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椎名代理店  作者: 奇文屋
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10/21

探求者

「ふー」

 俺以外にもジョギングや体操をしている人が居る朝の公園。

日課になった朝の稽古の休憩にベンチに座りながらそれらを見ている。

「よ。青年。頑張ってるな」

「あ、おはようございます」

 最近知り合った『柴田浩一郎』 

毎朝ジョギングしているランナーだ。この間ジョギングなのに競争しようと誘われた。

「槍二本なんて珍し〜」

「毎朝言ってますね。それ」

「ま、気にするな。青年」

「同じ年でしょ」

「ま、気にするな」

 朝の公園い響く高らかな笑い声。


「よ」

「おはようございます」

 店に来ると、いつも通り漫画を読んでいた店長。

「千早は?」

「何かやる事あるって言ってました」

「ふーん」

「寂しいだろうけど我慢しろって」

「この口か!? そんな事言うのは!?」

 頬を抓られる。

「……い、痛いですよ」

 ぎゅ〜。と抓られて引っ張られる。

痛みが残る頬を擦りながら、

「俺が言ったんじゃないですよ。そう言ってくれって」

「分かってる」

 なら……やめて下さいよ。痛いんだから。


「お」

 レストでのお茶の後、散歩がてら公園まで店長の思いつきで歩かされた。

前から来るのは柴田君。

「誰?」

 横でコンビニで買ったアイスを舐めている店長が柴田君に顎で聞いてくる。

「柴田君。最近知り合ったんですよ」

「ふーん」

「小林君、そっちは」

 店長を見る。

「上司」

 見上げる店長。柴田君は俺より背が高い。

「へ〜。いいな〜。こんな可愛い人と一緒に働けるなんて」

「でしょ?」

 可愛いと言われても表情を変えない店長。

「何してるの? バイトは?」

「買出し。そこのコンビニまで」

「ま、頑張って」

「そっちもな。じゃ」

 柴田君が俺達が来た方に歩いて行く。


 公園のベンチに座ってぼんやりと時間を潰す。

「誰? さっきの」

「あぁ、柴田君ですか。毎朝会うんですよ」

「何で?」

 そこまで言ってしまったが、

「何で?」

「えっと」

 言うのは何か恥ずかしい様な。

「……ま、言いたくないならいいけど」

 アイスの棒を銜えながら鳩を見ている。

……沈黙。

「……稽古。してるんですよ。毎朝」

 沈黙に耐えかねて言ってしまう。

「ふーん」

 笑われると思ったが、店長はこっちを見る事無かった。

「で、その時に知り合ったんですよ」

 ……沈黙。

「何で?」

「それは」

 店長と姉ちゃんの本気を見たから。

「ま、良い心掛けかも」

 それだけ言って、

「さて、帰るか」

 立ち上がるって歩いて行く。


「お」

「あ。どうも」

「「誰?」」

 前方歩いてきたのは、

店長と同じタイミングで同じ事を聞く。

「こっちは大家さんです。で、こっちは上司です」

「よろしく。椎名代理店店長の椎名夏子です」

「『泉荘』管理人の『泉さゆり』です」

 軽くお辞儀する二人。

「じゃ、帰ろうか」

「あ。もしかして今暇?」

「まぁ、簡単に言うと」

「じゃ、ちょっと頼まれてくれない?」

 突然の依頼に店長と顔を見合わせる。


「マジですか」

 大家さんから頼まれたのは『大家宅の掃除』

目の前に立っている大きな門。

大きな表札には、これまた大きく『泉』と鮮やかに力強く書かれている、というより描かれている。

表現がおかしいような気がするが、そう言うのが正しい。

「ま、入って」

 当然だが、当たり前の様に入っていく大家。

気後れしている俺達が後に続く。


「何処? ここは?」

 明らかに別世界。

立派な庭。真っ直ぐに敷いてある石畳。横には綺麗に手入れされた芝生。

店長が芝生に入るかと思って心配していたが、気後れしてる為に素直に大家さんの後を歩いている。

「千歳。千歳」

 小声で話す店長。グイッと耳を引っ張られる。

「痛たた……何ですか?」

 下らない悪巧みか? それは止めて欲しい。

下手をすれば俺達姉弟が追い出される危険すらあるんだから。 

「ホントに大家?」

「そうですよ。間違いなく」

 顎に手を当てて何かを考えている。

「大家って儲かるの?」

「……さぁ? 大家になった事無いので分かりません」

「聞いてよ」

「嫌ですよ」

「ん、何? どうかした」

 後でコソコソと喋っている俺達の声が大家さんの耳に入った。

「いえ、別に」

 振り返った大家さん。誤魔化して歩いて行く。

「ささ。入って」

 無駄話をしている間に玄関に到着。

「千歳。門から歩いて五分位掛かった」

 いつの間にか時間を計っていた店長。

小声で結果を報告してくる。

多分、店長は微妙にテンションが上がっている。


 豪華な玄関、上を見ると二階が見える。

「吹き抜けだ!」

 上を見て声を出す店長。

「声に出さないで下さいよ。店長」

 恥ずかしい。

「あっはっは。ま、上がって」

 スリッパを出して、入っていく大家さん。


「ここの片付けやって欲しいんだけど」

 日当たりの良い部屋。部屋の両側に大きな本棚。ぶ厚い本がぎっしりと詰っている。

窓際を背にしたゴツイ机。その上には隙間なく何かの資料らしきものと本が乗っている。

多分、絨毯が敷いてあると思うが、その上にも本棚に入りきらなかった本が平積みされている。

「うわ〜。……はは」

 笑うしかない。

「積んである本は二階の書斎に運んどいて」

「じゃ、本棚の本はアルファベット順に並べますか?」

「あ、やってくれる?」

 店長の言葉に嬉しそうに微笑む大家さん。

しまった……と、顔をしかめる店長。

「ま、今日中でいいから。よろしく」

 今日中って……まだ十三時間程あるんですけど。

「ちゃんと報酬は払うし、夕飯も付けよう」


「しっかし。よくこれだけ集めたもんだな」

 手に取った本をパラパラと開く。

「店長もこれ位あるんじゃないですか?」

「流石にこの数は」

 クルッと見渡して、

「……本棚に入ってる数ならイケるかも」

 ぶ厚い本から薄い本まで。内容はよく分からないが何か凄そうと言う印象の本達。


「へ〜。神様って結構いるんだ〜」

「仕事してくださいよ」

「千歳、知ってる? ってヴィンラークって神様の武器も槍なんだって」

「聞いてます?」

 壁にもたれかかって読みふけっている店長。

書斎の整理もなんのその。相変わらずのマイペース。

整理いていて気付いたのは神話関係の書籍が多い。

「大家は何してる人なの?」

「……大家じゃないんですか?」

「……間違いないな」

 静かに片付ける俺と、しっかりと読んでいる店長。


「よ? 進んでる」

 大家さんが入ってくる。

「どう、面白い?」

「凄いね。ロティってヤツは」

 読みながら入ってきた依頼人、大家さんを見る事もなく答える。

「あぁ、ロティは最後ルバヴォルに裏切られて」

「え!? マジで!? 仲間でしょ!?」

「その辺は……確か」

 本棚を指差しながら一冊ずつ確認して、

「こっちの方が詳しく載ってるよ」

 一冊のぶ厚い本を店長に渡す。

「ま、神様だって色んなヤツがいるし、その数だけ考えがあるし野望もある」

 羨望の眼差しの店長。

「人間みたい。神様って」

 手渡された本を読み始める店長。

そんな店長を見ながら、

「そうなの! 神様って偉大で神秘的で畏敬の念を持たれてるだけじゃなくて、失敗したりそれを誤魔化したり、でもそれがバレたりしてまたそれを誤魔化すために知恵を出したりとか」

「神様が身近に思えるね」

 大家さんの講義が始まった。


 とっぷりと日が暮れて、

「へー。ルルティンは結構気が合うかも」

 門前の小僧な俺。

ルルティンは「光と闇に存在するもの」が産み出した精霊の事。

その大雑把な行動で回りは迷惑を被っている。

「あははは。そうかもね〜。夏子は細かい事気にしなさそう」

「そんな事無いよ。な? 千歳」

 ……

「黙秘? それは私の言葉を肯定したって事で」

「ち〜と〜せ〜」

 ゆらりと立ち上がり、

グイ!

「痛たたたたたた。店長! 髪を引っ張るのは」

 本気だ! この人は!

「私って繊細だよね?」

「はい!」

「私ってデリケートだよね?」

 意味は同じじゃ。

しかし、この状況じゃ俺の出来る事は、

「そうです! はい!」

 ひたすらに店長の言葉に頷く事だけだ。


 作業開始から七時間。

何度、階段を往復しただろうか……?

何度、ドアを開けただろうか……?

「お疲れ様」

 と、依頼者の言葉で業務終了。

「じゃ、ご飯食べようか」

 疲れた体を伸ばし腰を叩いて、大家さんの跡について行く。

「疲れた」

 眉間を押さえている店長。

ちっとも手伝ってくれなかった店長。


「じゃ、今日はご苦労様でしたー」

 大家さんの部屋で乾杯。

テーブルに並んだ食事。と言うか出前。

それらを摘みながら話している。内容は神話の事。

「神話って結構面白いねー」

 店長が大家さんの心に火をつけた。

「その時代に生きていた人達は、何か自分達に理解出来ない事は全部神様と言う不確かな存在が起した現象だと認識する事で納得して来たの」

 あれ? いつの間に酒瓶が……?

「神々や人類はある時は敵対し、ある時は手を組んで共通の相手と闘う」

 クイッと飲み物を飲み干して、ダン、とテーブルに音を立てて置く。

「その風、海、土、火と光りと闇。それに地下の勢力がそれぞれの思いを胸に秘め世界を導いていた時代。その世界に思いを馳せると……心がトキメクでしょ? ねぇ!?」

 ……

「千歳……何か嫌な予感がするんだけど」

「俺もです」

 小声での会話。

「さぁ! 今日は神話時代に神々の生きた時代に思いを馳せて語り明かそう!」

 大家の一方的な講義が始まった。

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