反撃準備
あれから三日経った。
叶さんは命に別状は無いとの事で向こうの本部で療養する事になった。
新たなベースに移って交代で見張りをする事になった。
「交代します」
「はいよー、じゃ寝よー」
交代制の見張りを店長と交代する。
「さて、と」
見張りと言っても特にする事は無い。
まぁ、あったらあったで困るけど。
立ってるだけだと、体が固まるような気がして常に動かしている。
三日。
言葉にすると二文字だが、色んな事があった。
「永遠の王の目的は王族の暗殺」
スパイがもたらした情報は意外すぎて大きすぎた。
「間違い無いのですか?」
「その準備は整いつつあります」
スパイ。それは『ディリストラム氏暗殺未遂』の時、狙っていた剣士。
名前は『奥田和人』。
「しかし、思いきった事を」
「なんでそんな事をやるの?」
「おい。ニュース見て無いのか?」
店長が宗士君の言葉に反応する。
「で、なんで?」
「警察が『ライタウス連邦』系企業『トレイズ』の摘発したやろ」
「そんな事あった?」
「結構大きな事件だぞ」
「千歳知ってる?」
「確か専務がマネーロンダリングに関わってるとか、ですよね?」
「そう。その専務が永遠の王の関係者で逮捕されたの」
キョトンとした顔で俺を見る。
「なんで知ってるの?」
驚いた顔で俺を見る。
「まぁ。一応ニュースは見てるんで」
「マジで?」
「コイツはアナウンサーが目当てで……むぐ」
! 姉ちゃんが余計な事を口走ろうとしている!
咄嗟に口を塞ぐ。
「……」
嫌な沈黙。
「そんな事だと思ったよ」
店長の声が冷たく響く。
「まぁ、その報復って所やな」
「それなら警察狙うんじゃないの?」
「それより大きな存在である王族を狙う事によって自分達の力を誇示しようとしているのかもしれない」
「なるほど。勢力争いにもなってるって訳?」
りっつん達を見る店長。
直球。
もうちょっとオブラートにして下さいよ。
「まぁ、そんな所です」
「暗殺って……王族の護衛には軍がやってるんだろう?」
「軍の嶋沢栄太少佐が護衛に関する情報を流しています。これが証拠です」
数枚の資料が大佐に渡される。
「……」
資料が順繰りに読み回される。
「じゃ、こっちに入っているスパイについては?」
その資料は王のライタウス連邦視察からの帰途のルート。その警備の配置や人数が書かれている。
「それは」
一枚の写真。画像は鮮明ではないが、誰なのかは判別できる。
「彼女が?」
「はい。何度か永遠の王の幹部と会っているのを見ました」
「こっちは……」
もう一人の女性が写っている。姉ちゃんがそっちを指差す。
「キカ。と呼ばれていました」
「キカ? 英雄と同じ名前か」
店長が呟く。
「何か?」
聞こえた雪原さんが聞き返す。
「何でもない。続けて」
「では、まずはこっちに入っているスパイをどうにかしましょうか」
「誰?」
写っているスパイについては大佐が情報をくれた。
『上沢香』騎士団の通信担当。
いつか話していた通り、通信担当がスパイだった。
「ポジション的には良い場所だな。自ら動かなくても情報は上がってくるしその中から
必要な情報を流せば良いんだし」
「そうしてても怪しまれる事はないしな」
「それを見越しての配置でしょう」
「じゃ、もっと上にも居るって事ですか」
「それは間違いないでしょう。永遠の王かどうかは分かりませんが」
協力者達を見る。
笑える状況じゃない。
「ま、黙秘って事で」
「今は良いじゃない。協力してくれてるんだし」
あっけらかんとした店長の言葉で、
「優先しなきゃイケないのはこいつをどうするかって事じゃない」
「それについてはこちらに任せてもらいましょう。内部の事ですし」
「何? 揉み消し?」
「夏子。もうちょっと言い方あるやろ?」
「しゃーない。コイツやもん。な?」
な、って言われても。否定も肯定も出来ない。
「大丈夫ですよ。これ以上こちらの情報が流れるような事は無いです。それにあなた達には依頼の方に集中して欲しいですから」
「じゃ、任せるとして。こっちはどうするの?」
簡単ですね。店長。
「無論、阻止。それしかありません」
「規模や準備に要する時間を考えると……相手の方が有利か」
本多さんが冷静に分析する。
「その辺は臨機に対応すればどうにかなるわよ」
いや……店長、それは何も考えて無いってことじゃ。
「当然、一つずつ潰してる暇はありません。先日と同じ様に同時に全てのルートを潰します。幾つかダミーが混ざっているでしょうが、今からどれが本命なのかを調べている時間もありませんから」
地図を広げてその上に赤線を引く。
「相手の一番弱いところにこっちの最強をぶつけます」
「じゃ、相手の最強にはこっちの弱いのを?」
「そうです。その場合は勝つ事が目的ではありません。時間を稼ぐ事が目的です。一つ潰せばその他に合流して数的有利を作っていけば勝率は上がります」
「それは向こうの配置が分かっている場合の作戦やろ?」
「そうです。現段階では向こうの使う予定のルートしか分かりません」
地図上の赤線が王様の通るルートに繋がる。
「最強対最強になった場合は?」
「その場合も同じです。時間を稼いでより勝率を上がる方法を選択してもらいます」
「一人でも勝てるのなら勝負しても良いって事?」
頷く大佐。
「その場合は確実に勝てる見込み確実な場合ですが。それと連絡は密に取ってもらいます」
「勝負だけで精一杯だと思うが?」
「こっちの通信士を配備します。勝敗は彼等が行ってくれます」
「一緒に闘った方がいいじゃないですか?」
「非戦闘員ですので」
「こっちからも応援を出すし、幹部達を抑える事が出来れば勝利はは見えてきますよ」
「一敗も許されない状況の中で?」
「勝負事に緊張感は必要でしょう?」
「そのわりには余裕やな」
「ふふ」
微笑むその顔は、潜った修羅場の数の違いを感じさせられた。
「さて、なんだかんだと言った所でだのルートに最強が配置されたのかは分からないので、クジで決めましょうか?」
……
「「「ハァ?」」」
で、アミダクジの結果、俺の担当は『ノーティス通り北』担当。
一番最初に通りかかる。
だから俺は負ける事は許されないが、
「ここは最強が来るやろ?」
「そうですね。おそらくキカ辺りが」
「え? この女が最強なの?」
「フリージアに入っているメンバーの中では最強クラスでしょう。ウチも彼女には痛い目に遭わされましたから」
色々と地下組織にはあるんだな。と妙に納得してしまう。
「千歳。変わったろか?」
「いいよ。時間稼ぐだけなら何とか」
出切ると思う。
情けないがそれが精一杯だろう。
「心配すんな。俺がすぐに行ったるから」
優しい宗士君の言葉。
「あ。それは私の台詞」
弟思いの姉ちゃん。
「その前にアンタが負けたらどうするの?」
一言多い店長。
「いちいち……」
「……何?」
睨み合う二人。
「キミは身を守る事を優先していれば良い」
「そうやぞ。無理すんなよ」
姉ちゃんもクジを引く。
「うーん。微妙やな」
何が微妙なのか? 気になるところだ。
「今から緊張してるのか?」
本多さんが出てきた。
「いえ。何か落ち着かなくて」
「それが緊張してるって事だろ」
そうなるか。
何か恥ずかしくなってきた。
「ま、今までとは違うしな」
今までも依頼の中で闘った事はある。
しかし戦闘を目的とした依頼は初めてだ。
しかも負ければ命の保障はない。それが目前に迫っている。
緊張するなって言う方が無理だろう。
「本多さんは緊張してないんですか?」
「命のやり取りになるんだ。するなって言うほうが無理だろ」
そうは見えないないけど。
格が違うって言うか……
「はぁ」
「どうした?」
「いや、何か……大丈夫かなって」
「おい。まだ何も始まってないぞ」
笑う本多さん。俺を励まそうとしてくれてるのだろうが、余計に核の違いを感じさせられる。
「ま、精一杯やればそれでいいんじゃないか?」
結果失敗したら……
「悪い方に考えるな」
心を見透かした声。
「あの嬢ちゃんの様にあっけらかんとしていれば結果はついて来るんじゃないのか」
……無理だろ。アレは天性のもんだし。
「では、作戦決行します。各員予定の位置について下さい」
大佐の声でそれぞれの配置につく。




