あのアホと同じ戦法なのはムカつくが……。

手の届く距離の時に一気に掴む。

 握る瞬間に、するっと逃げて行く。

……え……マジ?

そのまま後からの攻撃。その時にチャクラムを投げて相手の意表をつく。

体勢を崩しているのはお互い様。違うのは傷つく覚悟があるのか、それだけ。

レーザーが起動しているシールド部分レーザー部を見極め硬いシールドを思いっきり蹴り上げる。

痛む足を気合で動かして、

「どらぁっ!」

 握ったチャクラムで思いっきり殴りつけた!


 曲がり角から人影が見えた。

その瞬間に剣を構え、斬りかかる。

「おいおい。危ないな」

 受け止めた女。

「私が一般人だったらどうするつもり?」

「市民はここには来ないでしょう?」

「間違いないな」

 剣を受け止めたそれ。斧槍を振るう。

「さぁ、始めましょうか」

 優雅な微笑み。

そこにあるのは絶対の自信。

 離れて相手を見る。

斧槍の切っ先を地につけ構えている。

 重量武器なら速さで撹乱して一撃を決める。

ジリッと足を動かして、タイミングと距離を測る。

「来ないならこっちから行くわよ?」

 振り下ろされる斧槍。

その圧倒感は受けられない。

一歩下がって、振り切った瞬間に反撃に出る。

地面に突き刺さった斧槍。

無防備な女。

タイミングとしては完璧のはず。

だった。

「残念」

 薙ぎ払った剣は斧槍の柄に阻まれて、私は蹴り飛ばされた。

抜いた訳じゃない。

女は柄を基点に横回転し私の剣を避け、そのままの勢いで私を蹴り飛ばした。

「よ」

 斧槍を抜いて、私に向ける。

「邪魔しないなら、ここで終わりにしてあげる」

「結構だ」

 口に広がる血の味に決意を込めて言い返す。

……ここは通さない。

 立ち上がり、剣を構えて、今度はこっちから攻める。

突き、から払い。剣を返して斬り上げて斬り下ろす。

一歩進んでまだ攻める。

斜めに斬り上げて、払いに軌道を変え、振り払う。

後に下がり壁を背にした女。

息の続く限り突き続ける。

「ハァ……ハァ……」

 息の切れた瞬間に距離を取られた。

「流石は騎士。良い攻めね」

 私が責めた結果は、女の顔と服が少し切れただけ。

「じゃ、次は私が攻める方で」

 リーチでは圧倒的に私が不利。

突きだけの攻め。回りこもうとしたら払いによって動きを封じられる。

正面から動けない。

突きは軌道を読めるが、このままじゃジリ貧になる。

 カウンターを狙うが、その為には体の動きだけで避け続けないとこの間合いからじゃタイミングが取れない。

それは分かっているのに、剣を使わないと避けきれない突きが向ってくる。

回り込めない上に、避けきれない突き。

「ふ」

 思わず零れる微笑み。

相手の顔が不思議そうになるのを見逃さなかった。

刹那の瞬間。一気に距離を詰めて、

「はぁぁっ!」

 渾身の力を込め振り抜く。

柄に阻まれるが、攻め続ける。

ぎりぎりと押し、動きを止め私の間合い。長柄が仇となりさっきの速さでの対応は出来ない。

 剣を引いて再び横薙ぎ。柄を直撃するが構わずにもう一度。

「妬けになったか?」

 声には余裕が感じられない。今決めないとこっちがやられるな。

再び弾かれる。今度は斜めから斬り上げる。ぎりぎり届かない。

それは女も分かっている筈。

剣が女の顔を通る直前に、レーザーを起動させる。

「!」

 突然目の前に強い光りがあれば目を閉じる。

すぐにレーザーを切り、腕を打ちつけ、勝負あり。


「やぁ、久しぶり」

 見知った顔がやって来る。

彼女がここに来るという事は、彼が負けた事を意味している。

その事を報告で聞いてはいたけど、落ち着かないな。

「……」

 気にはなるし、初めて会ってからそんなに時間は経ってはいないが心が逸る。

それを表情にも声にも出さずに、

「そんなに嫌そうな顔しないでくれよ。傷つくじゃないか」

 いつも通りに話しかける。

「もう誰もいないと思ったのに」

「ふふん。こっちもこの道を通ると思ったのでね」

「予定通りに真っ直ぐ向えば良かったわ」

「寄り道も良いのもだろう」

「今回は失敗ね。キミとは二度と会いたく無かったわ」

「僕はもう一度キミに会いたかったよ。キカ」

 手に持った銃を構える。

「言ったでしょ。私は会いたくなかったって」

「これが最後」

「でしょうね」

「キミが」

「貴方が」

「「ここで死ぬから」」

 同時に距離を詰め、火花が飛び散る。

「く」

 こっちは二丁なのに攻めきれないか。

 剣を弾いても体をずらして狙いを定めさせないのは流石、と言った所か。

剣の間合いじゃないのに、このスピード。

息つく暇もないな。

隙を見せたら一気に持って行かれそうだ。

距離、スピード、タイミング。

それらを見計らいながらチャンスを逃さない。

上下左右。関係なく攻めてくるキカ。

……まったく。厄介な奴がいたもんだ。

剣を弾いてそのまま押さえつける。

キカの顔に照準を突け、躊躇い無く引き金を引く。

 発射されたレーザーがキカの顔の後に着弾。

「嘘ぉ」

 この距離、このタイミング、このスピードを避けるか?

「ふ〜。危ない危ない」

 とんとん、と三歩ほど下がり剣を構える。

「今のはヤバかった」

「と言うわりには余裕の様だけど」

「ふふ。そう?」

 余裕の顔をしているのが悔しい。

「ま、レーザーなんて避け様がないけど、引き金を引くタイミングで動けば何とかなるもんよ」

 何て事無い種明かし。

しかし、口で言うほど簡単ではない。

少しでもタイミングがずれればなんの意味も無い。

「さて、仕切りなおして」

 という事は距離を詰めれば向こうに有利。離れればこっちが有利って事か。

よくよく考えれば銃と剣だし。

それなら接近戦に付き合う必要は無い。

真っ直ぐに突っ込んでくるキカ。

剣の間合いぎりぎりで横に動いて、

銃を撃つ。

一発は剣で、一発は外れた。

「痛った〜」

 至近距離で受ければそれなりの衝撃がある。

しかし、光速を避けるか? 普通?

「今のはヤバかった」

 踏み込んで、

 しまった。向こうの間合いだ。ここは。

 斬り上げてくる。

銃を構える事は……出来ないな。

剣を避け、体勢を立て直す。

衝撃が残っているのか、一撃の力は弱い。

しかし、厄介なスピード。

足を止めるか。

狙いを足に変える。

気取られるな。チャンスはそう無いぞ。

斬り上げられた剣。

ここ!

銃口を足に向け、

「良い狙いね」

 バレテタ?

柄で、胸に一撃。

「がはっ」

 息が詰る。

「勝負を急ぎすぎたのかな?」

 からかう声。

何も言い返せない。

「ごほ、ごほ……さて」

 今度はこっちから攻める。

息がまだ苦しいがそんな事言ってられない。

 やっぱり……キカは強い。

多分、僕と互角かそれ以上。

確実に勝てると言う要素が見つからない。

それなら、少しでも時間を稼いでするべき事をやろう。

守りに専念しても、このスピードを何時までも防ぎ切る自身は無い。

 銃を撃っても避けられるし、反動で出来る隙をつかれたら意味が無い。

「銃を撃たないの?」

 剣を構えず、体の動きだけで避け続ける。

「銃は振る物じゃなくて撃つ物でしょう」

 聞くな。

当たらなくても良い。

気をつけるのはカウンター。

あの剣はレーザー無しでも斬れる。

コピーだとかビンテージだとか言っているが、あれだけ打ち合っても刃こぼれはしていない。

軽く丈夫な金属。無い事は無いが、アレは異常だ。

何よりレーザー装置が無いのが不思議だ。

軽く弧を描いたデザイン。確かにそれならレーザーは使えそうに無いが、キカなら普通の剣でも充分に扱えそうだが、

個人の趣味などと言われてしまえばそれまでだが。

「どうしたの、考え事?」

 意識をキカに向ける。

この隙すらも見逃せる余裕。

「いや」

 自分のペースを保つ事に集中しろ。

もうすぐ時間の稼げれば、こっちの勝ちだ。


 ギリギリの戦場の中、場違いなメロディーが流れる。

「誰? こんな時に」

 ……

「はい?」

 キカのケータイ。

「おい。……緊張感ってモノを」

 手で制される。

喋るなって事だ。

「あ。そう。了解」

 パチン、とケータイを閉じ、

「今回はここまでって事で」

「はぁ?」

「どうやらこっちの事情が変わったらしいの。とりあえず今回はそっちの勝ちって事で。次は無いよ? それじゃ」

 陽気に帰るキカ。

しばらく警戒していたが、どうやら本当に帰った様だ。

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