表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
椎名代理店  作者: 奇文屋
PR
12/21

任務

 衣里さんが夏子さんの介抱に行ってから、

「いらっしゃいませー」

 お客が来店。

「やぁ。元気そうで何よりだ」

「何かありました?」

 席に案内して、注文を取りながら話し掛ける。

「結構似合ってるね」

「そうですか?」

 自分の格好を見る。

自分ではよく分からないが、この人がそう言うならそうなんだろう。

メニューを見ながら、

「どうしたんですか? 『りっつん』が来るなんて」

 りっつん。私が所属する『キューゼ』の幹部。とりあえずは私の直属の上司。

とぼけた呼び名だが戦闘能力はキューゼ一と言われている。

本名は知らない。最初に会った時からりっつんと呼んでいる。と言うかそう呼べと命令された。

「任務が入った。詳しい事は仕事が終わったら連絡してくれ。ミックスジュース」

「了解」

 相変わらず突然雰囲気が変わる。

「スマイルを忘れてる」

 にこやかな笑顔のりっつん。

 ……

「少々お待ち下さい」

 自分なりににっこり笑う。

 

「じゃ、お先でーす」

 いつも通りに振舞う。

「お疲れー」

 夏子さんの介抱から帰ってきた衣里さんに挨拶して店を出る。

店を出たらキューゼの一員に戻る。

メールでりっつんに連絡を取り、公園で待ち合わせ。


「早速だけど、ターゲットは」

 一枚の写真。

「前回の失敗を取り戻すチャンスだ」

「失敗って……あれはりっつんも彼女達の事を利用したじゃないですか」

 初めて千歳君に会った夜の事。

森の中で彼女達を見て、その行動を利用して任務を失敗させた。

 後からりっつんにその事を問いただすと、詳しい事は言わなかったが何か裏があったらしい。『上』で何があるのかは私は知らないし、知る事も無いだろう。

私は私の任務をこなすだけ。

「で、彼の情報は?」

「名前は『イフォード=ジョイルバディ』職業は『ライタウス連邦』系企業『トレイズ』の専務」

 トレイズは私達と敵対している組織『永遠の王』に協力している。

「彼の暗殺が今回の任務だ」

「了解」

 感情の無い言葉。

どんなに言われても慣れない感じに心がざわつく。

「私一人ですか?」

「いや、あの代理屋にも動いて貰おうかな」

「あ。無理です。二人とも二日酔いだそうです」

「あ……そう」

「アテにしてたんですか」

「ディリストラム卿の時の彼女達は僕の予想を遥に越える働きをしてくれたし」

「まぁ……そうですけど」

 あの時はりっつんも相手の狙撃手を狙っていたと後で聞かされた。

「だから、上に言って彼等の報酬も取ってきたのに」

 ポケットから札束がドン。と出てきた。

「あまりこっちに関わらせるのも」

「向こうの目をそっちに向ける事ができれば後は僕達でやれる」

 僕達?

「え? 他にも任務に入るんですか?」

「僕」

「あ、……そうですか」

「だから、彼女達に動いて欲しかったんだけど。まぁ、無理ならしょうがないな」

「相手の人数は?」

「昨日『永遠の王』の会合があったらしい。現在はその帰り道の途中だろう。そこを襲う。護衛が何人かいるだろうが、そうだな多くて……五人かな」

「それなら二人でどうにかなりますね」

「余裕はいいが、油断はするなよ」

「了解」


 人気の無い深夜の国道。

綺麗に並んだ街灯。人工の灯りが幻想的だ。

「そろそろかな」

 運転席のりっつんが時間を確認する。

直後に一台の車が通りかかる。それを見届けてから、

「じゃ、覚悟はいい?」

 私の答えを待つ間の無く、車を発進させる。


 黒塗りの車を追い越し、前を塞ぐ。

私は助手席から飛び出して、シールドを射出して相手の車のフロントガラスを割る。

ひび割れるガラス。

どっちが先……

左!

巻き戻ったシールドを再び射出。

ドアのガラスごと相手を吹っ飛ばす。

シールドを巻き戻す間に、運転席、後部座席から男が降りてくる。

街灯が照らす男達の手には銃と、

「来てくれて良かったよ。退屈してたんだ。何か起こらないかって考えてたんだ」

 剣士がいた。

「そう考えてた事を後悔させてあげるよ」

 光りが駆け抜ける。

「ターゲットを」

 いつも通りのりっつんの声。

「了解」

 りっつんの援護を受けて、剣士をやり過ごす。

「あ」

「君の相手は僕だ」

 開いたドアのガラスに映ったのは、剣士に銃を突きつけているりっつんの姿。


 これで二人。

逃げたターゲットを追いかける。残る護衛は後一人。

「何処へ」

 小さな物音に反応する。

左手を振り上げる。

弾かれる左手。

「っっっ」

 感覚がぼやけて力が入らない。痺れた左手では攻撃出来ない。

「どこの組織の」

「答えると思う?」

 感覚が戻るのを待ってる時間は無い。

「そうだな。興味が無い」

 大振りな攻撃。

街灯から外れた路地裏。相手のレーザーだけが光っている。

その感情から……剣……かな。

 まぁ、何でもいいか。これだけ大振りなら少し感覚が戻れば問題無い。

ここにいるのは私とこの男。

ターゲットは何処に行った? 仲間を呼ばれると面倒になるな。

もし呼ばれたのなら、合流する前に完了させないと。

 よし。ちょっと感覚が戻った。

「ちょろちょろと!」

 苛立った男の攻撃を避け、左手のレーザーを起動する。


 ターゲットは何処まで逃げたのか。

足音に気をつけて後を追う。

応援を呼ばれてたら厄介だな。

路地を抜けて、『ルヒ川』に出る。そこでターゲット発見。

「私を殺せばどうなるか……分かるだろう?」

 震える声で虚勢を張る。

立場のある者ほどそこにしがみつく。

敵対している者には無意味と理解しているのか?

……まぁ、そんな事はどうでもいい。

「任務の為」

 狙いを定める。怯える男の顔が闇に浮かぶ。

「……恨まないで」

 到底無理な私の願い。

目を閉じ、開く。同時にシールドを射出。


「誰?」

「任務の邪魔をするのがアンタの仲間に居るのか?」

 弾かれたシールド。

巻き戻して、弾いた相手に備える。

 ゆっくりと歩いて、シールドを弾いたモノを引き抜いて、

「さて、相手が女なら本気を出すわけにはイカンな」

 構える。

長い柄の先に片刃に突起。尖端にも槍の穂先がある。

ハルバート。今、レーザーが起動しているのは片刃だけ。

状況に応じて使い分けるのか。

 現状の分析はこれぐらいにして置こう。

「そう」

 余裕を見せているのなら、その内にやらせて貰う。

狙いはターゲット。ただ一人。

幸い、応援に来たのも一人。任務を優先する。

その後は直ちにこの場から離脱する。


 距離を取り、シールドでの牽制。

体勢は崩れないか。

それなら、一足飛びで間合いを詰める。

風を切り振り払われるハルバート。

 まともに受ける事は無い。

軌道を読み、ギリギリで避ける。

 目の前を穂先が通り抜ける。

同時に距離を詰めるが、相手も同じ様に下がる。

長柄を振り回しているのに、バランスが崩れないのか?

「いい目をしてる。ちょっとナメてたかな」

「何をっ!」

 止まらず前に出る。

「こういう使い方もあるんだぜ」

 突き出されるハルバートの穂先のレーザーが切れる。

バッテリー切れ? どうでもいいか。今は攻めるのみ。

「え」

 後からの衝撃。足が前に引っ張られる。


「くぅっ」

 私の予定が崩された。

「どうした?」

 片刃に足を引っ掛けられそうになり、強引に体勢を変えたのでバランスを崩して尻餅をついた格好の私。

見上げると余裕の表情の男。その後に隠れているターゲットが元気に叫ぶ。

「捕まえろ! 捕らえてどこの組織か喋らせろ!」

「……了解」

 下品な笑い声を含んだ声に鳥肌が立つ。

ちょっとでも想像しちゃった自分が嫌になる。

「来い」

 呆れた表情の男が私を誘う。

どうやら男の戦意も無くなった様だ。

「ふー」

 立ち上がって目を閉じ、息を吐いて目の前の男に意識を集中させる。

……

少し間を開けて……よし!

 ダン!

地を蹴り、間合いを詰める。片刃から穂先にレーザーが切り替わる。

突き出される穂先を見極め……避ける。

柄の動きに注意しつつ、右手を突き上げる。

 この距離なら打撃だけ。

右手を払うハルバート。

 タイミングを計って、腕を絡める。それでハルバートを封じる。

「!」

 驚く男の表情。

至近距離なら私の方が有利だろう。

レーザーを起動したシールドでの攻撃。

「ゴメン」

「気にするな。ここで死ぬ気は無い」

 レーザーが頬を斬る。

「高くつくぞ?」

 お腹に衝撃。

「くふ……っ」

「手は離さないのか? 流石って言うべきか?」

 力が入らない手を離される。

「捕まえろ!」

「捕まえても無意味ですよ」

「それは私が決める事だ」

 力が入らない。起き上がれない。

このままじゃ。……こんな下品な男に捕まる位なら。

 左手のレーザーを起動して、

「止めとけ。これ以上は無理だ」

 狙いはアンタじゃない。

左手を私の首に向ける。


 首に当たる直前、左腕に熱い痛み。

「僕が居る事を忘れてませんか?」

 りっつんが後から飛び出して、私の左腕を撃ち抜く。

「仲間割れ? 違うなっ!」

「状況分析している暇。あるんですか?」

「無いな!」

 私と闘っていた時とはまったく違う威圧感。

振り上げるハルバートのスピードが段違いだ。

「でしょう?」

 余裕のりっつん。

銃を構え、飛び出した勢いのまま突っ込んで行く。

ハルバートの射程ギリギリの位置にりっつんが入る。

 その瞬間だけ、りっつんの足が止まる。そして、

振り下ろされたハルバートの柄の上を走っていく。

「なっ!」

 驚く男。

「邪魔」

 一言。男を蹴飛ばし、着地。

銃口はターゲットの額に向けられている。

「任務完了」

 冷たい宣告。

躊躇い無く指先が動いた。


 待ち合わせた公園のベンチに座り、

「大丈夫?」

「自分で撃ったんじゃ無いですか?」

「ま、それは言わないって事で」

 私の腕に包帯を巻き終わる。

「じゃ、お大事に」

 ぽん、と腕を叩いて帰っていくりっつん。

一人残される。

 今回の任務で、私の力がどの程度なのか情けない考えと共に痛感した。

あの男にもりっつんにも及ばない自分。

「はぁ」

 がっくりと頭を落として、ため息を一つ。

 ……泣くな。ばか。

ぎゅっと目を閉じて、

もっと強くならないと。

左腕の傷を教訓に明日から頑張ろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ