強襲
「七尾さんから聞いていたけど、そんな闘い方する奴ってのは初めて見たな」
突き出した長柄を引き戻す。
穂先に片刃、それに突起がある。ハルバートか。
何にしても構える間を与えない。
突き、踏み込んで前に。
ひらり、と避けられ、横薙ぎ。
それを……受ける。
左手が痺れる。
ぎりぎりと押される。前に出たいが、力を抜いたら真横に飛ばされる。
しゃがんで、点をずらして、
「何度も同じ手が通用すると」
「思うかっ! バーカ!」
店長が戻ってきたチャクラムを手に一気に間合いを詰める。
「援護っ!」
上下に間髪入れず攻めていく。
店長の攻めの一瞬の間、それを俺が埋めて交代。
それを繰り返す。
守勢に回るしかない男。
しかし、目は冷静に体は最小の運動。
攻めているのはこっち。
構える暇を与えずに攻める。
長柄では不利な距離のはず。しかし、攻めきれない。
……じれったい。
そう思った。
牽制で出されるハルバート。
何度か繰り返した動作。
巻き込んで店長が一歩前に出る。
ここまでは同じ。
ここからが違った。
光る突起。
店長は腕を振りかぶっている。
今までとは違う速さで引き戻されるハルバート。
「単調な動きに」
店長はチャクラムを突起に引っ掛けて、ハルバートを押さえ込む。
「へへへ。慣れたのはお前だろ?」
「そうだな」
微笑む男。
まず、一人。
俺の突きが男の左肩に直撃。
「チッ! チビでも流石に騎士かっ!?」
全く、何で人を見た目で判断するのか。
剣を払い一歩前へ。眼前を通り抜ける剣を避ける。
「人を見た目で判断するのは駄目だな」
「偏見は良くないですよ」
「全くだ」
口元は笑っているが目は笑ってない。殺気も少し増したかな。
どうやら本気になったのか。
これで、私も少し本気になれるな。
「では」
一呼吸入れて、
「参る」
「前時代的な」
言い終わる前に踏み込む。
全速の剣閃。
斬り上げて体を捻り薙ぎ払い。
打ち合う剣。
スッと後に引いて、相手の体勢を崩す。そして前へ。
薙ぎ払いから重心をずらして相手の反撃を避ける。
相手の剣が戻る前に、突き。
それから横に斬り払ってから斜めに斬り下ろして真っ直ぐ斬り上げる。
相手の反撃。
無防備な腹部に薙ぎ払い。後に飛んで避ける。
間合いを詰められて、左右からの連撃。
一撃目を避けて、二撃目を捌く。
弾かれる剣を戻して、打ち合う。
一撃、二撃、三撃……。
互いにレーザーを起動している。真夜中のジノト通りに火花が飛び散る。
無論、こっちは死なない程度の威力だけど。
「やぁぁっ!」
渾身の力を込めて斬り上げる。
弾いた瞬間を狙って前に。
後に仰け反りながらも冷静に私を見つめる瞳。
ギリギリ間合いに入る。その瞬間、突き出されるもう一本の剣。
切っ先を見据え、軌道を読む。
突きなら直線。
突き出された直後に左に重心をずらして避ける。
もう一撃ある。
私が片方に意識を集中した直後に弾いた剣を振り下ろす。
体を横にし、振り下ろされる剣が眼前を光りを残して駆け抜ける。
その直後、
私の剣が相手の肩に振り下ろされる。
「いっ!」
悲鳴にならない声。
首筋に剣を当て、
「さ。来て貰いましょうか」
レーザー起動のスイッチに指をかけながら見下ろす。
「遅れまし……た」
二人の男から武器を取り上げ本部に連絡した所でやって来た二人の騎士。
「遅いっ!!」
上官でも、まして騎士でもない店長が一喝。
「「すいません!」」
声を揃えて謝る二人。
「いえ。遅れてはいません。作戦開始時刻はまだ先です」
「「え」」
今度はこっちの声がハモる。
「そうなの? 千歳?」
怒鳴った事に対して悪びれる風も無く振り返る店長。
「そうですね」
時計を確認。雪原さんの言う通り予定時間ではない。
「さて、時間も余りないですから、名前だけでも」
「吉川です」
「森下です」
「うむ」
「すいません。こっちが椎名で、僕は小林です」
何でそんなに威張っているのかは分からないが、名乗る気が無い店長に代わり俺が答えた。
「じゃ、行きましょうか」
雪原さんの言葉と共に次の場所に向う。
「はぁ!」
打ちつけられたハルバート。
アスファルトに亀裂が入る。
武器は同じだが……力はさっきの男の比じゃないな。
俺達は当初の目的どおりに『永遠の王幹部襲撃』を開始。
おそらく外れと思われるが、相手が……悪くないか?
ハルバートを携えた大男。顔の傷が男の戦歴を物語っている。
もう一人いたが店長のチャクラムによってさっさと退場。
従って大男一人に対し俺達は五人。
にも関わらず攻め手に欠ける。
雪原さんが正面から攻める。
ハルバートを避け、踏み込む。
少し遅れて俺と森下君が左右から、吉川君が後同時に突っ込む。
切っ先を地面にした構えから、横薙ぎ一閃。
後ろに飛ぶ雪原さん。受けた手が痺れる俺。顔を歪める森下君。
そして、
「声を上げたら少しは楽になるぞ」
「は。下っ端風情が何を」
パルチザンを支えにようやく立っている吉川君。
足が普通じゃないほうに曲がっている。
顔には脂汗。痛みは尋常じゃ無いだろう。それでも、戦意は失ってない。
その姿を見て、俺の中の闘志が燃え上がる。
ジリッと足を動かす。
その気配を感じ取り、俺に向き直る男。
正面切って睨み合う。
それだけで気後れしてしまいそうになる。
目を閉じ、覚悟を決めて、一歩踏み出す。
唸る剛槍。見極めて避け反撃。
切っ先ではなく柄で受け止められる。
力の差は歴然としている。このまま一気に攻める。
受け止められた槍は腕、それと同時にもう一振りの槍は肩。
「か、は」
腕に突き刺さる直前、柄が俺を打ち払った。
「甘い。その程度の腕で何を」
「何か言ったかぁー!」
森下君が攻める。突きに特化した造りの剣。
踏み込むスピードは俺より速い。
三連突き。
柄でその軌道を変化させられる。
そして、カウンター。
「見かけによらず器用だな」
店長が割って入る。
密着した間合い。確かにその間合いならハルバートの一撃は封じられる。
だが、体格が違い過ぎる。
店長の蹴りはまともに入っているが、それは男が避けようとしていない様にも見える。
それに、男はチャクラムの一撃に注視している。
つまり、それ以外の攻撃は効いていない。
それでも攻め続ける店長。
「気が済んだか?」
「店長っ!!」
「くっ」
捕まった店長。チャクラムの一撃を捕らえられて腕を持ち上げられる。
「良い目だな」
「チャーム……ポイント……な、んだ」
この期に及んでもいつもの強がりを言える店長。
何時までも痛がってる場合じゃない。
ふらつく頭を奮い立たせて、立ち上がる。
「何だ、まだ闘るのか?」
「いえ。彼ではなく私です」
雪原さんが攻める。
光るレーザー。それが照らす冷静な瞳。店長を捕らえている手を斬り上げる。
店長を放し、ハルバートを構える。
「うわっ!ちょ」
いきなり放されて尻餅をつく。
「痛った〜」
店長の痛そうな声を無視して、雪原さんに続いて森下君と俺が続く。
俺はハルバートに狙いを定めて短槍を振るう。
男の意識が俺に向う。柄で弾いて、直後に森下君の突き。
俺達二人の動きで隙ができる。
そこを雪原さんが攻める。
斬り上げる剣。
打ち合う剣とハルバート。
力では圧倒的に不利なのは分かってる。
だから、その一瞬を逃さない。
弾かれた体勢を立て直し、無防備な腹部を薙ぎ払う俺と剣を突き出す森下君。
「五対一でここまで」
とりあえず、本命ではないが俺達の任務は終了。
その報告と負傷者の事と捕らえた永遠の王メンバーの引渡しの為に本部にいた立野大佐に連絡を取った。
「その他のチームは?」
「概ね成功かな」
「て事は、本命はまだ?」
「と言うより、いない。と言ったほうがいいかも」
ガセネタを掴まされたって事か。
「情報漏洩の可能性は?」
店長が単刀直入に聞いてしまう。
もうちょっと、言い方ってものに気を使って欲しい。
周りにいる……大体は俺の事だが……者は気が気では無い。
「ありえません。騎士たるものが二心を抱くなど」
雪原さんが真っ向から否定。しかし、
「私はその可能性もあるかと」
「大佐っ!」
雪原さんの声に怒気が含まれている。
「雪原少尉。幾つかの可能性の中からその可能性もある。と言っているのです」
窘めるが、声にはその可能性が一番高い事を確信している様な印象を受けた。
「じゃ、詳しい事、聞かせてくれる」
「それは……後ほど」
含みを持たせる大佐。
捕らえたメンバー一人の護送を確認してその場から立ち去る。
「しかし、君達五人相手に互角に闘うとは」
「しつこいな、大佐も。それにあれは人間じゃないな」
口を尖らせて呟く店長。
ハーサディビル、三階。そこに立野大佐と雪原さんと森下君。店長と俺がソファに座りさっきの闘いを振り返る。
「全てに置いて圧倒されました」
素直に力量差を認める森下君。じろり、と店長と雪原さんに睨まれて俯く。
彼とは気が合いそうだ。
「それよりも内通者の事を」
雪原さんが話を変える。
「そうだった。そっちの方が重要だ」
珍しく? 気が合っている。その理由は『負けた勝負』から話を逸らしたいのだろう。
「一つの可能性としてある。とだけだね。今は」
「何か含んでない?」
「こちらもこれから調べる訳でして」
「じゃ、怪しいのは」
一本指が立つ。
「それは?」
「言ってもいいが……」
俺達を見る大佐。
「ん? 何」
お茶を啜っていた店長がその目に気付いた。
「誰がスパイなのかって事を言おうと思って」
「あ。そう。で、誰なの?」
ずずずっと啜る。
「いいのかい? 言っても」
「いいんじゃない」
「え、でも」
口ごもる大佐。
「何よ。はっきり言いなさいよ」
大佐に対してもタメ口で喋る店長はカッコイイ。
とは思わない。社会人としての礼儀は持てよ、というのが俺の感想だ。
「え。聞いたら君達も巻き込まれる事になるけど」
「それは……」
いつもは即決の店長が珍しく悩む。
「正直に言うと、気にはなる。しかし、アンタ達の内部事情に巻き込まれるのは嫌」
「なるほど。気持ち良い位正直に言ってくれましたね」
俺としてはもう少しオブラートに言って欲しい。
「なら……追加って事でどうですか?」
「それで」
依頼なら受ける。
「お金で」
「私達は代理屋なの。依頼を受け、それを達成してお金を貰ってご飯食べてるの」
店長の言葉に雪原さんが言葉を止める。
「大佐。で」
「うん。……私が疑っているのは『嶋沢栄太』フリージア軍少佐」
軍?
「え、フリージア軍の少佐? 騎士団じゃないの?」
「それもいるでしょうが、現在では分かりませんね。騎士団の者ならこっちの手の内も分かっているでしょうから」
「対応は取れる。って事ですか」
「そう言う事です」
「じゃ、とりあえずその少佐が怪しいって事か」
頷く立野大佐。
「しかし、何ででしょうか?」
「さぁ? 彼の背景までは知りませんし、興味がありません」
「千歳。そんな事気にしてもしょうがないぞ」
「そう言う事ですね。彼が情報を流した疑いがある。それだけですよ」
疑い、と言っているが確信している顔だ。
「で、これからの事は?」
「それは、依頼を引き続き受ける、と解釈しても」
「よろしいですよ」
微笑む店長。
「小林君は?」
二人は俺を見る。それに続いて雪原さんと森下君も。
「俺もやります」
今後の事を打ち合わせた結果。
「じゃ、小林君のお姉さんにも手伝って貰おうかな」
と、軽いノリで決定。
そして、家に向う。
「おっかえり〜」
首にバスタオル、大きなアイスを抱えてスプーンを銜えている。
我が姉ながら……
「お。お客さんか〜。ちょっと待って」
俺の後にいる森下君に気付いてキッチンに向う。
「あ、いえ。お構いなく」
「千歳。入って貰え」
「その前に服着ろよ」
「ま、気にすんな」
無理だろ。
「話があるんだ」
事情を掻い摘んで説明。
納得したかどうかは分からないが、とりあえず必要な物を持って家を出た。
「で、その本部で何するん?」
「他のトコの情報が入ってないか、確かめて」
「悠長な。そんな事してる間に向こうに主導権取られるで」
「何も根拠に」
「そうやろ? 向こうにはこっちのスパイがおって情報はそれなりに入ってる訳やろ」
「そうらしいけど」
「だったら、こっちの対策ぐらい考えて、それに相応しい対応するやろ」
「う……そうかな」
「ま、今は向こうに合わせるしかないんちゃう」
何処か……この状況を楽しんでいる風に見える。
「や、無事で何より」
本部に到着。店長の声に声を掛ける姉ちゃん。
「姉ちゃん。こちらが……」
大佐達に紹介する。そして、
「お。お嬢ちゃん。こんな時間やから早よ寝んと」
半笑いで頭を撫でている。絶対にワザとやってる。
その手を払いのけて、
「雪原です。よろしく」
「あ。怒った?」
「千早。それ私もやった」
「あ。そうなん? ゴメンな〜」
今更謝るのもどうかと……。
じろりと俺を睨む雪原さん。
俺は何も言って無いし、何もして無いんですけど。
「さて、これからの事だけど」
大佐が話す。
「現状は幾つかのベースが襲撃された」
「報復ですか」
誰も頷かないが、そうである事は理解している。
「あれ? 宗士も入ってるんやろ?」
「日高君達は無事に逃げたそうだ」
「やろな〜。あのアホが簡単に負ける訳無いし」
「アホが逃げに専念する位の相手がいるって事か」
「日高ってあの?」
「そう。日高宗士。フリージア、いや世界的に見ても彼に並ぶ代理屋はいないんじゃないか?」
「え? アイツってそれ程の奴なの?」
「知らん。長い事会って無いし」
「そんな奴が何であんな強盗みたいな真似を」
「強盗?」
白石からの依頼の事を掻い摘んで話す。
そして、俺達が出したそんな有名な宗士君が何でそんな依頼を受けたのかという理由。
「暇だったんじゃない?」
だった。
「さて、これからの事だけど」
「あ。店長のご家族の方は?」
「あぁ、ウチは大丈夫」
「そうやぞ、千歳。夏子の親やぞ?」
その……言い方は失礼なんじゃ。
「そのとーり!!」
本人が気にして無いから、まぁいいか。
「じゃ、早速ここを引き払いましょう。小野君、中村君、撤収準備の方は?」
「すでに」
「では」
見ればすでにパソコンは無い。
こうなる事を予測していたのか?
「で、これから何処へ?」
「次の本部へ」
「手回しの良い事で」
目を閉じ、ゆったりと凭れている。
「相手は地下組織やろ? 分かってるのは名前だけ? 規模とかは?」
「資金の大半は『フィーラタル財団』から流れています。戦闘員は五百から千人。活動範囲はフリージア、『ライタウス連邦』が中心です。今回フリージアでの目的は現段階では不明。フリージア軍にスパイもしくはそれに準じる人物がいる模様です」
「それが嶋沢栄太フリージア軍少佐?」
「それは私の予測です。根拠は無いですけど」
「でも確信はあるんですよね」
「まぁ、それは」
ワンボックスの一番奥で照れている大佐。
「で、こっちにもいるんでしょ? 地下組織の協力者」
「あ。そうだよね。でなきゃ幹部の情報は流れてこないよね」
言われて見れば。そうだよな。
「するどいですね。確かにいますよ」
この一言に俺達はもとより、騎士団の面々も驚く。運転している小野君もミラー越しに大佐を見る。
「信用出来るんですか?」
「大丈夫ですよ。今回の事でそれは実証できましたし」
「襲われる事も?」
「そう言われると何とも言えないですね。向こうの対応が思ったより速かったとしか言えないですよ」
「で、ソイツとは連絡取れるの?」
「取れますよ。といっても潜入しているのは向こうのスパイですし、連絡が取れるのはその上司と言う事になりますね」
「向こう……という事は、騎士団では無い?」
「ええ。騎士団ではありません。永遠の王と同じく地下組織です」
「信用出来るの? その永遠の王の事が終わったらそっちが動くんじゃない?」
「大丈夫ですよ。こっちと利害が一致してますから」
「利害? 騎士団と地下組織が?」
互いに敵対してるんじゃないのか?
「ええ。世界の安定と秩序。という点で」
「それで摘発はしないんですか?」
「しない。というより出来ないでしょうね。聞いた話じゃ規模は永遠の王より上。騎士団と同等と言う話です」
「だったらそいつ等に任せれば良いじゃない」
「ディリストラム氏暗殺未遂。これが無かったらそっちに任せたんとちゃう?」
「ま、否定はしません」
「メンツ、か」
「『上』はそう判断したんでしょう。それに『その組織』との同盟も理由の一つでしょうけど」
「じゃ、『その組織』も永遠の王を煙たかってたんですか?」
「おそらくは。自分達だけでどうにか出来たのでしょうけど、傷ついた状態だったらその他の組織につけ込まれますから」
「じゃ、その外の地下組織も参入する可能性も?」
「今の段階では何とも言えないですね。永遠の王の目的もはっきりと分かって無いですからね」
俺達を乗せたワンボックスが真夜中の国道を駆け抜ける。




