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椎名代理店  作者: 奇文屋
PR
15/21

騎士団

 いつも通りの朝。

「千歳。後はよろしく」

「はいはい」

 レストでの『バイト』が一週間続いている。

叶さんの怪我はすっかり治ったので意味は無いのだが、本人は止めようとしない。

まぁ、その内飽きるだろうと言うのが俺達全員の意見だ。

 その間に来た仕事は俺が全て行っている。

当然、店長に話をして許可を受けたものしかしてない。

 昨日解決した案件のレポートをパソコンに打ち込んでいると、ノックが聞こえた。

「どうぞ」

 ドアを開けると、一人の男が立っていた。


「『室川浩太』さん。でよろしいですか?」

「はい」

 目の前に座っている依頼人。

年は俺より上。細身だが華奢という印象は受けない。

「で、依頼と言うのは」

「実は……」


「何で『騎士団』が私達に依頼してくるの?」

「さぁ? そこまでは言わなかったですけど」

 レストから戻ってきた店長に依頼の事を伝える。

「それに警察のメンツもあるでしょ。後々警察に睨まれるのは嫌だし」

 それは俺も嫌。

「『盗賊団の摘発』 ……面白そうだけど」

「裏がありそうですね」

「千歳がそう言うのも珍しいね」

 茶化された雰囲気がするが、気にしないで置こう。

「ま、とりあえず依頼人に会って見よう。それから受けるかどうか判断しよう」


 依頼人が指定した場所は『エンイスン通り』にあるビルの一室。

「始めまして。椎名代理店の椎名と言います」

「始めまして。室川浩太です」

「早速ですが、依頼の事をお聞きしたいのですが」

 室川依頼人は騎士団所属の騎士。騎士団の任務『永遠の王』と呼ばれる地下組織の摘発チームの現場指揮官。といっても幾つかのチームがあるらしいので小隊長と言ったところか。

「なぜ、私達なんですか?」

 直球を投げる店長。

「ある方達からの推薦でして」

「ある方達とは? 騎士団やそれに近い所にいる人に面識はありませんが」

 疑っている店長の声。

それに対してどう答えたものかと、苦笑しつつも思案顔の依頼人。

「えっとですね」

「答えられないんですか? では」

 立ち上がる店長。

すなわち、受けないと言う事だ。

「ちょ、ちょっと待って下さい。分かりました」

 座ろうとしない店長。

見下ろされた依頼人は、ちょっと気圧されつつも、

「連絡を取ってみます」

 ケータイを取り出し、どこかに連絡。

「あの、代わってくれって」

 ケータイを店長に渡し、

「もしもし」

 警戒心まる出しの声。

「……アンタだったの」

 警戒心に敵対心が加わった様だ。

誰と話してるのかが気になる。

「もういいや。はい」

 店長が電話を返そうとする時に電話から大きな声が聞こえた。

「ちょちょちょちょちょちょ!!!」

 え……宗士君? 

「うるさい、バカ。はい、もう切っていいですか?」

 答えを待つ事無く切ってしまった。

「……あなた達を推薦した方は」

「分かりました。このバカは強いらしいから一人でも大丈夫ですよ」

 渡そうとした瞬間に、ケータイがなる。

「あの〜。日高君からですけど」

「あ。出ていいですよ」

「もしもし……はい、居ますけど……はい。あの代わってくれって」

「え? 俺ですか?」

「はい。千歳に代われって」

「さっさと切れよ」

「もしもし」

「千歳? この依頼受けてくれる様にあの女に言うてくれんか? あのアホはこっちの話を聞こうとせんし、話にならん」

 口に指を当てた店長から指でケータイを貸せと指示が来た。

その通りに、黙ってケータイを渡す。

「あのアホはこの前、俺に負けた事を根に持ってるんやろ? だから受けんのやろ。つまらん事をいつまでもネチネチと……ホンマに。なぁ? 千歳? あ、そや。千歳、そんなアホのトコ止めて俺と一緒に」

「悪かったわね〜。こんなアホで」

 何時も通りの声。しかし、込められた‘想い’の所為で恐怖を感じる。

宗士君の驚いた顔が目に浮かぶ。

「千歳は私を手伝うよね?」

 疑問系だが俺に選択氏は無い。

背中に流れる冷や汗を感じながら、頷く。


「じゃ、そう言う事で」

 宗士君の電話ですっかり気を悪くした店長。

「ちょちょちょちょちょちょっ!!」

 依頼人が店長とドアの前に立ちはだかる。

「もう一人。もう一人。居ますので、そちらに連絡を取りますので。もうちょっと待って下さい」

 ……。

「もうしばらく……あ、もしもし」

 ドアの前で立ち塞がる店長を気にしつつも電話している。

「あ。代わってくれって」

「……もしもし」

 不機嫌な店長。誰かは知らないが店長を知っているのならどんな心理なのか一発で分かるだろう。

「アンタだったの。……うん。……それなら知ってるでしょ? 私達は一般人なの」

 誰だ? 声も喋り方も若干和らいだ。

「……今、何処に居るの? 分かった、そっちに行って直接話そう。何か書くものは。千歳。メモ」

 ケータイを取り出し、メモの用意をする。

「良いですよ」

「『レーナール』地区の『ハーサディビル』の三階。分かった」

 ケータイを依頼人に返して、

「行くよ。千歳」

「はい」

 依頼人を残して、部屋を出る。


「……良いんですか? タクシーに乗って」

「大丈夫。領収書はちゃんと貰うから」

 いや、そうじゃなくて。ちゃんと落とせるんですか? ちゃんと依頼も受けてないのに。


 タクシーに乗る事、十分。

「あ。領収書下さい」

 領収書を切ってもらってタクシーを降りる。

降りた直後、

「あ」

 思わず気付いて声を上げた。

ビルの前に立っていたのは、いつかの騎士。

服装は前と違い普段着。以前の凛とした雰囲気とは違い……相応の雰囲気が……良い。

俺と同時に頭を下げる。

「早速で悪いけど、詳しい事聞きたいんだけど」

 店長に機先を制された騎士。挨拶しようとして止まる。

中途半端なお辞儀のまま、

「どうぞ、こちらへ」

 お辞儀をしそこねて顔が若干赤い顔で、凛とした雰囲気を纏いながらビルの中に入っていく。


「どうぞ」

 案内された部屋。

デスクトップが五台、ノートパソコンが三台ある。

「いいなー。一台欲しいなー」

 しげしげとパソコンを眺めている。

「依頼を受けてくだされば、報酬とは別に渡しますが」

 部屋の置くからの声。

「雪原君。彼女達か」

「はい。大佐」

 ……大佐? 見た目は四十ちょっとに見えるが。

「どうぞ」

「自己紹介ぐらいしたら?」

 手で勧められたソファに座らずに、自己紹介を手で促す。

「『立野瑛真』騎士団所属、階級は大佐。こちらは『雪原純子』」

「雪原です。同じく騎士団所属。階級は少尉です」

 雪原さんの自己紹介の後、ソファに座る。

同時に目の前にコーヒーが出される。

「で、何で私達が?」

「ショリス=ディリストラム中将暗殺未遂事件の時、あなた達の判断と行動に対する正当な評価。それが今回の我々の任務に必要と判断しました」

「しました。……て、私達の意見は?」

「それは今からお聞きします」

「む」

 揚げ足を取られた店長。

「じゃ、お断りします」

「では、詳しい事は雪原君」

 店長の上を行くマイペース?

「えっと」

 微笑み掛ける上司と、噛みつきそうに睨んでいるウチの店長に挟まれて、困っている雪原さん。

「えっと。……その」

 困り果てた彼女は俺に助けを求める。

が、俺も困る。

雪原さんの視線から送れる事、一秒弱。

穏やかな視線と、殺気が篭った視線が後に続いていた。

「小林君はどう思う?」

「え? どうって?」

「我々の任務に参加してご両親に立派にやっていると報告」

「あ。コイツ、両親いないんで」

 店長の言葉に場が静まる。

店長。それは俺が言うべき事じゃ? やりたく無いからってそんな……セールス断るみたいに言わなくても。

「すまない。小林君」

 頭を下げる立野大佐。

「あ、いえ。昔の事なんで」

「ふふーん。騎士団の情報収集力も大した事無いですねー」

 嬉しそうな店長。

「貴女の個人情報を調べても構わないのですか?」

 店長の子供じみた嫌味に真っ向から乗ってくる雪原さん。

「調べられるものなら。でも、千歳の事を全然調べられ無かったのは事実だし。たかが知れるよね」

「彼の事。と言うより貴女達、一般人の個人情報を調べる必要性は無いでしょ?」

 確かに。そんな事で税金が使われるのは騎士団の予算の無駄遣いだ。

「そんな事言ってー。ホントは調べる力が無いんでしょ?」

「なら、十分後に貴女の生い立ちから一時間前の事まで調べて見ましょうか?」

 声に怒りが混じってきた。

「調べられるものなら」

 店長は余裕だ。からかわれる事に慣れてないと判断して、面白い玩具を手にした子供の様な目だ。

「ま、君達のやり取りはその辺で。雪原君。資料を」

「はっ」

 口喧嘩を窘められて毅然とした返事で答える雪原さん。

「いい年して怒られて……恥ずかしくない?」

 貴女もね。


 ……概要はこうだ。

永遠の王と呼ばれる組織の幹部がこの街にやってくる。

理由は知らないが、とにかくやってくるらしい。その時ソイツを逮捕。

当然、一人でぶらぶらと歩いている訳は無い。護衛はいるだろうし、情報も幾つかダミーが流れているだろう。狙っているのは騎士団だけじゃなく、永遠の王と敵対している組織は幾つもあるだろう。

 今回はその全ての情報に乗り、ついでに影武者も逮捕してそこから永遠の王も弱体させよう。と言うかなり大雑把な作戦だ。

「で、一体何人の騎士が動くの?」

「それは機密です。現在部外者の貴女にそこまで教える必要はありません」

「何? その言い方? それが協力を頼む人に対する態度?」

「気になるのでしたら、参加して見ればどうですか?」

 この二人の対立を微笑んで見ている大佐。

だが、目は泳いでいる。

「それが人にモノを頼む態度?」

 ああ言われたら、こう言い返す。

「貴女こそ、そんな態度でよくやってこれましたね。そちらの方の努力に涙が出そうです」

 横目で威圧を受ける。

「え。そんな事は。……店長はこう見えても仕事はしっかりやる方なんで」

「ほら〜! 聞いた? 聞いた!? 聞いた!!」

「立場を利用してそう言わせたんじゃないんですか? そうですよね?」

「え」

 真っ直ぐに見る瞳。思わず見惚れてしまう。

「ほら。困ってるじゃないですか! これは職場の上下関係から発した威圧。つまり。パワハラじゃないんですか?」

「何言ってんの? アンタ? バカじゃないの? ねぇ? 千歳」

 もたれかかって来る店長。

腕に店長の重みと体温が伝わる。

思わず、ドキドキしてしまう。

「え。あ、はぁ」

「そういう態度が彼に威圧感を与えている事が分からないんですか?」

「別に千歳は嫌じゃないよねー」

 声は可愛いが、反論は出来ない空気が漂っている。

「高圧的で威圧的な上司を持って大変ですね」

 微笑む雪原さん。こちらも反論出来そうに無い。

「それに。彼ほどの力があれば独立する方が良いと思いますが?」

「戦闘も営業も千歳はまだまだまだ。独立は無理でしょ」

「そんな事は無いと思いますよ。少なくとも貴女よりは優れていると思いますが」

「はっはっは。確かに千歳は君より強いかもしれないけど」

 一息入れて、絶対の自信を持って、

「私より弱いの」

「そんな事は無いんじゃないですか? 彼が私より強いと言う事も無いですけど、貴女より弱いと言うのも信じられません。あ、そうか。一応上司だから手を」

「抜く訳無いでしょ。ねぇ?」

「まぁ、俺もマジで闘りましたよ。その時は」

「その時?」

 雪原さんが食い付いた。

「何か引っかかりますね。小林さん、彼女と最後に闘ったのは何時ですか?」

「二ヶ月ほど前かな」

「それから貴方は訓練とかしましたか?」

「はぁ。それなりに」

「なるほど。では今現在、力量差は分からない。と言う事ですね」

 そうなるの……か?

チラッと店長を見ると、

「んふふふ。何かな? 千歳君?」

 目が恐いですよ。店長。


 で、こうなりました。場所は屋上。

「さて。じゃ、闘ろうか」

「用意はいいですか? 小林さん。……では、僭越ながら審判を務めさせていただきます。……はじめっ!」

 いいも何も、俺の意見は完全スルーだったじゃないか。

「泣かしてやるよ」

 くるっとチャクラムを回して、そのまま投げて、同時に間合いを詰めてくる。

チャクラムを弾く。

その真後ろにいた店長は、俺が弾いたチャクラムをキャッチして、そのまま接近戦へと入る。

「っ」

 短槍を突き出し、相手のペースはさせない。

左突きから右払い。一歩踏み込んで斬り降ろしてから更に薙ぎ払う。

「前よりは速くなってる」

 完全に見切られている。

手を抜いている訳ではない。店長とはまだ力の差があった。

この二ヶ月。俺なりに鍛錬を積んで来た。少しは差が埋まったと思ってた。

しかし……現実は……。

 今は俺が攻めているが、店長は俺の攻撃を完全に見切っている。

突き。払い。薙ぎ。その全てが空を斬る。

 何で……?

焦る心。

それを押さえつけるのにも限界がある。

「乱れたな。千歳」

 甘く入った突きを踏み込んで避けられて、俺の左足に店長の右足が乗る。

顎に鈍い衝撃の後……

 ……空を見た瞬間、意識が途切れた。


「大丈夫ですか?」

 気がつくと、真上には見知らぬ顔が心配そうに俺を見ていた。

「え。あ……っと」

 状況が理解出来ない。

……あっ!

 そうだ。確か店長と闘う事になって……それで、負けて……それから。

「おい。気がついたのならさっさと起きろ」

 心配そうに見ている顔の向こうから店長の不機嫌そうな顔が俺を見下ろしていた。

「……あ!」

「いいですね〜。膝枕」

 羨ましそうに立野大佐が見ていた。

「さて、これで私の実力が分かったかな? お嬢ちゃん」

 見下ろす店長と、

「……彼よりは強い。と、言う事は」

 見上げる雪原さん。

 雪原さんの膝枕から飛び起きてみれば、一触即発の空気は変わっていない。

「ははは。どうしましょう?」

 立野大佐の乾いた声が響く。


「さて、次はアンタ?」

 俺と立野大佐は顔を見合わせる。

店長は雪原さんにチャクラムを突きつける。

「ちょっと……椎名さん?」

「どう?」

 答えない雪原さん。

「あの〜。椎名さん? 僕達騎士は魅せる為の鍛錬はしてないんで」

「大丈夫ですよ。大佐。すぐに終わりますから」

 雪原さんのスイッチが入った!

「剣を……取って来ます」


「彼女の意外な一面が見れました」

 この雰囲気を楽しんでいる様にしか見えない大佐。

ある意味、羨ましい。

「大丈夫なんですか?」

「うーん。それは大丈夫でしょう。お互い、相手に怪我させる様な事は無いでしょう。椎名さんも技量はあるし、雪原君も技量では騎士団の上位に位置してますから」

 ふーむ。こう言っては失礼だが、雪原さんの見た目からは想像がつかない。

「お待たせしました」

 いつか見た剣。小柄な彼女には大きいと思われる。当然それを見逃す店長じゃない。

「大きい剣だね〜」

 声が笑ってる。と言うよりバカにしてる。

その声に、ピクッと反応しながらもストレッチをしている雪原さん。

「さて、始めましょうか」

 スゥ……。

剣を構える眼差しを受けた店長も真剣な目でそれに答える。


 目の前で繰り広げれる光景。

響く剣戟。地を蹴る音と空を斬る音。目まぐるしく入れ替わる攻守。

「やりますね。彼女は」

 大佐の声に何も答えられない。

騎士と互角に闘える。

それでも店長にはまだ余裕がある様に見える。

 踏み込んで一回転。遠心力を利用した一撃。

遠心力を乗せる事で一撃の威力を上げる。

今までで一番の速度。俺の目では追い切れなかった。

 しかし、店長はそれを捌いて間合いに入る。

「はい。これでどう?」

「何がですか?」

 すぐさま切り返し、

ギリギリと音を立てて睨み合う二人。

体格は店長に分がある。

しかし、押しているのは雪原さん。

店長がチャクラムと剣の設置点を点をずらして、左裏拳から右腕を振り上げる。

 雪原さんの注意が右腕にいく。剣で右手からの攻撃に備える。

 しかし、店長は無防備な左足を蹴り抜いた。

崩れる左足。追い打ちを掛ける店長。

振り下ろす拳。剣でそれを受ける雪原さん。

しかし、力が入っていない。難なく弾かれる剣。

 決まった。そう思った瞬間、剣を放して、

雪原さんの体が宙を舞う。

店長の右腕に絡みつく。

 右腕を引いて雪原さんの攻撃を避け左手で攻撃するが当たらない。

空中で体を捻り、店長の攻撃を避け正面から着地。その瞬間肘を曲げてショックを和らげ、剣を取りすぐに立ち上がる。

 一歩、二歩。後にステップを踏んで間合いを取る店長。

「ふむ……このままだとどっちかが怪我するかもしれないね」

 確かに。徐々にお互いの攻撃に殺気が篭ってきている様に思える。

「もう少し見ていたいが……今後の事を考えて。はい! 二人共! そこまでっ!」

 立野大佐が二人の間に入る。

「大佐」

 剣を引く雪原さん。

「何?」

「これまで。そう言っただろ。お互いの力はよく分かっただろ」

「いや。どっちが強いのか、って事はこれからでしょ」

 不敵に笑う店長。

「まぁまぁ」

 店長を宥める立野大佐。

「貴女の力はよく分かりました。おそらく貴女の方が強いでしょう」

 そう聞いて一気に機嫌が良くなる店長。

「では、話の続きを」

 二人が中に入っていく。

それを雪原さんと二人眺めている。

風が吹く屋上。ぽつん、と閉まるドアを見ている。

「あの」

 気まずい空気。とりあえず声を掛ける。

「何ですか」

 微笑んでいるその顔に悔しさや敗北感は感じられない。

「行きましょうか?」

 歩き出す雪原さん。

「あ。はい」

 その後に続いていく。


「じゃ、これで」

 大佐に挨拶して部屋を出る。

「う〜ん。久しぶりに体動かした〜」

 ビルを出て、体を伸ばす店長。

「どうした? 人の顔を見て」

「あ。いや」

 とにかく色んな思いが重なって口ごもる。

「ま、たまにはこんな依頼があってもいいんじゃない」

 そう……この依頼を受けた事も気になる。

あれだけ嫌がっていたのに、何故急に考えを変えたのか?

「それだけですか?」

 俺の問いに意味ありげな微笑みで返す。

「あのチビとはまた闘りたい」

 今まで闘う事に拘らなかった店長。

それが今、あの騎士ともう一度闘いと言っている。

「どうしたんですか?」

「チビの癖に生意気にも手加減してた。それがムカつく」

「それが理由で受けたんですか?」

「こんな依頼なら戦闘は間違いなく起こる。そうなれば私はもっと強くなれるかも知れない」

 真剣な目。その目が本気でそう思っている事の証。

「だから、たまにはいいでしょ?」

 

「じゃ、最初の相手は」

「そ。コイツ」

 店長は左、俺は右に避ける。

その間に後から襲ってきた男。

勢い余って前につんのめる。

 手にはナイフ。

それを見た、俺達以外の人。つまりは無関係な通行人の悲鳴。

それが連鎖していく。

「行くよ。千歳」

「了解」

 立ち上がろうとする男。その手を蹴り飛ばす店長。

「グッ」

 小さく呻いて顔を見上げる。が、その後は、

「ガハッ!」

 俺が男の腹部を蹴り上げる。

腕を固めて、背中に座りこむ。

「さて。これから……」

 どうしようか。そう言おうとしているのは分かった。と言うのも、

「警察だっ!! 動くなっ!!」

 善良な誰かさんが警察に通報してくれた。

「あ。待てっ!!」

 ここで捕まる訳には行かない。

それにこの男の事は大体分かる。とりあえず今は逃げるのが先決。

店長と離れて別々に逃げる。

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