第3話 変人
魔王と悪魔執事は、龍の国の国境の壁が見える人気のない場所に転移した。
陽は殆ど下り、薄い雲のかかった夜空に満月が輝き始めていた。そして、その場所は荒野故に、少々肌寒い風が通り抜けていた。
ドラゴンの国ーーー
確かに、見える国の高い上空に、数体のドラゴンが飛んでいた。
魔王「ねぇ、執事?あそこに見える国が、そうなのよね?」
思ったより大きな国ね…。近くに転移って…、言っていなかったかしら?まぁ、元の世界からよりは、かなり近づいたけど…、これ、何kmあるのかしら?
執事「はい、その通りで御座います。魔王様、もし宜しければ、そのだだ漏れた魔力を閉まって下さいませんか?多くの魔物や魔力を感じる者がいたら、その魔力にビビって接触する事もままなりませんし、何より、グレン様が赤子だった場合、"その魔力で即死は免れないと思います"ので…。」
下々の事はどうでも良いが、何より、魔王様がこれ程御気にかけられている御方かもしれない者を、粗末に扱う理由にはいきませんしね。
魔王「!…そ、そうね。」
シュゥーーー……
魔王は目を閉じて魔力をしまうようにして、体内に鍵をかけた。
魔王「これで、私の魔力がグレンを殺す事はないわね…。」
もう一度グレンが死ぬとか嫌よ!
魔王がチラッと執事の方を見ると、何やらニヤニヤしていた。
魔王「なによ?」
ちょっと気持ち悪いんだけど?
執事「いえ…、"魔王様が魔力をゼロにされて御散歩をされる"という…最早、前代未聞で御座います。フフ…これでは、人間や力の無い獣人と同じですね。"油断、なさらないで下さいね"?まぁ、私としては"至高の眼福"で御座いますが…。魔界の他の者には、この特等席は譲れませんね。」
魔王「!…」
魔王はプイッとそっぽを向いた。
魔王「"変人執事"…。」
相変わらずね…。
執事「"はい"。魔王様が言われるそれはもう、私は"最高の褒め言葉"として受け取らせて頂いておりますので。変人で結構で御座います。」
執事は悪魔の歯を見せて大きくニヤケながら、堂々と胸を張って言い張った。
魔王「はいはい…。貴方のそれは、"私でも止められないのよね"…。」
もう諦めていたけど、ここ数日はこの変人っぷりが落ち着いていたから、良かったのにね…。これでも、私に気を使ってくれていたのね…。相当…貴方は嬉しかったのね…。
執事「ええ。"正式な御命令"でなければ、止めるつもりはありませんよ。……ちなみに、私はグレン様を探す為の水晶起動の為、極僅かに魔力の出力はあります。ですので、我々の見た目としては恐らく"良い獲物"になると思いますので、この道のりは退屈ではないかと。」
夜は活発になる魔物もいますよね…。
魔王「!…はぁ、"絶対の口実ね"…。まぁ良いわ…。行きましょう。何か、さっきより気配が増えたような気がするしね…。」
餌として色々呼び寄せて、眼福に浸りたいのね…。にしても……数だけなら、かなり多いんじゃない?
荒野岩盤や森から、異様な気配が漂っていた。
執事「ええ、気のせいでは御座いません。おそらく、先程のだだ漏れ魔力で魔物達を刺激したのでしょう。流石は魔王様に御座います。ちなみに、魔界での魔物達同様、"今ので雑魚共が上がっております"ので、御注意下さいませ。」
今の一瞬のだだ漏れ…、あれで"あの国まて"届いているかもしれませんね…。
魔王「な!?しれっと言わないでよ!この意地悪!!」
待って!?私、鍵をかけたから魔力は使えないんだけど!?開けたら鍵をかけた意味が無くなるし、酷くない!?
執事は既にウズウズして、その口はニヤニヤを止めきれていなかった。
執事「"はい。悪魔ですので"。さ、行きますよ。」
その低くも明るい声が魔王の背中を押し、ドラゴンの国へと向かった。




