私にお任せ
いつもの日課、レストでのお茶の時間。
「しのぶっ! その手は!?」
「ちょっと……怪我しちゃって」
下をだして笑う叶さん。
左腕の包帯が痛々しいが笑顔はいつも通りだ。
「しのぶー。七番テーブル拭いてきてー」
「あ。はい」
衣里の声に答える叶さん。
「怪我人に普通に仕事させてるよ。鬼だな、衣里は」
「何か言いましたー?」
店長の小声に反応する地獄耳。
「何でも無いよ」
テーブルにお冷の水滴で、『凄いな、衣里は』と書いた店長。
頷く俺。
その様子に何かを感じ取った衣里が近寄ってくる。
「何?」
お絞りで書いた言葉を消して、
「何かしてませんでした? 今」
笑顔の衣里。
「何もして無いよ。なぁ」
してました。と答えるバカはいないだろう。
「ホントに?」
疑いの目だが顔は笑ってる。
恐くなってきた。
「しかし、休んだら良いのに」
「そうも言ってられないじゃないですか?」
「怪我してるのに」
そう言って何か考え込む店長。
そんな店長を見て、目を合わせる俺達。
しばらくして、だん、と立ち上がり、
「よし。私がしのぶに変わりに今日一日働こう!!」
突拍子も無い事を言い出した。
「いらっしゃいませー」
……
「お一人様ですか? ではこちらのお席にどうぞ〜」
……
言い出したら聞かない店長の言葉通りに話が進んでいった。
「……そこそこ出来てるけど」
衣里がそう呟く。
「まぁ、大丈夫だろう」
レストの店長はそう言うが、そう思うのは早計だ、と皆感じてる。
「オーダー入りまーす」
ゴキゲンなウチの店長。
「千歳。帰って店番してろ」
「はい」
このまま店長を置いて帰っても良いのか、悩む。
店長以外、つまりレストの面々は「連れて帰ってくれ」と目で俺に訴えるが、俺にそんな力がある訳が無い。
「じゃ、後は」
「お。任せとけ」
どん、と胸を叩くウチの店長。
反対に小さいため息が聞こえた。
「さて、と。お客は来ないの?」
「昼過ぎたからな」
確かランチタイムの忙しさは凄かった。初心者の私には荷がほんの少しだけ重かった。そこは機転を効かして乗り切ったのは私だからか。
「千早も暇なら手伝えよ」
ランチタイム過ぎに顔を出した千早。
窓際に座り、のんびりと遅めの昼を取っている千早に声を掛ける。
「え、無理。忙しいし」
「そんなにのんびりしていて?」
「掃除とか洗濯もあるし、買い物のせんと」
「あ〜。そうか」
なら、無理か。
「それなら、明日は早く来て一緒にやろうよ」
「え、だから、する事あるし」
「明日はウチ休みだから。千歳も呼んで」
「え? 姉弟で?」
笑う千早。
「おい。勝手にバイトを増やすな」
「そうやぞ」
む〜。
「夏子。上がっていいぞ」
「え? もう?」
時計を見ると、午後七時。
いつの間にか外も暗くなっていた。
「いつの間に」
「時間はお前の意思関係無く進んで行くぞ」
とは言っても、何か実感がわかないと言うか。
「ま、いいや。どうする? 明日も来る?」
「しのぶの怪我次第だな」
「じゃ、来るわ。しのぶは八時からでしょ」
「そうですけど」
「じゃ、また明日。お疲れー」
「お疲れー」
衣里の声に手を振って奥に行く。
ふぅ。慣れない仕事は疲れるけど、面白いな。
やる事、覚える事があると仕事は面白い。そう感じるのは私だけかな。
まぁ、どおうでもいいか。
とりあえず、お腹も空いたし。
「じゃ、とりあえず、いつもの」
そう言っていつもの席に座る。




